コミュニケーションを基盤にした販売システムを構築

(株)アユーララボラトリーズ

東洋の生命観を最先端技術で提供

 (株)アユーララボラトリーズは、 1994年10月に設立された化粧品メーカー。従来とまったく異なる商品コンセプトと販売方法で話題を呼んでいる注目企業である。
 同社が指向しているのは、21 世紀に望まれる新しいタイプの化粧品。ユーザーが本当に欲しているものを、これまでの化粧品の概念にとらわれずにーから開発した。
 一昔前と比べ、女性を取り巻く社会環境や生活環境は著しく変化した。これに伴って肌のトラブルは複雑化、深刻化している。たとえばこれまで脂性肌に多いとされてきた吹き出物が乾燥肌の女性をも悩ませているといった現状が、商品開発に先立って行ったデプス・インタビューで得られた定性情報によって、次々と明らかになった。 これがオフィスの空調、紫外線、さらには仕事のプレッシャーや人間関係などいくつもの要因が絡み合った結果であるとすれば、その解決には心も含めた全身のケアが必要である 。同社の製品は気( エネルギー )、血(血液循環) 、水 (体液代謝)を重んじる東洋医学を基本に据えたコンセプトと、最先端の製造技術の融合によって生まれた。
 1995年3月、東京都内に第1号店を開店するタイミングに合わせ、エリア情報誌にショップ紹介やブランドコンセプトを告知する広告を展開。店舗網が関西、九州地区にも拡大した現在では、主要女性誌にも広告を掲載し、ファンを増やしている 。

ほしい情報が自由に持ち帰れる店舗づくり

 前述の調査結果から、化粧品の販売方法に対する不満も浮き彫りになった。「化粧品コーナーに行くと、買わないと悪い気がして質問するのをためらう」、「本当はもっと相談したいことがあるのに、自分のペースで話せない」といったことである 。
 店舗数は3月末日現在、10店。全国大都市圏の百貨店、専門店にインショップ展開している。この店舗の設計にもユーザーのニーズを最大限に生かした。専門の教育を受け、化粧品や肌の知識を収得した“パートナー”がカウンセリングに応じる「対話スペース」と、自由に商品を試すことができる「体感スペース」をはっきり区別したことだ。これによって「じっくり相談したい」というはじめての来店客のニーズにも、「時間をかけずに目的の商品がほしい」というリピート客のニーズにも、同時に応えることができる。
 まずカウンセリングを行って肌に合った商品のサンプルを提供し、納得した後で購入していただくのが同社の販売の基本。「対話コーナー」ではパートナーがフランクに相談に応じ、即商品の購入を勧めるのではなく、商品サンプルと、対応したパートナーの氏名が入った“コミュニケーションハガキ”を渡している 。
 「体感コーナー」には自分自身でほしい商品情報を取り出したり、画面上で口紅の色などを試せる“タッチセンサー”が設置されている 。メニューは①ジャンル別に商品リストが取り出せる「商品情報」、②東洋医学からヒントを得た美容法を解説する「内側からきれいになる美容法」、③現代女性の悩みに応える化粧のポイントを解説する「美しさを引き出すメーキャップ法」、④問診に答えて自分で自分に合った商品がわかる「あなたにお奨めの商品」、⑤ファンデーションや口紅を実際につけた時の印象を画面上で試せる「メーキャップ体験」の 5 つに分かれており、プリントアウ卜した情報を持ち帰ることも可能。ユーザーがほしい情報を自由に引き出せるばかりでなく、ここに入力された顧客情報は同社の貴重な資料として活用されている。

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自由に商品を試したり、“タッチセンサー”で肌の自己診断をすることができる店舗の「体感コーナー」。パートナーに相談したい人は、「対話コーナ-」へ

“タッチセンサー”の画面。簡単な操作でほしい情報を検索し、プリントアウ卜して持ち帰れる

“タッチセンサー”の画面。簡単な操作でほしい情報を検索し、プリントアウ卜して持ち帰れる

独自の消費者ネットワークを組織

 商品開発にも販売方法にも、ユーザーの生の声を反映させるのがアユーラのポリシー。これを実現するために、同社では設立翌年の 1995年 2 月から 1 年間、独自のネットワークを“ご意見番”として組織 した。
 「東京都内の企業に勤務する 20 ~ 30代の高感度な女性」を条件に 100名を募集。具体的には同社が従業員 1,000名以上の企業をリストアップし、先方に出向いて主旨を説明した上で適任と思われる社員を推薦してもらい、ひとりひとり面接を行って選抜した。スタート当初はまだ店舗もなく、企業の知名度が低かったため、理解を得るのに一苦労だったという。
 メンバーの主な活動は、年 4 回の ミーティングへの参加だ。 ここで開発中の製品の感想や 、ルージュやシャドーなどの好みの色、ショップについての意見などを収集。商品開発の方向性の決定や、ショップの運営方法の改善に生かしてきた。
 ミーティングのプログラムには香りの専門家やメイクアップ・アーテイストなどによるセミナーが組み込まれているが、そのほかにネットワークのメンバーへの謝礼は特にない。だがメンバーの意識は高く、欠席するメンバーはほとんどいなかったという。
 第 1 期のメンバーは今年 1 月で解散し、今年はまったく別のメンバーで、東京 100名、大阪50名を組織。前年同様に積極的な活動を展開する予定である。

定性情報を受けとめる6つのチャネル

 店舗に設置されたタッチセンサーや独自で組織したネットワークばかりでなく、より多くの顧客、見込客の意見を収集するために重要な役割を果たしているのが、同社の“コミュニケーションスタジオ”だ。8名のパートナーが、カウンセリングやサンプル請求、ショップの案内などに対応している。
 コミュニケーションスタジオとユーザーを直接つないでいるメディアは 4 つある。
 ひとつは電話。平日の午前 10時から午後 6 時まで、フリーダイヤルで受け付けている。ブランド・ターゲットである働く女性の便宜を図り、スタート当初は夜間や休日にもスタッフが待機していたが、この時間帯のアクセスが予想に反して少なかったために、現在の体制に落ちついた 。
 2 つ目がFAX。商品リスト、ショップ紹介、サンプル請求などのメニューの中からほしい情報をいつでも好きな時に取り出せる。ひとつのメニューに対する回答は、 A4判1 ~ 3 枚にまとめられている。
 3 つ目がパソコン通信だ。People Net上に 『アユーラ コスメネット』、NIFTY Serve上に『アユーラ コスメステーション』を開設し、パソコンネットの会議室の機能を活用してモニターに自由に商品の感想などを記入してもらっている 。
 もうひとつは店頭でサンプルとともに手渡したり、サンプル請求者や顧客に送付する情報紙に同封しているコミュニケーションハガキ。 書くのが面倒だろうとフリーアンサー欄を最低限にとどめた同社の配慮と裏腹に、欄からはみ出すほど意見をしたためるユーザーが多く、返送率は約15% に上っているという。

担当したパートナーの氏名を入れて、店頭で手渡す「コミュニケーションハガキ」。返送率は 15%に上る

担当したパートナーの氏名を入れて、店頭で手渡す「コミュニケーションハガキ」。返送率は 15%に上る

 ちなみに前述の情報紙は、ブランドコンセプトに対する理解促進、新製品の案内などを目的に発行しているもので、店頭配布と送付の割合が約 5:5 。新聞サイズ 1ページで 、年 4 回の発行、 1 号当たり 10万部を作成しているという。紙面には製品開発者に対する顧客からの質問をはじめ、「店舗が混んでいて十分なカウンセリングが受けられなかった」など一見同社のマイナスと思われるような意見も取り上げられ、担当者のコメントとともに紹介されている。
 昨年 2 月から 12 月までに寄せられた定性情報は、フリーダイヤル電話が 1 万4,587件、 FAXが8,201 件、パソコン通信が1,197件、ハガキ が4,656件、店頭設置のタッチセンサーが 1 万5,697件、ミーティングなどで得られるネットワークのメンバーからの情報が2,316件の計 4 万6,924件。 この情報は阻時コピーし、社員全員で回覧してきた。
 しかし今後は、店舗数の拡大などによりますます件数が増加すると見られることから、現在新しいシステムを検討中である。これまでの経験から、定性情報がいくつかのパターンに分類できることがわかっているため、これを基に集計フォーマットを策定することを考えているという。

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顧客に送付する機関誌上でも、商品に関する質問に開発者が回答するなど 2WAY コミュニケーションが展開されている


月刊『アイ・エム・プレス』1996年4月号の記事