コンタクトセンター最前線(第132回):レベニューマネジメント実践の最前線として予約センターを開設

(株)プリンスホテル

大規模な都市型ホテルやリゾートホテルを全国展開する(株)プリンスホテルは、販売機会ロスの低減やお客さまの利便性の向上を目的に、宿泊予約の電話などに対応する「プリンスホテル予約センター」を今年7月に稼働させた。単に予約を受けるだけのコールセンターではなく、戦略的に収益を最大化するレベニューマネジメント実践の最前線と位置付け、きめ細かなクロスセルやアップセルへの対応を目指している。

機会ロスを一掃し利便性の向上を目指す

 (株)プリンスホテルは、(株)西武ホールディングスを持ち株会社とする西武グループの中核企業である。1956年当時、西武鉄道(株)が保有するホテルの運営を目的に設立されたが、首都圏を中心にホテル開発事業を積極的に推し進め、ザ・プリンス パークタワー東京、高輪プリンスホテル(現・グランドプリンスホテル高輪)など大規模な都市型ホテルを次々に開業させてきた。
 西武グループの再編で2006年に(株)コクドと合併したことにより、リゾートホテルやゴルフ場、スキー場も併せ持った国内最大級のホテル/レジャー事業会社として再出発。翌2007年から、国内に展開するホテルを「ザ・プリンス」「グランドプリンス」「プリンスホテル」という3つのカテゴリーに再編成し、積極的にブランディングを推進している。
 現在、プリンスホテルをはじめとする西武グループでは、直営とフランチャイズを合わせて49のホテルを国内外に展開。各ホテルの特色を生かした独自の商品開発や、西武グループの会員組織の会員を対象にしたCRMの強化を図っている。
 こうしたお客さまの視点に立った提案型の営業展開やさらなる利便性の向上を図る中で、経営課題としてクローズアップされたのが、宿泊予約などの電話受付業務である。
 以前は、国内に40を数える直営ホテルそれぞれが、予約の電話などを受け付けるスタッフを配置するなど、原則として個別に対応していた。会員組織「SEIBU PRINCE CLUB」のサポート業務やホテルを福利厚生施設として利用する法人顧客への対応のために、小規模コールセンターを運営してはきたが、お客さまの電話対応はあくまでも各ホテルがメインであり、こうしたコールセンターは部分的な業務を担うものでしかなかった。
 これらのコールセンターでは、予約システムも十分なものではなく、例えば受け付けた電話を一次対応で完了できず、お客さまに折り返し電話せざるを得ないケースも少なくなかった。個々のホテルの規模や運営状況によっては、電話受付の専任スタッフを24時間配置できず、夜間は予約の電話を受け付けられない施設もあった。また、たとえ24時間体制のシフトが組めても、英語や中国語など外国語を話せるスタッフを常時、確保することができないというケースもあったという。
 さらに、あるホテルに予約の電話が入ったものの満室で受けられない場合、近隣のホテルを案内するといった二次提案のオペレーションは、ほかのホテルの客室状況をリアルタイムで把握できない予約システムの制約もあり、現実的には困難だった。
 お客さまの中には、特定のホテルに限定せず、同じエリアならば近隣のホテルに宿泊してもかまわないとの思いもあるだろう――。ともすれば業界全体としても見過ごされがちだった、こうした潜在ニーズに着目すれば、グループの近隣ホテルなどの宿泊につなげるクロスセルの絶好のチャンスになるはずだ。また、空室のある状況でも、お客さまに、より眺望の良いグレードの高い客室を案内するといったアップセルの余地も、まだまだあると考えた。
 コールセンター機能の強化によって、各ホテルの業務を効率化すると同時に、販売機会のロスを低減する。さらに、きめ細かなクロスセルやアップセルを実現し、客室収入をはじめ収益の最大化を図る。こうした改善はすべて、お客さまの利便性の向上に直結する。こうした戦略思考から、プリンスホテルは、新しいコールセンターの準備に着手した。
 プリンスホテル本社のレベニューマネジメント部を中心に、ホテルの現場経験豊かなスタッフや総支配人経験者によるプロジェクトチームを編成。運営業務は全面的にアウトソーシングすることを決め、1年半の準備期間を費やして、ホテル業界最大規模のコールセンターとなる「プリンスホテル予約センター」(以下、予約センター)を2012年7月に稼働した。

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Web サイト上にも予約センターの案内を掲載。フ リーダイヤル番号を大きく表示している

各地のホテル代表電話の一次対応機能も併せ持つ

 予約センターの受け皿となるコールセンターは、東京センターと宮城センターの2カ所で、CTIやACDを導入し、コールを2カ所のセンターに振り分けている。オペレーターのブースは東京と宮城を合わせて50席で、総勢120 ~ 130人のスタッフが運営に当たっている。
 スタッフは365日・24時間体制のシフトを組んでおり、日中はSVが常時4人、サブと呼ばれるSVに次ぐ立場のスタッフ8人程度を配置。このほか、英語、韓国語、中国語の3カ国語に対応できるオペレーターを常時配置し、海外からのコールや国内に居住・滞在する外国人のコールにも対応できるようにしている。
 また、予約センターでは、リゾートホテルを中心とする比較的小規模な約20のホテルについて、代表電話の一次対応も担っている。こちらは必要に応じて、各ホテルの担当部署にエスカレーションする仕組みだ。
 予約センターでは、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入。各ホテルの予約は通話料のかかる一般加入回線を使用していたが、予約センターを利用するお客さまの通話は原則無料とし、サービスのランクアップを実現。なお、これまで使用してきた各ホテルの電話による予約受付は、特定のホテルをリピート利用する常連のお客さまへの配慮などから、7月の予約センター開業後も継続している。
 例えば、グループの複数ホテルの商品を集めてメディアで告知する連合広告の場合は予約センターの電話番号を掲載するが、ホテルが単独で地域のメディアによる広告宣伝を行う場合は、各施設の予約用の有料電話番号を掲載する。将来的には、すべての予約を一元的に受ける構想もあるが、予約センターの運営状況なども見ながら、今後検討していくことにしている。
 なお、受付チャネルは、電話以外にも、ファクスやeメールがある。ハワイや台湾など海外7ホテル宛てのeメールにも対応している。
 また、予約センターの開設に当たって、予約情報を管理する「CRS(セントラル・リザベーション・システム)」をはじめとする業務システムを大幅に改修。各ホテルや予約センターなど事業拠点をネットワークで結び、担当者それぞれが予約の登録や変更、確認などの業務を処理し、データをリアルタイムで共有できるようにしている。

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1日当たり2,000項目ものナレッジを更新

 予約センターの受電件数は、1日当たり2,000件から3,000件と変動が大きい。特に季節の宿泊プランなど新商品を売り出したタイミングで、着信が集中する傾向が顕著に見られるという。なお、ホテルの代表電話番号の受電を予約センターに切り替える作業は、現在も順次、進めており、一連の作業が完了した後は、現在の予約センターの体制で、1日当たり3,000件から3,500件の着信に対応することを想定している。
 オペレーターの教育や研修は、基本的なオペレーションに関する部分は委託先が担うが、商品やサービスに関しては、情報の鮮度を保つため、プリンスホテルが継続的にサポートしている。ホテルの施設や商品に関するナレッジはすでに数万項目に及び、オペレーター各自がイントラネットを使って閲覧できるようになっている。特にホテル事業は、鮮度の高い新商品を継続的に投入していく必要があることから、日々のナレッジ更新や追加は2,000項目前後の水準という。
 応答品質を維持、向上するためには、オペレーターの継続的なトレーニングが不可欠であるが、すべての情報をマスターするのは容易ではない。そこで、オペレーターを複数のチームに分け、それぞれ担当するお客さまを割り振ることで、負担を軽減している。チームは、①会員、②一般顧客、③法人顧客などに分かれ、②については、さらに地域や顧客グループに応じたスキル・ベース・ルーティングを行っている。
 目指すは、オペレーターが客室の改装など販売のポイントとなる情報をホテル側と同じレベルでお客さまに案内できること。そこでシステムによる情報提供だけではなく、各ホテルの担当者を交えた勉強会を開いたり、時には、お勧め商品に関する手書きの情報をコールセンターの壁に掲示したりするなど、情報の浸透を図る工夫を重ねているという。

あらかじめ想定が困難な思いもよらない問い合わせ

 プリンスホテル全社で受けている予約件数を販売チャネルごとに見ると、最近はWebサイトのウエイトが増しているものの、依然として一般の旅行代理店を経由した予約も多く、全体のおよそ半数。以下、Webサイト、電話となっている。
 ただし、予約センター開業後の実績を見ると、予約にかかわる着信は、予約センターの受電件数全体の一部に過ぎない。大半は、ホテルの付帯施設や近郊の観光情報に関する問い合わせなど。加えて、あらかじめ想定することが困難な、「庭園のアジサイの花は、どんな様子ですか」といった、お客さまそれぞれの関心や事情に関係する内容も少なくない。
 また、当初、宿泊予約で利用されるチャネルは、Webサイトと電話に二分され、特にインターネットの利用に抵抗感を持つ層が予約センターを利用すると想定されていた。ところが、実際はWebと電話を併用するお客さまも多く、①Webサイトで予約した後、電話で予約を確認する、②Webサイトの情報に不足を感じて、より詳細な情報を電話で問い合わせるといったケースも目立っている。予約センターでは、各ホテルの現場はこれまでもこのようなニーズに対応してきており、そうしたホスピタリティ精神こそがプリンスホテルに対する支持や信頼を醸成してきたとの考えのもと、これらの電話にもきめ細かく対応していく考えだ。

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オペレーターは端末で各施設の概要や予約状況を確認しながら、ホスピタリティに富んだサービスを提供している(右上)/予約センターでのオペレーション風景(左)

モチベーションのアップにつながる指標「リカバリー率」

 予約センターの運営をモニタリングするKPIには、応答率、成約に至るコンバージョン率、一次対応での完結率などを採用しているが、中でもプリンスホテル独自の指標と言えるのが「リカバリー率」である。これは特定の施設に対するリクエストが、満室などで成約に至らなかった場合、近隣の施設をご案内するなどの二次提案によって成約を実現した比率を示す指標だ。
 仮に、箱根エリアを希望されるお客さまでも、行楽やゴルフなど目的が果たせるのであれば、軽井沢エリアの施設をご案内するのも一案。難易度は高いが、こうしたチャレンジが、オペレーターのモチベーションを向上することにもつながると考えている。
 主要なKPIについては、委託先から日次で帳票が共有されるほか、月次では、定量データや定性的な情報を集約し、委託先とプリンスホテル双方の幹部が参加して協議の場を持つことにしている。予約センターの開業から間もないため、現在はまだ、センター運営にかかわる基本的な課題をクリアすることが主要なテーマになっている段階という。
 予約センターを管理するレベニューマネジメント部には、日々刻々と変動する客室のプライシングや稼働をコントロールする「レベニューチーム」と、商品情報やWebを管理する「ディストリビューションチーム」を置いている。この2つのチームが、各ホテルや予約センターと密接に連携することで、戦略的に収益を最大化するレベニューマネジメントが機能する仕組みである。そして、お客さまに相対する予約センターこそが、最前線のオペレーション部隊なのだという。
 レベニューマネジメントは、単なる予約を積み上げるだけの受け身の姿勢で実現できるものではない。多様なニーズやシチュエーションに対応できる適切かつ柔軟な予約センターのオペレーションに負うところが大きい。今後も、システムとオペレーションの両面から継続的な改善活動に取り組み、半年、1年といったスパンで、クロスセルやアップセルを臨機応変に実践できる“戦略的コールセンター”としてのノウハウを確立していく考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年11月号の記事