ゴールドポイントカードが築く顧客との“親密な関係”

(株)ヨドバシカメラ

良いお客様に利益を還元

 (株)ヨドバシカメラが「ゴールドポイントカード」の発行を開始したのは、 1991 年 11 月のことだ。この年同社では、商品データベースの構築、全店への POS システムの導入を完了し、在庫のリアルタイム管理を実現。次に必要なのは、同じコンピュータ・システムを活用して、顧客により高い付加価値を提供することであるとの考えからスタートしたサービスであった。
 同杜がカメラや電化製品などの商品を安価で提供しているのは周知の事実。その安さが多くのファンを惹きつけてきたことは間違いないが、ディスカウンターが増加する中、安いだけでは他社との差別化を図ることは難しくなっている。店頭価格を単にこれまで以上に下げるのではなく、既存の優良顧客に利益を還元しようと同社では考えた。東京・新宿に出店したばかりの CD (コンパクトディスク)専門店に、「同じヨドバシカメラが経営しているのに、なぜカメラは安くて、CDは定価販売なのか」という顧客からの意見が寄せられていたこともポイントカード導入のきっかけになった。
 「ゴールドポイントカード」導入と同時に、それまで行われていた店頭での交渉による値引きを取りやめ、顧客間の不公平をなくした。その上で、購入金額に見合ったポイントが加算されるポイントカードを導入。お客様が、平等に利益を享受できる仕組みを作り上げた。
 ターゲットは同社の既存顧客。そのため、会員募集告知はマスメディアなどを使わず、店内に設置したポスター、チラシ、 POPと、お買い上げいただいたお客様にレジで入会をお勧めする方法で行った。入会希望者は申込票に住所、電話番号、氏名、性別、生年月日を記入するだけ。申し込み当日の買い物からポイントが加算される。その結果、会員は月間約 10万人ずつ増加、スタート1年で 100万人を突破。現在では約 660万人を数える。
 レジでは必ずカードの有無をお客様に尋ねているが、10 人中 9人が「ゴールドポイントカード」利用者であるという。

家電量販店のポイントカードの先駆けとなった「ゴールドポイントカ ード」

家電量販店のポイントカードの先駆けとなった「ゴールドポイントカ ード」

銀行の「総合預金口座」を意識したサービス・システム

 会員が商品・サービス購入の際に「ゴールドポイントカード」を提示すると、現金の場合には特価からさらに 5%、クレジットカードやローンの場合には 3% のポイントが登録される。 DPEやキャンペーン商品など、 10%のポイントが還元される商品・サービスもある。
 ポイント数などの顧客情報は、その顧客が登録されている店舗と、本部のホストコンピュータの 2箇所でリアルタイムで更新・管理されている。店舗で情報を更新すると、オンラインでホストコンピュータの情報も自動更新される仕組みだ。逆に、例えば新宿西口店で登録された会員が札幌店で買い物をしたというような場合には、まず本部のコンピュータから顧客情報をダウンロードして更新し、それが新宿西口店の顧客情報データベースに反映されることになる。
 常に最新の情報が登録されているので、例えば新宿西口店で買い物をした会員が、 10分後に東口店で 10分前に獲得したポイントを使うことも十分可能である。実際に人気のゲームソフトの発売日などには、そのような利用が多いのだという。
 システム開発の際、同社では「銀行の総合預金口座をイメージした」(常務取締役 システム開発部長 栗山豊氏)。ポイントは翌日から使うことができ、 2年間有効。その間、銀行口座にお金を出し入れする感覚で、貯めたり引き出したり、自由にカードを使いこなしてほしいという主旨だ。
 会員の中には「ポイントが貯まったら子どもにファミコンソフトを買ってやろう」というように目標を定めて、計画的にカードを使っている人も多いという。「ゴールドポイントカード」は顧客サービスの向上だけでなく、販売促進にも一役買っている。
 また、貯まったポイントをこまめに使いたいタイプの会員は、フィルムや電池などを目当てに来店する。店舗側の心情としては、差益高の大きい高額商品の販売に力を入れたいのは山々。だが、カメラを買ったら次に必要になるのは、これら、単価の低い小さな商品群なのだ。会員の購買動向からこのようなニーズが明らかになるにつれ、これまで疎かになりがちだった消耗品の品揃えに各店が目を向けるようになったことも、カード導入の効果のひとつである。小物が賑やかに並ぶ店頭は、親しみやすく入りやすい。品揃えの見直しが、新規顧客獲得にも効を奏しているようだ。

アンケートハガキに数万のレスポンス

 同社では 660万人の会員を RFM分析によりセグメント。130 万~ 150 万人の会員に、年4 回発行している会員誌『Point Network』を郵送している。セグメントの際に重視しているのは、最終購入日、購入頻度、累積購入金額の順である。このため、住所が変わっていて配達できないなどの不着率は非常に低いという。

セグメン卜された会員 130万~ 150 万人に送付される会員誌 『Point Network』。カメラに関する情報が主体で、プロ級の腕前の人にも、初心者にも楽しめる誌面構成がなされている

セグメン卜された会員 130万~ 150万人に送付される会員誌 『Point Network』。カメラに関する情報が主体で、プロ級の腕前の人にも、初心者にも楽しめる誌面構成がなされている

 『Point Network』はA4判、約 140ページ。上手な写真・ビデオの撮り方、目的別のカメラの選び方などを、主に初心者向けに解説する記事や、「ゴールドポイントカード」の使い方や期間中 10% のポイントが還元されるキャンペーン商品告知などが掲載されている。何度かリニューアルを重ね、今年の秋で30号目を迎えるこの会員誌の発行目的は、“安かろう悪かろう”のバッタ屋とは明らかに違う、同社の経営姿勢を知ってもらうこと。「極力『売らんかな』の姿勢を排除した誌面づくり」(栗山氏)をし、したがって通信販売なども行っていない。「ゴールドポイントカード」は、あくまでも全国 22 カ所の店舗と、そこを訪れる 1 日平均約7万人、月に約 200万人の来店客のためのサービス・システムなのである。
 同社の顧客は、カメラを趣味とする 25 ~50歳の男女が中心。カメラ好きとは言ってもプロ、あるいはプロレベルの技術者は圧倒的に少なく、一般、あるいはそれよりやや高いレベルの人がほとんどである。これらの顧客をつなぎとめるためには、専門知識・技術に明るいことはもちろんであるが、生活必需品を扱う小売店同様に、接客技術や顧客サービスを充実させることが必要だ。
 小売業の存在価値は、商品にいかに“付加価値”を付けられるかにある。「社員には、売り上げばかりを考えるな、付加価値が我々の利益であり、その中から給料が出るのだと口を酸っぱくして言っている」(栗山氏)という。お客様が納得する“付加価値”を提供できているか、すなわち顧客満足が達成されているかどうかに、常に目を光らせていなくてはならない。
 『Point Network』の最終ページには数種類のハガキが綴じ込まれている。その中のひとつ、店舗についての意見を募る「社長室行き」のハガキが、同誌発行直後には 1 日2,000~3,000通、号当たり数万通寄せられる。その内容は送付先変更、新サービスを利用した感想、店員の態度へのクレームなどさまざまだ。このハガキは社長がすべて目を通した後、各店舗の店長宛てに送付。同時にお客様サービス部のスタッフが内容別、店舗別に集計、レポートを作成している。多岐にわたるニーズのすべてに即座に対応策を講じることは不可能だが、スタッフが直接お客様の生の声に触れ、常に見られているという意識を持つことそのものが顧客対応レベルの向上に役立っているようだ。
 フリーアンサー欄に細かくびっしりと書き込まれた文字に目を落としながら、「お客様にも『自分のことを知ってほしい』という願望があるのでしょう」と栗山氏は語る。「ゴールドポイントカード」は顧客満足度はもちろん「“顧客親密度”を高めた」(同氏)のである。

データに基づいた正確な需要予測を展望

 同社のコンピュータ・システムは、 1992年 12 月に日刊工業新聞からシステム大賞奨励賞を受けたほどの自信作。商品別、会員別のセグメントに柔軟に対応できる。例えば、ある特定の期間に限り、ある店舗で、特定の商品のポイント数を 2倍にするといった指定が自由に行えるのだ。同社ではくじを引くとポイントが当たる“ポイントくじ”を、キャンペーンなどの際に店頭で行っているが、当たったポイント数をその場で入力、加算することも容易だ。ホストコンピュータは日本ユニシス、各店舗に設置されているワークステーションは日本電気の製品を採用している。
 このシステムを活用し、さらにメーカーを巻き込んで、正確な需要予測に基づいた販売計画を立てられるようにしていきたいと同社では考えている。顧客サービス向上のためにも、過剰在庫などの無駄を省くことが肝要である。
 「当たり前のサービスとして定着していて、今では目新しさは薄い」と栗山氏は謙遜するが、約5年間蓄積してきたデータが力を発揮するのはいよいよこれからだ。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年8月号の記事