より多くのリードを掘り起こしライフプランナー(営業社員)にバトンタッチ!

ソニー生命保険 (株) 

3つのフリーダイヤルを1つのコールセンターで受け付け

 保険金支払能力の世界的な格付け機関、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)から、日本企業としてはトップクラスの“AA−”の格付けを受けたソニー生命保険(株)は、97年4月にコールセンターを設置して、見込客との関係強化を推進してきた。
 同社では従来から、問い合わせを受け付けるために、3つのフリーダイヤル番号を用いている。ひとつはマス広告などで告知し、これを見て電話をかけてくる新規見込客に対応するためのもの。2番目は、既契約者へのダイレクトメールなどに記載し、契約内容照会、住所変更などに対応するもの。そして3番目は、本社が直接保全業務を担当している契約者からの問い合わせに対応するために設けられたものである。
 以前はこれら3つのフリーダイヤル番号に寄せられる電話には、それぞれ、マーケティング部ダイレクトマーケティング課、顧客サービス部お客様相談室、同お客様サービス室で別々に対応していた。コールセンターは、顧客対応の強化、営業の生産性向上を目的に、これらの電話を一括して受け付ける部署として誕生した。ミドルウェアとして、CTIもサポートするCIS(Customer Interaction Software)「EDGE TeleBusiness」を導入。最小限の人数で、きめ細かい顧客対応を実現できる体制を整えたのである。
 コールセンター設置にともなって、同社ではマス広告の出稿頻度を、従来の倍に拡張した。『日経マネー』などのマネー誌、『オレンジページ』などの女性誌、その他ビジネス誌などに、毎月、広告を出稿している。中でもレスポンス率が良好なのは、リクルートの『あるじゃん』だという。ほかに、貯蓄関係の専門書籍にも広告を掲載している。
 コール総数は、95年度が9,116件、96年度が1万5,246件だったのに対して、97年度は4万件を超える見込みだ。急激に増加するコールに対応しているのは、7人のテレコミュニケーター。この人数は96年度以来、変動がない。CISはコールセンターのキャパシティを広げ、高い生産性を実現したのである。

優良見込客を発掘

 さまざまな保険を組み合わせて、お客様のニーズに最適なプランを設計する“オーダーメイド”方式で商品を提供するのが同社の特徴。全国に3,500人いるライフプランナー(営業社員)は全員がノートパソコンを携帯し、個々のお客様の環境・状況にもとづき、将来の生活状況を目の前でシミュレーションしながら、商品提案を行っている。日本版ビッグバンで揺らぐ金融業界の中にあって、同社が右肩上がりで業績を伸ばしているのは、専門知識と営業経験の豊富なこのライフプランナーの活躍によるところが大きい。

ソニー広告
ソニー生命保険の雑誌広告の一例

 営業能力を発揮するためには、まず見込客を見つけ出さなければならない。ライフプランナーはそのために、多くの時間と手間をかけているのが実状だ。そこで同社では、97年9月に「コールセンタークラブ(CCクラブ)」を組織、見込客紹介システムをスタートさせた。これは、自らコールセンターに問い合わせをしてきた優良見込客情報を、ライフプランナーに通知するシステムである。
 「CCクラブ」会員は、定められた資格要件を満たし、見込客を紹介すれば間違いなく今以上の成績が上がると思われるライフプランナー、約250人。自ら開拓した見込客で目標の契約高をクリアしているライフプランナーはあえて会員からはずし、最も支援を必要としている層にサポートの手を差し伸べることで、ボトムアップを狙っている。
 従来、フリーダイヤルで得られた見込客情報は、地域ごとに振り分けて各支社にFAXで配信していた。しかしこの方式では、担当のライフプランナーが決まるまでに時間がかかり、その後、見込客に誰がいつ、どのようなアプローチをし、結果がどうなったかを把握するのが難しいという問題があった。
 新しいシステムでは、コールセンターに入った問い合わせはすべてデータベースに記録され、見込客の氏名と住所の一部が、翌朝9時に、自動的に「CCクラブ」会員のノートパソコンに一覧表示される仕組み。ライフプランナーが担当を希望する見込客を選び、「獲得」ボタンを押してエントリーすると、住所、電話番号などの属性情報とコールの内容が画面に表示される。
 リストアップされる見込客情報は、毎日コンスタントに30〜40件。「CCクラブ」会員の数を絞っているのは、1人のライフプランナーに対して、毎月2件は紹介できるようにとの配慮もある。「リード件数が増えれば、会員も増やしていきたい」(コールセンター 統括部長 高橋明義氏)考えだ。
 見込客を獲得するのは、「5分間が勝負」(高橋氏)。9時5分までにはすべての見込客の担当ライフプランナーが決まるという。
 担当となったライフプランナーは、見込客に電話をかけ、訪問して、対面でコンサルティングを行う。ここからの流れは従来と変わらない。だが、CISの活用によってコールセンターでコール履歴を蓄積することができるようになったため、営業活動はよりスムーズに進行するようになった。見込客から再びコールセンターに何らかの問い合わせがあった場合、スタッフはライフプランナーが日々、ノートパソコンからノーツのサーバに入力する対応履歴にもとづき、営業の進捗度合いに応じて最適な対応をとる。さらにそのコールへの対応結果は、速やかにFAXで担当のライフプランナーにフィードバックされる。
 コールセンターとライフプランナーの連動がより強固になったことで、営業の品質が向上し、結果としてお客様の満足度は確実に高まっているようだ。従来から既契約者が新たな見込客を紹介してくれるというケースは多かったが、特にこの見込客紹介システムを通して契約に至ったお客様は、「友人知人を紹介したい」と申し出る割り合いが高いという。
 ライフプランナーからの連絡を希望した優良見込客では、契約率は約50%に上る。「CCクラブ」会員の業績は、クラブスタート以前と比べ、約10%アップしているという。
 見込客紹介システムで得た情報をもとに契約が成立した場合、ライフプランナーは手数料の一部をコールセンターへ計上する仕組み。同社は「CCクラブ」設置の効果を、最終的にはこの手数料計上によって判断する方針だ。コールセンターが営業成績にどれだけ関与しているのかを、明確な数字で把握しようとしているのである。

“ダイレクト・セリング”をスタート

 今年4月から、同社ではコールセンターに営業拠点としての役割を持たせ、電話とダイレクトメールでクロージングまでを行う“ダイレクト・セリング”を展開する予定だ。
 コールセンターで扱うのは、内容が単純明快でわかりやすく、保険料が比較的安い商品になる予定。ライフプランナーや代理店が取り扱う商品とバッティングしないものを、通信販売用に新たに企画する。
 “ダイレクト・セリング”は、一見してライフプランナーの営業フィールドを浸食するかに見えるが、同社ではこれもリード・ジェネレーションの一環と考えている。ここで契約に至ったお客様が追加契約を希望した場合、あるいは、お客様の環境・状況を分析した結果、現在の保険だけでは不十分と判断された場合には、ライフプランナーに引き継いでクロス・セリング、アップ・セリングを図っていく。つまり、“ダイレクト・セリング”を、同社本来の“オーダーメイド”の保険販売の入口ととらえているわけである。

ライフプランナーは全員ノートパソコンを携帯。同社のサービスのパンフレッ卜もノートパソコン型にデザインされている ライフプランナーは全員ノートパソコンを携帯。聞社のサービスのパンフレッ卜もノートパソコン型にデザインされている

ライフプランナーは全員ノートパソコンを携帯。同社のサービスのパンフレッ卜もノートパソコン型にデザインされている

 “ダイレクト・セリング”開始にともない、コールセンターの受付件数は7万5,000件に膨れ上がると予測されることから、テレコミュニケーターを現在の約倍の15人に増やす計画だ。また、専門分野や応対スキルの違いによってテレコミュニケーターをグループ分けし、IVR(Interactive Voice Response Unit)を通してコールを最適なグループにつなぐ体制を整えたいとしている。また現在はコール履歴は「EDGE TeleBusiness」で、ライフプランナーの対応履歴はノーツでと別々に管理している情報を、将来的には一元化し、コールセンター、支社、ライフプランナーのそれぞれが、いつでも最新情報にアクセスできるシステムを構築したい考えだ。
 ライフプランナーをバックアップするコールセンター。同社ではアンケートなどでライフプランナーの要望を吸い上げ、これを採り入れながら、営業活動の効率化とお客様との信頼関係強化を同時に実現する体制を作り上げようとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年3月号の記事