コンタクトセンター最前線(第123回):インハウスとアウトソーシングの併用で受注業務の効率アップに成功

ヒラキ(株)

2001年に販売を開始した180円のスニーカーが話題となり急成長を遂げたヒラキ(株)。現在では靴のほかに衣料品や日用雑貨などの製造・販売も手掛け、通信販売で売上高の約5割を売り上げている。同社では、受注量が増加したことに加えて、業容拡大を図ったこともあり、受注業務を中心にアウトソーシングを開始。インハウスセンターと合わせて3センターでの受付体制を構築した。これにより、受注効率が高まった結果、CPHを10%アップすることに成功するなど、数々の成果を上げている。

受注チャネルでもありマーケティング・リサーチの場でもある受注センター

 通信販売を主軸に店舗販売、卸販売の3つの流通チャネルを通じて、自社企画の靴を中心に衣料品や日用雑貨などの商品をファミリー層を対象に提供しているヒラキ(株)。中でも靴においては、良い商品を求めやすい価格で提供することにこだわり続けてきた。2001年に180円のスニーカーを販売。製造直販型小売業だからこそ実現可能なこれまでにない低価格が話題となり、以来、多くの顧客に支持されている。2010年度の連結売上高は224億1,000万円。このうちの約5割が通信販売による売り上げとなっており、通信販売の顧客数は100万人に上る。
 通信販売の利用媒体は、カタログ、折り込みチラシ、インターネット。カタログは、全国の顧客を対象に約1,600アイテムを掲載するカタログを隔月で送付。折り込みチラシは、1年を春夏と秋冬の2シーズンに分け、毎週エリアを変えて全国に配布している。
 今回紹介するのは、同社の通信販売部が運営・管理する受注センターである。受注センターの主な業務は電話、Webサイト、そしてカタログ同梱のファクス用紙とハガキでの注文受付のほか、商品に関する問い合わせやカタログ請求、返品・交換の受け付け。このほか、顧客の声(VOC)を商品やサービスに反映させるためのクレームや意見の集約も重要な業務となっている。同社にとって受注センターは、プロフィットに直結する受注チャネルであると同時に、マーケティング・リサーチの場でもあるのだ。

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靴(レディース、メンズ)、衣料品、日用雑貨を取り扱う『エキサイティングプライス』(左)と子ども用の靴、衣料品、雑貨を取り扱う『ヒラキッズ』(中)。どちらも月間50万部を発行している

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広々としたワンフロアに70席を構える神戸センター。パーティションは正面のみで、オペレーションブースにはゆとりが感じられる

インハウスとアウトソーシングを併用した受付体制を構築

 センターは神戸、大阪、和歌山の3カ所にあり、神戸センターはインハウス、大阪センターと和歌山センターはアウトソーシングで運営している。席数は、神戸センターが70席で最も大きく、大阪センターと和歌山センターがそれぞれ40席ずつ。3センター合わせて平均150席を稼働させている。
 電話とファクスの窓口の受け付けには、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを利用している。フリーダイヤル番号は、受注と問い合わせそれぞれに専用の番号を用意。1998年に受注窓口にフリーダイヤルを導入したのに続き、2000年に問い合わせ窓口にも導入した。また、携帯電話からの着信には、同じくNTTコミュニケーションズのナビダイヤルを利用している。
 電話の受付時間帯は、月曜から土曜日が9時から21時まで、日曜・祝日が9時から17時までとなっている。注文のコールは売り上げに直結することから、1本でも取り逃したくはない。基本的に、着信呼は均等分配しているが、大阪センターもしくは和歌山センターであふれ呼が生じた際には、神戸センターに自動転送するという受付フローを設計し、コールの取り逃しを最小限にとどめている(図表)。

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 各センターの業務内容を見ると、神戸センターでは受注、問い合わせ、返品・交換、クレームといったすべての用件に対応。また、受け付けチャネルも、電話、Webサイト、ファクス、ハガキとすべてのチャネルに対応している。一方、大阪と和歌山の両センターでは、電話での受注を中心に担当。ただし、問い合わせが入った場合にもその場で対応できる体制を整えており、ワンストップでの回答を推進している。
 スタッフ数については、インハウスの神戸センターでは96名のオペレータを雇用しており、6名の正社員がオペレータのシフト管理や教育などを実施。アウトソーシングの2センターでは、カタログ送付や折り込みチラシ配布のタイミングに合わせて柔軟な受付体制を構築しているため、スタッフ数は変則的になっている。

3拠点での受付体制を取り入れた背景と効果

 同社がインハウスとアウトソーシングのハイブリッド型の運用を採用したのは、2002年のこと。もともとはインハウスのみの受け付けでスタートしたが、180円のスニーカーの大ヒットに伴い受注量が増加したことに加えて、業容拡大を図ったこともあり、受付体制を拡充。その際、コールの繁閑に応じた柔軟な対応が可能なテレマーケティング・サービス・エージェンシーへのアウトソーシングを選択したのである。当初は1社へのアウトソーシングであったが、2010年2月にもう1社アウトソーシング先を増やし、3拠点での受付体制を構築した。
 3拠点体制の構築には、3つの目的があった。
 ひとつは、パンデミックや災害時の備えである。当時、インフルエンザが流行しており、センター内でインフルエンザ患者が増えるとセンターが機能しなくなってしまうことを懸念したのだ。加えて、地震や火災、台風といった災害時のリスク分散も考慮。万一、いずれかのセンター機能が損なわれた場合、残りのセンターで補完し合えるよう、回線の冗長化を図ることでバックアップ体制を構築した。
 もうひとつは、センター間で切磋琢磨する環境を作ることである。アウトソーシング先を2社にすることで、いい意味での競争環境を醸成したいと考えたのだ。
 そして3つ目は、将来への備えである。同社では、今後も業容拡大を計画している。
 3拠点に分散してから約2年が経過した今、その効果は確実に表れている。大阪センターと和歌山センターの主業務である受注の効率が高まり、CPH(コールパーアワー)を10%アップすることに成功した。受注処理能力が高まったことで、目標応答率95%以上という数字も達成し続けている。さらに、コストパフォーマンスの改善にもつながった。

受注チャネルはWebサイトが約40%で電話を上回る

 受注センターに寄せられる年間の総コンタクト数は約260万件。このうち受注は180万件で、チャネル別の割合を見ると、Webサイトが約40%、電話が約33%、ファクスとハガキを合わせて約27%となっており、Webサイトからの受注が電話での受注を上回っている。以前は電話での受注が中心であったが、2年ほど前から電話とWebサイトの受注件数が逆転し始めた。同社ではその理由として、ケータイやスマートフォンでのeコマース利用増が大きく影響しているものと見ている。これと同様の傾向が問い合わせにも表れ始めており、年々、eメールでの問い合わせ件数が増加。現在、年間約3万件に達している。

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Webサイトは受注の主要メディアとなっている

VOCはExcelで集計し全社で共有

 受注センターに寄せられた要望や意見は、VOCデータとしてExcelに入力。それを週と月の単位で集計して、社長はじめ全社員で共有している。
 VOCは、品質、販売、物流、受注センターでの対応の4つに大別され、受注センターを統括する通信販売部から当該部門へ改善要求を堤出すると、当該部門で改善が行われる。以下に、実際にVOCが反映された事例を2つ紹介したい。
 1つ目は、レディースシューズのサイズ展開を増やした事例である。同社のレディースシューズは22 〜25cmまで展開しているが、もっと大きいサイズ、また小さいサイズが欲しいという要望があった。そこで同社では、ヒールが3cmほどの幅広い用途で着用できるシンプルなベーシックパンプス(税別980円)に25.5cm以上、22cm以下のサイズを追加。2011年7月より販売を開始した。
 2つ目は、3年前まで販売していたウォーキングシューズの再販売を決定した事例である。履き心地が良くウォーキングに適したシューズをもう一度、販売してほしいという要望が多く寄せられていたことから、インソール(中敷き)や履き口に改良を加えたニューモデルの販売再開を決定。現在、2012年4月の販売開始に向けて準備をしているところだ。

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VOCにより22cm以下、25.5cm以上のサイズが加わったベーシックパンプス(左上)/足への衝撃を和らげ屈曲性に優れたインソールと脱ぎ履きしやすいサイドファスナーを採用したカジュアルシューズ

ソーシャルメディアの活用を模索

 現在同社では、当面の課題として、問い合わせに対する応対品質の向上に取り組んでいくことを挙げている。3センターでの受付体制を構築してから2012年2月で丸2年を迎える。これまでも受注業務における応対品質向上に取り組んできたが、今後は問い合わせ業務の応対品質の向上にフォーカスしていく意向だ。
 応対品質を高める取り組みに注力する一方、VOCをいかにヒットにつながる商品の開発・改善につなげていくかが大きなテーマとなっている。今後は、現状行っているVOCを活用する取り組みを体系化し、システム化を図る計画。これにより、VOCの閲覧や検索を容易にすることで、より一層、VOCの活用を推し進めていきたいとしている。
 また、前述の通り、パソコンやケータイ、スマートフォンからの注文が増えていることから、モバイルサイトの強化を課題としており、2011年12月にスマートフォン対応を実施した。同社では、この延長上にはTwitterやFacebookといったソーシャルメディアの活用があると考えており、今後は、ソーシャルメディア上での情報発信やVOCに耳を傾ける受け皿を用意していく必要があるとしている。近年、顕著に見られるソーシャルメディアの普及は、コンタクトセンターのあり方や受付体制にも影響を与える。同社では、望むと望まざるとにかかわらずソーシャルメディアの活用は不可欠であり、早期に取り組みノウハウを蓄積することで、将来的に大きなメリットを享受できると見ている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年2月号の記事