コンタクトセンター最前線(第109回):長崎にコールセンターを移転 店舗マネジメントのノウハウを生かして運用

ワタミ(株)

外食店舗から介護サービスまで幅広く事業を手掛けているワタミ(株)。同社では、ワタミグループの電話受発信業務の最適化を図ることを目的に、自社のコールセンターとワタミタクショク(株)のコールセンターのインフラを統合し、大きなコストメリットを創出した。また、店舗マネジメントのノウハウを生かし、生産性と応対品質のバランスを保ったセンター運用を行っている。

コールセンターを東京本社から長崎県に移転

 ワタミ(株)が運営するワタミコールセンターは、ワタミグループのシェアード・サービス部隊として1999年に開設された。業務内容は、「和民」「坐・和民」「わたみん家」をはじめとするワタミグループ外食店舗の宴会予約受付、営業時間外の問い合わせ受付、外食店舗および介護施設でのアルバイト・中途採用の応募受付、ワタミファームの有機野菜やおせちなどの通信販売の受注を担っている。
 同センターの席数は36席。受付時間帯は、宴会予約受付が9時から18時、アルバイト応募受付が9時から21時30分、通信販売の受注が10時から17時となっている。いずれも年中無休だ。
 受付チャネルには、電話とeメールを利用している。電話窓口にはNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを導入。全国共通の番号で窓口を明確化し、効果的にお客さまからの電話を受け付けている。
 スタッフ数はメンバー、トップメンバー、リーダー、センターマネジャーを合わせて66名。ワタミでは、店舗スタッフをメンバーと呼んでいることから、電話応対を担うオペレータもこれと同様にメンバーと称している。スタッフの雇用形態は、社員もしくは同社が直接雇用するパート・アルバイトだ。
 現在、同センターは、長崎県諫早市にあるワタミタクショク(株)のコールセンターと同じフロアに隣合わせで設置されている(図表1)。以前はワタミの本社内(東京)で運営されていたが、ワタミグループの電話受発信業務の最適化を図ることを目的に、弁当の宅配事業を営むワタミタクショクの受注や問い合わせに対応するコールセンターと統合するべく、2010年5月に移転したのだ。

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インフラ統合の経緯とメリット

 統合の経緯は以下の通りだ。
 ワタミは、1984年の創業より「食空間業」を核とし、飲むだけでもなく、食べるだけでもない、時間と空間を楽しむという新しいコンセプトの居食屋「和民」を1992年に開発し、現在では「和民」を含む10の業態で国内に600店舗以上を展開している。その一方、2004年に介護サービスへの参入を図ったほか、2008年7月には(株)タクショクの全株式を取得して高齢者向け宅配ビジネスに乗り出すなど、事業内容を急速に多様化してきた。
 これらの事業は、おのおの別会社を設立して展開しているが、それぞれに電話の受発信業務が存在している。例えば、ワタミとワタミタクショクでは前述の業務、ワタミの介護(株)では入居相談の受け付けが必要となる。こうした電話の受発信業務をグループ全体で最適化することができれば、より効率的かつ効果的なセンター運営が可能になると考え、統合を検討し始めたのである。
 統合に当たっては、以下の視点で各社の業務の洗い出しと分析を行った。
 1つ目は、会社から受発信業務を切り離すことができるか。これを見るために、コールセンター業務がほかの業務と密接に連携しているか、またコアの業務であるかどうかを調べた。
 2つ目は、主たる通信手段は何か。電話、ファクス、eメールのどれがメインに使われているのかを探った。
 3つ目は、電話が主な通信手段の場合は、インバウンド業務かアウトバウンド業務か。
 4つ目に、その業務は標準化できるものか、できないものか。標準化の難易度を測った。
 そして5つ目に、業務を統合した場合のメリットとデメリットを比較。東京以外の場所への移転の可否を検討した。
 その結果、ワタミで行っている外食店舗の宴会予約・アルバイト応募・通信販売の受け付けと、ワタミタクショクの宅配弁当の注文受付の業務を統合することが可能という結論に至った。ただし、ワタミタクショクは現在、事業を拡大中のため、将来のコール数予測が難しい状況にあることに加え、単なる電話受け付けにとどまらず、全国にある営業所の事務処理機能も保有させる計画であることから、まずは両センターを同じ場所に設置することとした。そして、2010年5月にアルバイト応募受付業務を長崎に移管。続いて7月に、そのほかのすべての業務を移管し、インフラ統合を完了させた。
 今回の統合は、主にロケーションとPBXの共有であるが、これだけでも大幅なコスト削減を図ることができたという。また、長崎は東京に比べて人件費が安価なことも、大きなコストメリットを創出した。時給ベースで見ると、約3割をカットすることができたという。

モットーは、たくさんの「ありがとう」を集める

 業務を行うに当たりコールセンターがモットーとしていることは、電話をくれたお客さまに「電話して良かった」「ありがとう」と思ってもらえることである。これは、「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」というワタミグループのスローガンに基づいている。
 センター運用において、生産性の向上は常に取り組むべき課題であるため、同センターでは応対履歴の入力といったバックヤードの業務については1秒単位でスピードを追求している。一方、応対業務については、1コール当たりの人件費をKPIとしており、明確な目標値が設定されているが、これを追求し過ぎるとお客さまの満足度が下がる可能性があることから、通話時間については極端な追求はしていない。初めてアルバイトに応募してくる人は緊張して電話をかけてくるもの。たとえ1〜2分長くかかっても、親切で丁寧な対応をすることで応募者に安心してもらいたいと考えているのだ。
 また、宴会予約の場合、ファーストコンタクトの印象が良ければ気持ち良く来店してもらえる。そして店舗で満足が得られれば、次もまた電話予約してもらうことができる。つまり、店舗のサービスとコールセンターのサービスはリピート獲得に密接にかかわっているといえる。お客さまに満足していただける対応を行いながら効率を追求する。コールセンターをインハウスで運営している理由はここにある。

理念を共有できる人材を採用

 統合を機に、長崎でメンバーの採用を行った。第一の採用条件は、前述のワタミグループの理念を共有できること。コールセンターでの就労経験や入力が速いといったことよりも、理念の共有を重視し、接客の好きな人を採用しているという。
 採用後の導入研修では、最初の3日間はこの理念の共有に費やされる。ワタミはサービス業を営んでおり、電話応対は外食店舗と同じ接客であることから、コールセンターでは店舗の店長や介護施設のホーム長の代わりに電話に出ているということを意識させることから始め、電話をくれたお客さまに「電話して良かった」「ありがとう」と思ってもらえることを第一義としている。その後、コールセンターの具体的な業務の説明や電話機の使い方を学び、ロールプレイングを経てOJTに入る。
 導入研修が終了すると、まずは外食店舗のアルバイト応募受付からスタートする。次に介護施設のアルバイト応募受付、そして外食店舗の宴会予約受付というように、ひとつずつスキルを身に付けていく。スキルアップは2カ月をめどに行われ、この3業務ができるようになると一人前のメンバーとして認められる。
 なお、通信販売の受注業務を行うメンバーは数名でよいため、メンバーを固定してトレーニングしている。ここでは株主から問い合わせが寄せられることが多いため、ワタミグループを代表する窓口としての高い意識が必要とされる。
 教育はすべて社内で実施している。ワタミの理念と電話受付業務の初日は社員が講義を行うが、それ以外はトップメンバーが講師を務める。トップメンバーは、メンバーの教育のほかに、備品管理、発注といったマネジメント業務を担当している。また、社員に言われたことだけを行うのではなく、社員とともにミーティングに参加し、ともに課題解決策を考えてこれを実行する、応対業務におけるPDCAサイクルを実践する中心的なメンバーでもある。いわば、コールセンターの屋台骨としてインハウスセンターの運用を支えているのだ。

店舗マネジメントのノウハウをセンター運用に活用

 センター運営に当たっては、外食店舗で店長を経験した社員をコールセンターに配属し、店舗マネジメントにおける作業割当、研修、生産性の改善、緊急対応の(チェーンストアオペレーション)ノウハウを生かしている。
 作業割当とは、この人の力量であればどの作業にどのくらいの時間を要するかを秒単位で分析して標準作業時間を割り出し、個人単位で作業を与えていくことである。つまりコールセンターでは、各メンバーのスキルと予測コール数を踏まえ、各メンバーに業務を割り当てているということになる。
 ワタミコールセンターでは過去10年間のデータと直近の傾向を見ながら、日別、時間帯別にコール予測を行っている。宴会予約の場合、木・金曜日にコールが増える傾向にあるが、同じ金曜日でも給料日後の金曜日は一段と増えるとか、祝前日でも給料日前だから何%ダウンするといった具合に、きめ細かなコール予測を行い、30分単位で作業割当を作っている。
 30分の中でも瞬間的にコール数がピークを迎える時間帯がある。宴会受付において、コールの取りこぼしは販売機会の損失につながることから、たとえ数本でも取りこぼす可能性があることが明らかになった場合には、予約受付以外の業務を担当しているメンバーがヘルプに入ることで販売機会の損失を防いでいる。
 現時点で、ワタミとワタミタクショクのコールセンターの業務統合は未定である。しかし、曜日別の入電傾向を見ると、アルバイト応募が月・火、宴会予約が木・金に多く、タクショクは月・火・水は多いが週の後半はコール数が減少することがわかっている。メンバーの稼働率を高めるためにもお互いの業務をサポートし合うのが得策と考えられることから、すでに数人のメンバーは、両センターの業務を兼務しているという。

店舗情報のこまめなメンテナンスで店舗間違いを防止

 1カ月に寄せられるコール数は、3万5,000 〜5万5,000 件。eメールは約800件となっている。前年に比べ、宴会予約受付が101%、アルバイト応募受付が129%と全体的に増加傾向にある。
 宴会予約やアルバイト応募の受け付けにおいて難しい点は、店舗を確定することだという。例えば、東京の新宿駅周辺には「和民」と「坐・和民」が計10店舗あったり、屋号が異なるが広島駅南口店が2つあったりする。また、王子という地名は東京と奈良にあるというように、複数の都道府県に同じ地名が存在する場合もあるためだ。店舗を間違えた場合、お客さまが来店しても席がない、面接に出向いても店長が不在といった事態を招いてしまう。こうした事態はワタミにとって致命的なミスとなる。
 店舗間違いを防ぐために、コールセンターでは店舗情報を活用して、念入りな確認作業を行っている。「1階が○○の、△△ビルの2階のお店ですか?」とか、「○○の向かいのお店ですか?」と、店舗周辺の目印となる建物やお店を伝えて確認している。また、アルバイト応募の際には、店舗までの道案内をすることで間違いを防止している。
 これには、店舗情報のメンテナンスが不可欠だ。現在は社員が新聞などから銀行やコンビニエンスストアの統廃合情報を得ているほか、店舗スタッフから目印の情報を収集したり、営業担当者と新店オープン情報や求人広告情報を共有したりすることで、こまめに情報を更新している。
 時には、コールセンターに関する苦情が寄せられることもある。その際は、センターマネージャーが苦情を申し出たお客さまに連絡し、訪問もしくは手紙でお詫びをしている。ただし、長崎から遠方の場合は、エリア統轄マネージャーが代わりに訪問する。
 なお、外食店舗などに関する苦情には社員が対応している。現場の状況を把握できず正しいジャッジができないことから、いったんコールセンターで受け付けた上で、該当の外食店舗を統括しているエリアマネージャーに折り返し電話を依頼。同時にクレーム報告書を作成し、営業担当など関連部署にフィードバックしている。

新体制で挑む初の繁忙期に備えてスキルアップに注力

 これから忘年会シーズンに突入するとコールセンターは繁忙期を迎える。この冬は、1日に約2,000件のコールが寄せられる見込みだ。東京では勤続年数の長いベテランメンバーが受け付けていたが、今年は新人中心の長崎で受け付けることとなる。移転後初の繁忙期を乗り切るために、入念な教育を行い、スキルアップを図っているところだ。
 今後は新人メンバーの育成を継続的に行うとともに、トップメンバーを統轄するパート・アルバイトのリーダーを4〜6名育成し、社員が行っている店舗情報の更新やセンターの運営管理をリーダーに任せる方針を打ち出している。外食店舗においては、アルバイトメンバー一人ひとりが良いサービスを提供しているケースがあることから、コールセンターでも同じようにできるのではないかというのだ。現在、センターマネジャーはほかの業務も兼務しているため業務負担が大きいことが課題となっているが、これが実現すればこうした課題の解消にもつながる。
 また、トラフィック・データの収集も課題のひとつだ。現状、コールセンターでは電話機に表示される1コール当たりの通話時間を手書きで記録しているため、今後はフリーダイヤルのオプションサービスのひとつであるカスタマコントロールを導入して、平均通話時間や放棄呼数といったトラフィック・データを収集し、より一層、生産性を高めていきたいとしている。
 もうひとつの取り組みとしては、次期宴会予約受付システムの開発が挙げられる。現状のシステムでは予約確定ができないことから、各店舗の予約状況を知るには各店舗へ問い合わせなければならない。店舗オープン前に当日予約の電話が寄せられた際、予約状況がわからないことを伝えると競合店へ流れていってしまう可能性があることから、ビジネスチャンスを逃さないためにも、次期システムでは予約確定まで行えることが望まれる。ただし、店舗に新たなインフラを用意するとなると莫大な費用が掛かるため、費用対効果を見ながら開発していく構えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年12月号の記事