メーカーとしてのお客様相談〜商品情報を重視

日産自動車(株)

 日産自動車(株)が国内営業部門の中に「お客様相談室」を設置したのは 1983 年9 月。 1974年4 月に設立され、スタッフ 5名体制で相談業務に当たっていた、販売事務局内の消費者相談係がその前身であった。 1988 年には大阪に分室を設け、 1991 年 1 月にはフリーダイヤルを導入、エンジェルと呼ばれる女性スタッフを増員し、より積極的な生活者ニーズの収集に乗り出した。現在スタッフは、東京、大阪を合わせて 50名を数える。生活者から寄せられた相談内容を分析して課題を明らかにし、適切な対策を講じることが「お客様相談室」の役割だ。生活者の声は商品開発、また、商品、サービス、社内組織の改善に活かされている。
 フリーダイヤル番号の告知は、カタログと取扱説明書で行っている。新聞・雑誌広告には、販売会社が見込客情報を直接収集できるよう、各エリアの販売会社のフリーダイヤル番号のみを告知している。
 相談受付時間は平日の午前9 時から 午後5時まで(正午~午後1 時を除く)。休日の受付体制の整備が課題になっているが、「休日出勤が生じるなど、社員の勤務体系がネック」(お客様サービス本部・お客様相談室・室長・石井弘志氏 )になっている。
 現在、電話相談に応じるエンジェルは 16名。自動車の性能など技術的側面に関する相談が多いだけに、エンジェルには、すべての車両の性能・仕様・機能に関わる高度な専門知識と、問い合わせ内容を正確に把握し、的確な情報を検索する能力が求められる。電話応対のプロというよりも、むしろ“技術者”と呼ぶに相応しい。
 エンジェルがデータベースの端末を前に、個々の電話相談に応対する仕組みを、同社では「エンジェルシステム」と呼ぶ。キーボードを操作すると、商品情報が蓄積された相談応答用データベースから必要な情報が画面に表示されるシステムで、スピーディーな対応をサポートしている。エンジェルシステムの情報のやり取りには、誰にでも簡単に操作できるイメージ入出力装置が使われている。また、同システムには「販売会社検索システム」「Q&A検索システム」「車情報検索システム」「問い合わせ分析システム」「改善支援システム」 の5つのサブシステムがあり、迅速な情報の検索と集計に役立っている。詳細な調査資料が必要とされる問い合わせについては、一度電話を切り、国内サービス部、海外サービス部、品質保証部など各セクションの協力を得て回答を用意した上で、相談室から改めて電話をかける。

生活者ニーズに応え、後部荷室側面にキャンプ用品やアウトドア用品を接続できる予備電源コンセントを設置した。写真は「アベニール・サリュー」

生活者ニーズに応え、後部荷室側面にキャンプ用品やアウトドア用品を接続できる予備電源コンセントを設置した。写真は「アベニール・サリュー」

 生活者から寄せられる相談は、問い合わせ、意見、クレームに大きく分類するとともに、商品、ブランド、カテゴリー別に集計 ・分析されている 。相談内容は 受け付け後4 日以内にデータベースに入力され、各担当部署の端末から常時引き出せるようになっている。特に開発担当者は、商品の改善や改良などのヒントとして頻繁にこの情報を活用しているという。また、郵便による意見やクレームについては、随時、担当役員がチェックする体制をとっている。緊急の対応を要する場合は、「改善対策依頼」を直接担当部門に提出している。これまで、生活者の情報をもとに、車両の内装にいくつかの改善を加えてきた。 1994年9 月に「アペニール・サリュー 」に設置したのを皮切りに、キャンプ用品やアウトドア用品を接続できる予備電源コンセントをワンボックスカーやワゴン車、 RV車の後部荷室の側面に設けた事例などがある。
 現在月に約 8,000件の電話と、約 260通の郵便による相談が寄せられている。ほかに、わずかではあるがインターネットでの相談もある。このうち商品購入前の相談は全体の32% 、購入後の相談が68% ほどである。また、「車幅を教えてほしい」というような「問い合わせ」が77%、内装のデザインなどについての「意見」が 14%、「クレーム」が8%となっており、商品の性能・部品など技術的な相談が全体の31% を占める。相談件数はフリーダイヤル導入を境に月6,700件ほどだったコール数が月 8,000件に跳ね上がり、その後はほぼ横ばいの状態だ。相談者の約半数は首都圏居住者であるという。
 エンジェルシステムの究極の目的は、お客様の満足度の向上だ。具体的には①正確・迅速・親切な応対、②商品・サービスの改善、③EDP (Electronic Data Processing)化を実現し企業イメージをアップすることだ。また、同社では応対のスピードアップ、質的向上を図るために、スタッフの増員を検討している。今後はアプローチメディアもますます多様化していくことが考えられ、これにスムーズに対応していくためにも「人」の確保が優先課題と考えているのだ。「現場スタッフ、特に商品開発スタッフとお客様との間のイメージ・ギャップを縮めることが、顧客満足度向上の道」(お客様サービス本部・お客様相談室・室 長・石井弘志氏)。企業と生活者のインターフェース、お客様相談室は、この実現のための中心的役割を担っているのだ。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年6月号の記事