宿泊客との長く親しいお付き合いを

ワシントンホテル(株)

固定客獲得にポイントシステムを導入

 全国主要都市に 63 軒あるワシントンホテルでは、主に出張で利用するビジネス客をターゲットに、シティホテルクラスのサービスを提供している。同ホテルはワシントンホテル(株)と藤田観光(株)の 2社の共同事業として展開・運営されており、西日本は前者、東日本は後者の担当地域となっている。今年9 月 11 日にオープンした成田エアポートワシントンホテルを含めた全国 63軒のうち、ワシントンホテル(株)の直営店が23 、フランチャイジーが7 、藤田観光(株)の直営店が19 、フランチャイジーが 14である。
 このすべてのホテルで利用できる 「ワシントンカード」は、ホテル業界初のポイントカードとして 1978 年 3 月に発行を開始。 7 軒目の高松ワシントンホテルがオープンした年だ。故・初代会長が「頻繁に利用してくださるお客様に、お札として少しでも利益をお返しする」ための方法としてポイントシステムを発案。顧客の固定化が、その目的であった。
 「ワシントンカード」の入会金は消費税込みで 1,000 円。年会費はかからない。入会手続きは、ホテル内に設置してある申込書に名前、性別、生年月日、会社名および部署名、業種、会社または自宅の住所と電話番号を記入するだけ。
 会員にはワシントンホテルでの宿泊料 100 円、飲食費200 円につき 1点をポイントとして加算し、合計が1,000ポイントになった時点で、どのワシントンホテルでも 1 万 円 をキャッシュバックする。カード自体にクレジット機能はないが、現金払いだけでなくクレジット払いの場合でも、加算されるポイント数は同じだ。宿泊は 1 日 1室のみのカウントであるが、飲食では同席者を含むグループすべての料金に対してポイントがつく。有効期限は2年間で、その後1年間に400円の料金を払って更新手続きをすれば、そのままポイントを継続することができる 。
 キャッシュバックのほかに、日・祭日の宿泊料金20%割引、サインをするだけでチェックインがOK、誕生日に宿泊もしくは飲食を利用するとプレゼントを進呈するなどの特典が用意されている。
 会員募集は、主に各ホテルで、利用者に対して行っている。チェックインの際にフロントで、会計時に飲食店のレジで、ホテルのスタッフがサービスの説明をし、入会をすすめるといった方法である。
 そのほかには新聞と新幹線内の車額広告を活用。朝日、読売、毎日各紙に年2 回ずつ「ワシントンカード」会員募集広告を出稿。また、新施設オープン案内の広告にもカードの入会案内を掲載する。新幹線は東海道、東北 、山陽、上越などの各線で、それぞれ年1 ~2カ月ずつ告知している。

カード利用は宿泊客の約40%

 1996年7 月末現在、「ワシントンカード」 の会員数は累計で 182万4,696人。だが、このカードは貸し借りが自由なのが大きな特徴なので、実際の利用者はさらに多い。
 会員本人の属性は、男女比で76:24。年代別では20代が19.5% 、30代 が25.8%、40代 が26.4%、 50代 が18.4% である。居住地域は全国津々浦々さまざまであるが、 東京、大阪、福岡が大きな比率を占めている。
 現在、ワシントンホテル宿泊客の約43%、飲食客の約28%が「ワシントンカード」会員。この数字から、同カードが顧客固定化に大きな役割を果たしていることが見てとれる。会員歴が10年以上にわたり、何十回とキャッシュバックを受けているという会員も多い。

その場で即、発行。貸し借りも自由な「ワシントンカード」

その場で即、発行。貸し借りも自由な「ワシントンカード」

 宿泊、飲食を含んだワシントンホテルの利用者の約 90%がビジネス客。しかし同カードはあくまでも個人を対象としており、たとえば会員が所属する企業の総務部や人事部に宛ててダイレクトメールを送付するなどのプロモーションは一切行っていない。 1万人の社員を抱える大企業の中には、 100人以上 の「ワシントンカード」会員を有するところも少なくないことを考えると、会員拡大には会員の口コミが大きな効を奏しているようだ。
 ホテルでは、フロントで会員とスタッフの会話がはずんだり、飲食店で会員同士が情報交換をする光景が頻繁に見られるという。

個々の会員にフィッ卜した情報を提供

 「ワシントンカ ード」の運営はワシントンホテル(株)情報システム部のワシントンカードセンターが、広報 ・宣伝は同社ワシントンホテル事業部 営業企画室が担当。ホストコンピュータはカードセンター内に設置されており、ここに各ホテルから 1 日1 回、その前日の会員の利用データがオンラインで送られる。
 この会員情報データベースは、個々の会員のポイント数の記録・管理のほかに、イベント案内などのダイレクトメール送付先リストとしても活用されている。
 各ホテルでは、季節ごとに、またアニバーサリーなどに独自にイベントを企画・開催している。カードセンターではその都度に各ホテルからの要請を受け、イベントのターゲットに合った属性、利用データを持つ会員を抽出。ダイレクトメールの宛名ラベルを出力して各ホテルに届けている 。
 会員情報は、更新の都度、メンテナンスされている。このため、会員へのダイレクトメールが不着で戻ってくることはほとんどない。しかもロイヤリティが高い顧客ばかりなので、「ワシントンカード」会員のダイレクトメールへのレスポンス率は、外部リストに送付する場合の2 ~3倍に上るという。
 発行開始から 17年が経過し、顧客の間にすっかり定着した感のある「ワシントンカード」 。 ワシントンホテル (株)では、市場のニーズの変化を察知しながら、同カードにより大きな魅力をプラスし、一層の会員拡大を図っていきたいと考えている。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年10月号の記事