1冊のカタログでレンタルと販売の2つのニーズに対応

(株)ベビーリース

電話 1 本でスタート

 (株)ベビーリースの設立は 1971 年。代表取締役の山崎勝義氏の生家は、岡山県にあるベビーベッド・メーカー。山崎氏は大学卒業後間もなく、製薬会社のプロパーとして千葉県内の病院を回っていた時にベビー用品のレンタル事業を知り、生家で製造するベビーベッドと、氏が培ってきた県内の病院とのネットワークを活用したビジネス展開を志向して、脱サラで事業を開始した。
 ベビーベッドが中心のレンタル・カタログ「Nice baby」を作成。千葉県内の病院・産院に置いて、自宅で電話で申し込みを受け付けた。当時は電話設置の依頼をしても取り付けまで数カ月を要したので、実際には大家さんの電話を借りてのスタートとなった。
 事業開始後 5 年目には東京都内までサービス提供地域を拡大した。が、千葉県松戸市に本社を置く同社は、東京都内の競争では不利を強いられた。「0473」の市外局番は、電話料金がかさむということに加え、 “遠方の”企業だという印象を与える。そこで、そのマイナスイメージを払拭するために、同社では 1989 年、受注窓口にフリーダイヤルを導入した。同社では千葉県のほかに、東京都八王子市にもセンターを構えているが、同一番号で 2 センターにコールを振り分けることができるなど、フリーダイヤルは期待以上の効果を発揮している。
 現在、レンタル・サービスの提供地域は東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、茨城県の 1 都 4 県。レンタルのほかに、特価販売によるベビー用品通販事業にも着手し、1989 年に 3 億円だった年商は、1992 年には 11 億 5,000 万円と、順調に伸びていった。

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「Nice baby」は 1 冊でレンタルと販売の両方に対応。誌面半ばから“ショッピング”のページになる

通信販売を強化し、売り上げを拡大

 1993 年から 3 年間は特に通信販売に力を入れ、その結果として売り上げを約 20%ずつ伸ばしてきた。通販に限っては、サービス提供地域を全国に拡大。『たまごクラブ』『ひよこクラブ』『バルーン』『マタニティ』などに年間 10 本以上の見開き通販広告を出稿、単価の高い大型商品を販売するとともにカタログ請求を募った。同時に、それまでレンタル、および通販商品をいっしょに掲載していたカタログを分冊化。レンタルの「Nice baby」は年間約 12 万部、通販カタログ「ばぶばぶ」は 22 万部を発行した。
 しかし、その後 1995 年には、コストとの兼ね合いから、再びレンタルと通販を 1 冊のカタログに集約。現在、「Nice baby」は B5 判約 180 ページで、年間約 12 万部を発行している。雑誌広告は新製品の発売が集中する春と秋を中心に、年間合計 7 〜 8 本のペースで出稿を継続しており、誤解のないよう、カタログに“レンタル・サービスは 1 都 4 県に限る”旨の但し書きを付けて配布している。
 現在でも新規顧客開拓の最も重要なルートが病院・産院であることには変わりがない。6 〜 7 人の専任営業スタッフが、1 都 4 県の約 80%をカバーする約 900 の施設を頻繁に回り、カタログの配布・補充に当たっている。
 申し込み・問い合わせは FAX1 回線、音声自動応答装置「カンタンくん」1 回線を含むフリーダイヤルと、1 都 4 県以外の地域からのアクセスに対応するフリーフォン、合計 24 回線で対応している。ライブオペレーションによる電話の受付時間帯は日祭日を除く午前 9 時から午後 6 時まで。月曜日が最も多く、土曜日は少ないといった波はあるが、平均して1 日約 600 件の注文があり、そのうち 20 件が FAX、4 〜 5 件が音声自動応答装置によるものだ。FAX は年々増加の傾向にあり、特に送り先が何件にもわたる内祝いのギフトの場合の利用が多い。
 1996 年度の年商は、レンタルで約 5 億、通販で約 10 億の合計約 15 億円。過去 1 年間に獲得した新規顧客数は約 5 万人。レンタルと販売を合わせ、1 人の顧客の平均年間利用金額は約 3 万円となっている。

「Nice baby」とともに、特価商品を掲載したチラシや、内祝いギフト用の「ギフトコレクション」などが同封されている。また同社は「マザーズクラブ」の地区運営本部)にもなって

「Nice baby」とともに、特価商品を掲載したチラシや、内祝いギフト用の「ギフトコレクション」などが同封されている。また同社は「マザーズクラブ」の地区運営本部にもなっている

お客様とより深いお付き合いを

 通販によって商圏を全国に拡大した同社であるが、やはり“コア”はレンタルの顧客。同社がレンタル・サービスを 1 都 4 県でしか展開していないのは、商品を正しく設置し、使い方を説明し、満足して使っていただいて引き取るまでをすべて自社の社員が一貫して行っているため。商品を届ければ取り引きが完了する通販と比べて、お客様との結び付きは長く、深い。
 同社が取り揃えるレンタル商品の選定基準は、「安全」「清潔」で、買うよりも「安い」こと。必要な育児用品を網羅した、品揃えの豊富さも自慢だ。レンタル利用の多い商品は、ベビーベッド、A 型ベビーカー、ベビースケール(体重計)、ベビーバス、ベビーラックなど。いずれも1〜6カ月と使用期間は短いが、たとえばベビーベッドを借りはじめた 1 カ月後にベビーカーを重ねてレンタルし、さらにその間に数回、商品の取扱方法についての問い合わせがあるといった具合に、子どもが約 1 歳になるまで、同社と顧客との濃密な付き合いが継続するのが平均的なパターンである。
 しかしベビー用品が必要なのは、ほんの 1 年。同社では顧客との関係を一層深め、かつ、コミュニケーションを継続させていくためのサービスを模索している。
 そのひとつが妊婦のための食材宅配。栄養価が高く、食べやすいメニューをレシピ付きで届けるサービスだ。現在、食品会社とともに試作品を制作中。お客様のお宅を訪問する機会が増えることで、さらに新しいビジネスにつながる可能性も大きい。
 また、親にとっても大事な記念日である子どもの満 1 歳の誕生パーティのプロデュースや、これに関わるグッズの販売なども検討中。0 〜 5 歳の子ども向けに、海外企業と組んで特徴ある子ども服の通信販売を実施することも考えているという。
 サービスの対象年齢、メニューの幅をともに広げることによって、現在年間 5 万人である顧客数を、数年後には 10 万人にまで引き上げたい考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年5月号の記事