景表法改正を機にマストバイ・キャンペーンを積極展開 「キリン一番搾り あ、森のコット。プレゼント」

キリンビール(株)

今年のキャンペーン幕開けは、主要3商品で

 ビールのトップメーカー、キリンビール(株)では、1995 年から「ビール開き」を提案。初夏、広告などでビールの美味しい季節の到来を日本中に告げるとともに、ゴールデンウィーク中に東京、大阪などの会場で試飲会や各種イベントを展開してきた。3 年目に当たる今年も同様のイベントを開催したが、今回、同社では「ビール開き」のメイン・メニューとして、マストバイ・キャンペーン「キリンワクワクプレゼント」を実施した。地理的な制約を受けず、より多くの人が気軽に参加できるキャンペーンを柱に据えることで、「ビール開き」を例年以上に盛り上げていこうというわけである。
 同社がマストバイ・キャンペーンを実施するようになったのは、ごく最近のこと。それまでのセールス・プロモーションは、マス媒体による広告、店頭で購入者に手渡すグラスなどのノベルティと、主に新製品認知を目的としたオープン・キャンペーンが主体であった。しかし 1996 年 4 月の景表法改正、これを受けた業界の内規緩和によって景品選定や広告展開の幅が広がったことを機に方針を転換。特に販売促進、顧客サービス向上などの具体的な効果が期待できるマストバイ・キャンペーンの展開に積極的に取り組みはじめたのだ。
 「キリンワクワクプレゼント」の対象商品は、同社の主力である「ラガービール」「一番搾り」「ビール工場」の 3 商品。350ml缶か 500ml缶に付いているシール 12 枚で「ワクワク電子クーラー BOX」が 1,000 人に、6 枚で「ワクワク W チェア」が 9,000 人に当たる。応募方法は、シールを応募専用ハガキか官製ハガキに貼付し、住所、氏名、年齢、性別と、キャンペーンの認知媒体を記入して送る。4 月 10 日から 5 月 15 日まで実施し、約 160 万口の応募数を得た。

“ゆっくり”をキーワードに飲み方を提案

 「一番搾り」は 1990 年の発売以来、多くの支持を得てきた。1996 年には 7,170 万ケースを出荷、「ラガービール」と並ぶ“スタンダード”に成長している。苦味の強い「ラガービール」に比べ、ソフトな口当たりが特徴だ。中心顧客層は 30 ~ 40 代の男性だが、 20 代や女性のファンも多い。
 これまで「一番搾り」は、節目節目で印象的なセールス・プロモーションを実施してきた。発売 1 年目、 2 年目の 2 回にわたって行われた「一番の日」キャンペーンでは一般生活者が新聞広告に登場してこれまでの人生で最も印象的だった一日を語り、発売 5 年目には全国の特産品をプレゼントする「おいしいとこだけプレゼント」を展開して、それぞれ大きな反響を呼んだ。

KIRIN プレゼント KIRIN プレゼント

ゆったりビールを味わってほしいという思いをこめて、アウトドア・ファンの中で人気が高まっている“コット”をプレゼント

 「キリンワクワクプレゼント」終了の半月後に当たる今年 6 月 1 日にスタート、7 月 31 日まで実施中の「あ、森のコット。プレゼント」キャンペーンは、「一番搾り」単独では初のクローズド・キャンペーンである。昨年暮れから同商品の広告コピーは“ゆっくり” をキーワードに、リラックスして楽しむビールの飲み方を提案しているが、キャンペーンのコンセプトも同様。アウトドア用の簡易ベッド、“コット(cot)” を 1 万人にプレゼントして、ゆったりと森の中で「一番搾り」を楽しんでもらいたいという願いがこめられている。応募方法は 350ml缶か 500ml缶に付いているシール 6 枚を 1 口として応募専用ハガキか官製ハガキに貼り、住所、氏名、年齢、性別、キャンペーンの認知媒体を記入して送付。1 枚のハガキで 2 口まで応募できる。キャンペーンの告知はテレビCM、新聞・雑誌・交通広告、新聞折り込みチラシ、酒販店の店頭で配る応募ハガキと、「使える媒体はすべて使って」(マーケティング本部 商品開発部 商品担当 浅野高弘氏)行った。
 広告と商品貼付のシールにはキャンペーンの詳細を音声自動応答装置で 24 時間案内する「キリン一番搾りダイヤル」の電話番号を記載。電話が混み合って話し中になることのないよう、NTT の「テレドーム」サービスを用いて対応した。5 月中旬からスタートまではキャンペーンの予告を、キャンペーン期間中は詳しい内容と応募方法をアナウンス。ここには 1 日に数百件のアクセスがある。その場で“人”が回答する必要のある問い合わせには、商品パッケージに電話番号が記載されている「お客様相談室」で応じている。
 マス広告でキャンペーンを知ってはいても、手元に応募ハガキがないとつい応募しそびれることも多いものだ。同社では期間中、店頭の状況を見ながら何度か応募ハガキを追加作成し、店頭に補充したが、その直後、明らかに応募の増加が見られたという。6月末日現在までに配布した応募ハガキは約 1,600 万枚、応募件数は約 50 万口。同社ではキャンペーン終了までに 200 万口の応募を見込んでいる。
 「あ、森のコット。プレゼント」キャンペーンとまったく時期を同じくして、「ラガービール」でもマストバイ・キャンペーン「味な鞄プレゼント」を実施中。こちらは“伝統”“本物”がキーワードだ。「一番搾りとラガー、それぞれの“世界”を明確に主張することで、顧客に“選ぶ楽しみ”を提供」(浅野氏)し、企業全体としてファンを増やすことができればいいと同社では考えている。
 同じアルコール飲料でもウィスキーやスピリッツと違い、ビールは 3 種類以上の銘柄を飲み分けている人が多く、そもそもターゲットを絞りこむことが難しい商品だ。それに加えて、同社の顧客は膨大な数に上る。「ラガービール」や「一番搾り」などの“スタンダード”な商品の顧客ということになれば、日本に住む成人すべてと言っても過言ではない。このような事情から、主にコミュニケーション・コストがネックになって、同社では現在のところ、キャンペーンへの応募者と継続的なコミュニケーションは行っていない。が、将来的には、なんらかのかたちでデータベース・マーケティングを展開したいとしている。この時には「おそらく、商品ごとにくくるのではなく、企業が一体となって顧客と情報の受発信を行っていくことが有効だろう」(浅野氏)と同社では考えている。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年8月号の記事