コンタクトセンター最前線(第108回):円滑なコミュニケーションと研修で応対品質を向上

(株)スターフライヤービジネスサービス

航空会社(株)スターフライヤーのハウス・エージェンシーとして航空券の予約や問い合わせの受け付け、会員サービスの提供などを担う(株)スターフライヤービジネスサービス。同社では2008年10月より、それまでグループ外企業へのアウトソーシングにより運営されてきたスターフライヤーのコールセンター業務を受託。ホスピタリティーをうたうスターフライヤーの“顔”として、センター内の円滑なコミュニケーションと充実した研修プログラムで応対品質の向上に努めている。

アウトソーシングからインハウスへ

 (株)スターフライヤービジネスサービス(以下、SBS)は、航空会社(株)スターフライヤーのカスタマーサービスを担う100%子会社として、2008年10月に設立された。
 親会社であるスターフライヤーは、ライト兄弟が製作した自動飛行機「フライヤー号」による世界初飛行から100年目に当たる2002年12月に、九州北部および関門経済圏の足として設立された。2006年3月の新北九州空港開港に合わせて北九州—羽田線に就航した後、2007年9月には羽田—関空線にも就航。「感動のある航空会社」を事業理念に掲げ、すべての座席を本革張り、TVモニター、ヘッドレスト、フットレスト付きとしたのをはじめ、座席間のピッチを他社よりも広くすることで居住性を高めるなど、既存の航空会社にはなかった新たな質の高いサービスを提供している。このほか、24時間運用が可能な北九州空港の利便性を最大限に活用して早朝から深夜まで多数のシャトル便を運航するなど、既存の航空会社との差別化に注力。ホスピタリティーの高い独自のサービスを提供することで、着実にリピーターを獲得している。
 スターフライヤーの航空券予約・購入および問い合わせと、これらの付帯業務を担うコールセンター業務は、就航以降、グループ外企業にアウトソーシングしていたが、オペレータのスキルアップと経験の蓄積を目指して2008年10月にすべての業務をSBSに移管。以降、コールセンターをSBS内に置き、インハウスと同様に運用している。

予約から会員サービスまで多岐にわたる用件に対応

 受付窓口は、用件別に6つに分かれており、電話番号と受付時間も個別に設定されている(図表1)。

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 ①では、予約受付および受付・購入・変更・取り消しに関する問い合わせに対応しているほか、韓国・チェジュ空港の予約受付代行も実施している。②では、期間限定で発売する航空券の予約受付および受付・購入・変更・取り消しに関する問い合わせなどに対応。③では、乗り合いタクシーを利用するお客さまのために車を手配。④では、会員制プログラムSTAR LINKの会員に提供するオンラインショッピングやマイレージプログラム、カード番号などに関する問い合わせ受付と、特典航空券の変更を実施。⑤では、お客さまからの意見や要望に対応。⑥では、インターネットの操作に関する問い合わせに対応している。このほか、VIP専用デスクもあり、コールセンターの業務が多岐にわたることがよくわかる。
 なお、④の中でもオンラインショッピングやマイレージプログラムなどに関する問い合わせと⑤は、eメールでの受け付けも実施している。

用件別電話番号で最適なオペレータに着信

 さまざまな用件に迅速かつ的確に対応するために、同センターでは用件別に電話番号を用意。さらに、マルチログイン機能のあるACDを導入することで、用件に対応できるスキルを持ったオペレータに着信させる体制を整えた。これにより、顧客満足度の高いサービスを提供している。
 また、用件別に入電数を把握することも、専用電話番号を設けている理由のひとつ。用件別入電数に基づき最適な人員配置を行うほか、オペレータ研修の重点ポイントを絞り込んで応対品質を高め、顧客満足度の向上に取り組んでいるのである。
 電話回線には、2010年7月よりNTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを使用している。かねてより使用していたIP電話サービスの終了に伴い、これに代わる電話回線を検討した結果、ナビダイヤルはお客さまに負担していただく通話料をIP電話サービスに近い料金で設定できることから、これを選択した。
 各窓口の告知媒体には、空港内に設置しているフライトスケジュール、フライトガイドのほか、Webサイトを活用。フライトスケジュールやWebサイトでも電話番号の変更をお知らせし、ナビダイヤルへのスムーズな誘導を図っている。

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フライトガイド、フライトスケジュールなどで各窓口を告知している

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最近のコール増を後押ししている人気キャンペーン(北九州空港から福岡・下関までのチャータータクシー送迎キャンペーン)のPRに使用しているうちわ。機内で配布している

業務をひとつずつ身に付けモチベーションを向上

 コールセンターのスタッフは、オペレータ、リーダー、スーパーバイザー(以下、SV)、チーフSV、管理部長で構成されている。このうち、第一線で顧客対応に当たるのがオペレータとリーダーである。
 オペレータは、まず、SF CALLCENTERの予約業務からスタートし、次に乗り合いタクシー、そして多くの個人情報を扱うスターリンク事務局といった具合に、複数のスキルを身に付けながらリーダーやSVヘと昇格していく。業務をひとつずつステップアップしていける仕組みは、オペレータの心理的負担を軽減するだけでなく、モチベーションアップにも役立っているという。
 SV以上は、コールセンターの管理者となる。ただし、SVとチーフSVがオペレータの質問への対応やシートチャート作りなど現場での実務的な管理を担うのに対し、管理部長はコールセンターの統轄およびスターフライヤーとの調整などを行うというように、明確な役割分担がなされている。
 SBSでは、応対に当たり以下の3点に留意しているという。
 1つ目は、第一声である。電話応対は、声だけでサービスを提供しなければならないため、声の印象は大切だ。加えて、コールセンターは顧客とのファースト・タッチポイントであることから、スターフライヤーのイメージにも直結する。従って、第一声には細心の注意を払っているという。
 2つ目は、確認時間の短縮である。コールセンターでは、オペレータが答えられない場合、SVにエスカレーションするのではなく、オペレータがSVに不明点を確認した上で回答するという方法を採用している。そこで、ここでの確認に要する時間を最小限にとどめようというのだ。
 3つ目は、誠意のある苦情対応である。苦情を申し出る顧客には、スターフライヤーのサービスをより良いものにしたいという思いがあるとの考えから、誠意を持って対応することを心掛けているという。
 また、コールセンターの運用に当たっては、スタッフとのコミュニケーションを密にすることに留意しているという。例えば、定期的に面談をしてモチベーションを低下させている原因を取り除いたり、ストレスを発散させたりしているのだ。このほか、レクリエーションのひとつとして新人歓迎会などのイベントを企画することもあるという。

さまざまな研修プログラムでマルチスキル化を図る

 現状のコール数は、1日当たり800〜1,000件。コールの多い時間帯は、17時から20時までで、最近では土曜日のコール数が増加傾向にある。また、2009年5月からは、早朝深夜便の利用者を対象に北九州空港から福岡までのチャータータクシーが無料、同年12月からは、全便を対象に北九州空港から下関までのチャータータクシーが1,000円というキャンペーンを展開していることから、前年より大幅にコール数が増えているという。
 SVは、前記のような入電傾向や予測コール数を基に、業務別・時間帯別に必要なオペレータ数を割り出してシートチャートを作成しているわけだが、入電傾向や予測コール数に合わせて最適なシートチャートを作成するには、オペレータのマルチスキル化が不可欠だ。そこでSBSが力を注いでいるのが研修である。
 SBSでは専任の教育担当者を置いて、新人研修やスキルアップ研修を定期的に開催し、オペレータのマルチスキル化を図っている。
 ここでの留意点は、オペレータ一人ひとりの習得レベルに合わせて研修を進めていくこと。一人ひとりつまずくところが異なることから、不明点の解決には個別のフォロー研修が効果的なのだ。
 加えて、四半期に1回、ユニークなブラッシュアップ研修も実施している。この目的は、フォロー研修と同様に、各オペレータの不明点を解決することにある。まず、オペレータが日々の業務でわからないことや、対応に困ったことなどを把握するために、全オペレータに専用シートを配布して記入してもらう。次に、書かれた内容を集計し、複数のオペレータに共通する疑問を選んで、その疑問を挙げたオペレータから詳細をヒアリングした上で回答を提示。その後、ヒアリング内容と回答をほかのスタッフにもフィードバックし、情報を共有している。
 また、オペレータに自身の通話をモニタリングさせるという研修も実施。自分の通話を客観的に聞くことで、教育担当者の指導を素直に受け入れることができるようになるほか、手本となるオペレータの通話を聞くことも効果的な教育であるとしている。
 このほか、年1回ミステリーコールを実施している。これはスターフライヤーが主催するもので、コールセンターに限らず、空港内カウンターや機内など、スターフライヤーのすべての顧客接点が対象。フィードバックされる結果を踏まえ、応対品質の改善に取り組んでいる。 
 オペレータの育成には評価も欠かせない。SBSでは、受け付け状況やスキルレベルなどによりオペレータ一人ひとりのパフォーマンスを数値で評価するとともに、勤務態度など数字として表しにくい部分についても所定の基準を設けて評価している。

VOCに基づくWebサイトの変更は数日のうちに実施

 コールセンターに集まった顧客の声(VOC)を生かして、スターフライヤーのサービスを改善したり、新サービスを企画したりすることもSBSの役割である。
 VOCの収集は、「ボイス」という名称のコメントシートを使って行われる。オペレータは、日々の業務を通じて気付いたことがあると、具体的な提案や多く寄せられた問い合わせとして「ボイス」に記入し、SVへ届けているのだ。SVが記載内容を確認した後、管理部長がスターフライヤー内のCS事務局に報告。CS事務局内で解決できるものと関連部署との連携が必要なものとに分け、後者については該当部署に解決を依頼する。
 スターフライヤーは、ホスピタリティーを強く打ち出した地域密着型の中堅航空会社である。そのため、比較的短期間でVOCをサービスに反映することができる体制にあり、かつVOCに耳を傾け、どうしたら顧客の要望を実現できるかを考えるマインドも醸成されている。
 代表的なVOCの活用例としては、Webサイトの表現変更がある。こうしたケースでは、Webサイトのある部分に問い合わせが集中していることが判明すると、SBS内のWebサイトメンテナンス部門がスターフライヤーとスムーズな連携を図り、数日のうちに改善できる体制を整えているという。

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スターフライヤーのホームページ。VOCに基づき、これまでいくつもの改善を行い、使い勝手、見やすさ、わかりやすさを追求してきた

インハウス化で円滑なコミュニケーションが可能に

 コールセンターの運用をアウトソーシングしていた時は、現場とコミュニケーションを取るのが難しかったり、確認事項に時間がかかったりしていたが、インハウス化により円滑なコミュニケーションが可能となり、応対品質を高めることができたという。
 その効果は、具体的な数字に表れている。80%台後半だった応答率が、90%台を維持できるようになったというのだ。SBSでは、この数値を顧客にストレスを感じさせない程度のサービスレベルに達しているものと評価している。
 一方、課題としては、応対に関する苦情の発生が挙げられる。コールセンターの対応に関する苦情はあってはならないことだが、実際には日々の応対の中で顧客からお叱りを受けることもあるという。
 今後は、2011年に予定している運航路線の拡大に向けて、センター規模の拡大に取り組んでいく。具体的には、2010年12月をめどに現在センターが入居しているビル内の広いフロアへ移転し、席数を1.5倍に拡張する計画だ。
 SBSは、スターフライヤーのハウス・エージェンシーと位置付けられているが、今後はチェジュ航空の予約代理にとどまらず、他業界のコールセンター業務も担うテレマーケティング・サービス・エージェンシーへと発展させていきたいとしている。そのためにも、まずはスターフライヤーで実績を積んでいく意向だ。SBSでは、事業の拡大は収益を高めるだけでなく、スタッフにやりがいをもたらし、従業員満足度の向上にもつながると考えている。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年11月号の記事