多様なメリットを永続的に提供

(株)第一勧業銀行

業界初のポイントシステム

 金利自由化などの規制緩和を受けて、ダイナミックな変容を遂げつつある金融業界各社。その中で(株)第一勧業銀行は、この 10月 l 目、取引メニューが多い顧客に、金利の優遇などの特典を付与する新タイプのサービスをスタートさせる。
 新サービスの名称は「ハートのエース」。給与振込、年金振込、ハートカード、財形預金、つみたてプランなど指定されたサービスのいずれかを利用しており、なおかつ定められたポイント数を満たしていれば、金利優遇や手数料割引などの特典を受けられるというもの。特典を受けるために必要な取り引きと、特典の内容は表の通りである。ポイントは営業店ごとに集計。同一営業店との取り引きであれば、複数の口座を合算することができる。
 これまで、各行の顧客サービスは、特定ターゲットに対して、期間を限定し、ひとつのメリットを提供するというスタイルが主流だった。たとえば、 ○ 月○ 日までに給与振込の契約をした顧客に抽選で××をプレゼントするといった具合である。

西田ひかるをキャラクターに起用した、サ ービス告知ポスタ一

西田ひかるをキャラクターに起用した、サ ービス告知ポスタ一

 「ハートのエース」はこれとまったく発想を異にしている。すなわち、「誰でも」「永続的に」「さまざまなメリットを」享受できることが基本コンセプトだ。
 多様なニーズを持つ顧客それぞれが、望むようにメリットを享受できること、それによって同行をメインバンクとして利用する優良顧客が増加することを同行では狙っている。
 国内ではもちろん、海外にも例がないこのユニークなサービスは、現在、実用新案出願中である。

申込書を兼ねた「ハートのエース」パンフレット

住所、氏名や現在のポイン卜数を明記。捺印するだけで申込書に早変わりする、パーソナライズされたダイレクトメール

住所、氏名や現在のポイン卜数を明記。捺印するだけで申込書に早変わりする、パーソナライズされたダイレクトメール

最終目標は全顧客の申し込み

 「ハ一トのエース」にはまず申し込みが必要で 、すでに8 月 1 日から受け付けを開始している。あらかじめ申し込みをする仕組みを採用したのは、サービスの認知の促進と、特典を受けるために取り引きを増やす、口座をまとめるなどの顧客の行動を期待してのこと。また、無自覚に特典を受けてきた顧客が、ある時取り引きを縮小したためにメリットを受けられなくなり、苦情につながるのを予防するためでもある。
 ポイント数が「ファーストステージ」に満たない場合でも、申し込みは自由。ポイントが20以上になった時点で、自動的に特典が付与される。常にリアルタイムでのポイント数が適用されるため、逆に取り引きが減ってポイントが不足した場合には、申し込みが済んでいてもメリットは享受できなくなる。
 サービスの告知広告はテレビ、全国主要紙、 月刊誌、週刊誌を合わせて約30の雑誌などで展開中。新聞と一部の雑誌広告には、切り取って記入し、営業店の窓口に持参してもらうための申込書を付け、レスポンスを促進した。8 月末現在で約 20万件の申し込みを獲得。申し込みは営業店の店頭と郵送で受け付けている。郵送による申し込みも連日 2,000件以上あるが、圧倒的に多いのが店頭での受け付けだ。また、同社の“お客さま照会センタ ー”、 「ハートダイヤル」の中に設置した、「ハートのエース」問合せ受付専用のフリーダイヤル窓口には 、申込方法や自分の現在の累積ポイント数などについて、 1 日数百件の問合せが寄せられている。

特典ステージ
「ハートのエース」の主な特典

 8 月 20 日には、既存顧客に対するダイレクトメールの発送を開始。すでにポイントが 10以上ある顧客、約 250万人に対し、郵便番号の若い順から、 1 日に 10 万~ 20 万件ずつ発送を行った。ちなみに 7 月末時点で「ハートのエース」の「ファーストステージ」の特典を受ける資格を持つ顧客は約 200万人、「セカンドステージ」該当者も約 20万人いたという。ダイレクトメールにはサービスの内容、利用方法のほか、累積ポイント数や住所、氏名などのパーソナルデータを印字。捺印するだけで申込書として使用できるようにした。
 マスメディアを利用した広告は、今後も「ハートのエース」を中心に展開する予定。店頭での申込促進にもより一層力を入れ、最終的にはすべての顧客から申し込みを受け付けることが目標である。

顧客情報をDM戦略に生かす

 勘定系のコンピュータ・システムでは、リアルタイムで顧客ごとの属性情報を把握することは難しい。しかも「ハートのエース」で重要なのは、取引金額ではなく、取引メニューごとに振られたポイント数。約 1,200万の口座を、常時リアルタイムで管理するために、同行では数億円を投じてコンピュータ・システムの再構築を行った。
 システム整備にかかるコストや手間だけを考えても他行の追随は容易でないことがうかがえるが、早かれ遅かれ同様のサービスが多数出現するだろうと同行では見ている。競争力を維持するために、顧客の利用動向を分析、また業界動向や海外情報をウォッチしながら魅力的な特典を付け加えていく構えだ。「ハートのエース」が個人向けサービスの根幹であり続けることは間違いないが、「具体的な中身については柔軟に変更を加えていく」(業務開発部 業務開発グループ 部長代理 伊藤淳一氏)。
 さらに同行では、この顧客データベースを活用して、積極的にダイレクトマーケティングを展開していきたい考え。
 口座開設に最低限必要なのは、住所と氏名のみ。これまでは生年月日や性別などの基本的なデータについても、せいぜい 70% しか把握されていなかった。このため個々の顧客に対するアプローチは、定期預金の満期日案内のダイレクトメール送付など、ごく限定された場面でしか行えなかったのが実状だ。
 しかし「ハートのエース」の申込書などをもとに、パーソナル・データの追加、メンテナンスを推進し、これを顧客情報システムやテレマーケティング・システムで管理・運用することによって、きめ細かなマーケティング活動をシステマティックに展開することが可能になる。たとえば、「ハートのエース」利用者がファーストからセカンド・ステージにアップした時点で、その案内と利用促進のオファーをしたり、新社会人に対して「ハートカード」入会や給与振込をおすすめするといった具合だ。
 銀行も“個性”の時代。「ハートのエース」の登場は、金融業界が迎えた新局面を象徴的に示していると言えるかもしれない 。

新聞に掲載されたタイレク卜・レスポンス広告。申込書が添付されている

新聞に掲載されたタイレク卜・レスポンス広告。申込書が添付されている


月刊『アイ・エム・プレス』1996年10月号の記事