コンタクトセンター最前線(第138回):スケールメリットを生かしてプロセシング業務を効率化 コール対応は共感や理解を重視

(株)クレディセゾン/(株)キュービタス

クレジットカード会社大手の(株)クレディセゾンでは、コールセンター運営を、プロセシング業務を専門とする関係会社の(株)キュービタスに全面委託。キュービタスでは、同業他社の業務・システムを総合的に運営することで、スケールメリットを生かした効率化を実現している。

同業他社の業務も受託するサードパーティー・プロセッサー

 「年会費永久無料」「サイレンス」「永久不滅ポイント」など独自のサービスで知られるクレジットカード会社大手の(株)クレディセゾン。同社では1980年代から会員の問い合わせに対応するコールセンターを運営してきたが、2008年4月からは関係会社の(株)キュービタスに運営を全面委託し、今日に至っている。 
 キュービタスは、2007年10月、(株)クレディセゾン、(株)みずほ銀行、ユーシーカード(株)が提携し、設立されたクレジットカードのプロセシング業務を担う会社。コールセンター業務のほか、クレジットカード入会時の審査や信用管理の事務処理、システム運営などを担っている。
 キュービタスという社名は、量子コンピューティングの計算単位である「キュービット」と、「いつでもどこでも繋がる」といった意味を持つラテン語の「ユビキタス」を掛け合わせた造語で、コンピュータと人が融合する次世代のイメージを想起させることを狙っているという。
 クレジットカード業界では近年、再編が進み、一層の業務効率化が求められてきた。そこでキュービタスでは、こうした時代のニーズにも対応し、同業他社などから幅広くプロセシング業務を受託しており、「サードパーティプロセッサー(TPP)」と呼ばれる独自のポジションを確立している。
 現在、キュービタスがプロセシング業務を受託するカードとしては、「セゾンカード」「ユーシーカード」のほか、両社が提携するクレジットカード会社並びにデビットカード、ETCカードといった多様な決済サービスがある。発行済みカード枚数ベースでの取扱規模は、約4,100万枚となっている。
 キュービタスでは、プロセシング業務を安定的かつ継続的に運営し、スケールメリットを生かして効率化を図るため、大規模な基幹システムを中心としたビジネスプラットフォームを構築中。また、コールセンターは、「東京インフォメーションセンター」と「大阪インフォメーションセンター」の2カ所に設置しており、利用層の年代や性別はカードの種類によって異なるものの、世代や性別を問わず、あらゆる層から寄せられるさまざまなコールに対応している。

「コミュニケーション課」と「ロイヤルカスタマー課」

 コールセンター業務の東日本の拠点である東京インフォメーションセンターは、2004年に竣工した東京都中野区のインテリジェントビルに置かれる。免震構造やITセキュリティシステムを備えた施設で、電話応対に当たるコミュニケータの声が顧客に聞き取りやすいよう、気流感のない空調システムなどを採用している。
 コミュニケータの席数は約450席。部門長をトップに、課長7人、係長10人、スーパーバイザー(以下、SV)27人が配属され、約500人のコミュニケータが在籍している。1人のSVが、15~20人程度のコミュニケータを管理する格好だ。コミュニケータの雇用形態は、半数が直接雇用の社員、残る半数が派遣社員によって構成されている。
 なお、同センターには、コミュニケーション課とロイヤルカスタマー課の2部門があり、コミュニケーション課には約400人、ロイヤルカスタマー課には約100人のコミュニケータを配属。各課の担当業務は図表の通りだが、主力のセゾンカードについては、スタンダード会員からのコールにはコミュニケーション課が、ゴールド会員からのコールにはロイヤルカスタマー課が対応している。

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 セゾンカード会員からのコールは、IVRに着信し、会員番号と暗証番号の入力により顧客認証を行った上で、①請求額や残高、利用可能額などの照会、②支払額の変更、③ポイント・資料請求、④引き落とし口座などの変更、⑤オペレータによる案内、⑥振込融資、⑦ETC申し込みの7つのメニューの中からプッシュボタン操作で用件を選択してもらう仕組み。⑤のオペレータによる案内を選択した場合には、各インフォメーションセンターのコミュニケータにコールを転送、リアルタイムで対応している。コール受付時間は、元日を除いて、曜日や祝日にかかわらず、午前9時から午後5時まで。
 同センターの受電件数は、月間約30万件の水準。内訳は、スタンダード会員とゴールド会員それぞれからの受電件数が、おおむね9対1程度の割合という。
 毎月の受電件数の推移を見ると、会員の銀行口座から利用金額が引き落とされる決済日直後の数日間と、利用明細発送後の1週間程度に増加する傾向がある。
 これら2つのピーク時に寄せられる問い合わせ内容はそれぞれに異なっており、決済日直後には、「引き落としが問題なく行われたか」「入金が間に合わない場合はどうすればよいか」といった問い合わせが多いのに対し、利用明細発送後には、「支払い方法を変更したい」「請求内容を確認したい」といった請求に関する問い合わせが多い。特に何らかのトラブルが疑われる場合には、個別案件の調査を専門とする部署と連携してバックエンドで速やかな処理を進めつつ、フロントエンドでのお客さまとの電話対応はセンター側が一貫して担うかたちで役割を分担している。

ゴールド会員向けにはフリーダイヤルで受け付け

 実際の業務について見ると、スタンダードとゴールドそれぞれの会員からのコールは別々の電話番号で受け付けている。スタンダードカード会員向けには、利用者にも通話料の一部を負担してもらうNTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを利用する一方、ゴールドカード会員向けには、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを採用。ゴールドカード会員には本人の通話料負担をなくすことで、サービスの付加価値を高めている。なお、スタンダード会員向けには、当初は一般加入回線を利用していたが、数年前からは、お客さまからの問い合わせにより迅速に対応するため、全国に複数あった電話番号を一本化し、ナビダイヤルに変更した。
 スタンダードカード、ゴールドカードとも、会員からのコールの大半は、利用明細の内容照会や住所など登録情報の変更となっている。ただし、特にゴールドカードでは、クレジットカード機能以外の付帯サービスが充実していることから、こうしたサービスに関連して、「カードに付帯されている特典内容」や「海外旅行傷害保険」に関する問い合わせといったコールが目立つ。
 また最近では、Webサイト上などで特定の条件をクリアするとポイントを付与するタイプのキャンペーンが増加していることから、こうしたキャンペーンを機に、ポイントの蓄積方法や利用方法について問い合わせてくる会員も少なくない。近年、会員のキャンペーンへの関心が高く、キャンペーン内容をWebサイトで公開するや否や、問い合わせのコールが寄せられる傾向にある。
 特にゴールドカード会員には、中高年や高齢の利用層も多く、パソコン操作などITリテラシーにもばらつきがあることから、担当コミュニケータは事前にキャンペーン内容はもちろん、Webサイトの操作方法などをマスターしておくことが不可欠。スタンダードカード担当者よりも、幅広い業務知識やスキルが求められる。
 なお、会員向けの電話番号はいずれもWebサイト上で公開されているため、既存会員からの問い合わせ対応に加えて、新規入会を希望するお客さまからの問い合わせ対応や入会手続きの案内も行っている。また、クレディセゾンの公式Webサイトにある問い合わせフォーム経由のeメールにも対応している。

先入観を持たずにお客さまの声に耳を傾ける

 スタンダード会員、ゴールド会員を問わず、何らかのトラブルに直面して電話をかけてくるお客さまの応対には、特に注意を払っている。「覚えのない買い物代金が請求されている」といった事態に直面したお客さまは、混乱しているケースが多い。適切に対応できないと、心証を損ねるばかりか、同社に対する信頼を損なうことにもなりかねないからだ。
 こうしたコールに対応するコミュニケータは、第一に、お客さまの訴えに注意深く耳を傾けることを重視している。先入観を持たずに、お客さまが何を伝えようとしているのか、どのような気持ちなのかをイメージし、共感するように努めているのだ。
 そして、お客さまの立場になって、「それでは、ここは確認されましたか」といったサジェッションをさりげなく投げ掛けるなど段階を踏むことで、共通認識をベースにお客さまとの心理的な距離感を縮めていく。 
 こうしたスタンスを貫くことで、ふとしたやり取りがきかっけになって、お客さまの混乱が解消し、スムーズにトラブルを解決できるケースも少なくないという。

「人材育成チーム」を編成しゴールド会員対応のスキルを底上げ

 全体で約500人のコミュニケータが在籍する大所帯の同センターでは、新人コミュニケータの育成などの教育も運営上の大きなテーマとなっている。
 新人コミュニケータはまず、5日間の初期研修で基本的な応答スキルを学び、次に、登録情報の変更といった比較的難易度が低い各種照会業務のOJTを1カ月半ほど経験する。その後、10日間の総合研修でより詳しいサービス内容や電話応対の多様なスクリプトについて学んだ上で、新人を手厚くケアできるように人員数に余裕を持たせた“新人チーム”に1~2カ月間、配属され、OJTを通じて着実にスキルを身に付けていく。
 その後のフォローアップ・トレーニングとしては、グループごとの研修、全コミュニケータを対象とした集合研修の2つのタイプがある。前者は新サービス導入時などに各SVが必要に応じて実施。後者は、敬語の上手な使い方、お客さまの気持ちをくみ取る傾聴力など、すべてのコミュニケータに求められるスキルをテーマとしている。
 このほか、ゴールドカード会員に対応する窓口では、新人コミュニケータの育成を目的とした、新人育成チームも編成。メンバーには、ベテランの先輩コミュニケータもおり、日常的なコミュニケーションを通じた新人コミュニケータの効率的、効果的なスキル習得を実現している。

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東京インフォメーションセンターでは500人のコミュニケータがお客さまからの電話に対応している

成功事例をピックアップし「センター会議」で水平展開

 コミュニケータの評価システムとしては、人事部主導の全社共通の人事考課制度に加え、コールセンター内の専門教育チームによるコールのモニタリング評価を実施しており、これらの結果に基づき、各コミュニケータのスキルを評価。意欲ある有能な人材には、SVをはじめとする管理層への登用など、キャリアアップの道も用意している。
 また、センター運営のKPIには、応答率を採用。具体的な数値は非公開だが、現状では、何らかの外部要因によりコールが一時的に集中するような場合を除いては、ほぼ目標を達成できているという。
 応対品質の向上に向けた取り組みとしては、係長以上の関係者約20人が参加するセンター会議を月例で開催。同会議では、特にコミュニケータの適切な応対によってトラブルやクレームが解決できた成功事例をピックアップ。実際のやり取りの録音を流し、出席者がそのやり取りをつぶさに検討して、“成功のカギ”を探っていく。検討結果はSVを通じて、関係するコミュニケータと共有することで、日々の業務の改善に生かしている。
 キュービタスでは今後とも、同業他社からのプロセシング業務の新規受託に積極的に対応していきたい考え。コミュニケータのスキルアップを目指す教育プログラムや応対品質の改善活動に継続的に取り組むことで、プロセシング業務に特化した同社に対する対外的な評価を一層高めてきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年5月号の記事