コンタクトセンター最前線(第98回):Webサイトと並ぶ重要な顧客接点として正確性・迅速性とホスピタリティを追求

ライフネット生命保険(株)

2008年5月に営業を開始したライフネット生命保険(株)。同社では、開業当初は業務委託で運営していたコンタクトセンターをインハウス化。マニフェストをセンターの理念・目標・行動指針に適用し、「正確性」「迅速性」の基本品質に加えて「ホスピタリティ」を追求していくことで、ファンづくりを目指している。

コンタクトセンターはWeb サイトと並ぶ重要な顧客接点

 ライフネット生命保険は、相互扶助という生命保険の原点に戻り、「どこよりも正直な経営を行い、どこよりもわかりやすく、シンプルで便利で安い商品・サービスを追求する」という理念の下に設立され、2008年5月より営業を開始した生命保険会社である。同社の特徴は、インターネットを主な販売チャネルとする新しいスタイルの生命保険会社であること。店舗を持たずにインターネットを活用することにより、高い価格競争力と24時間いつでも申し込み可能な、生活者にとって便利でわかりやすく、かつ高品質な生命保険サービスを提供している。2009年6月にはモバイルサイトでの保険申し込みサービスをスタートし、さらなる利便性向上を図った。
 同社がターゲットとしている顧客層は、20〜30代の子育て世代だ。平均所得が減少し続ける中、同社のコンセプトはターゲットニーズとマッチし、営業開始以降、保有契約件数は右肩上がりで推移している。2009年11月末には1万6,109件に達した(図表1)。

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 店舗を持たない同社にとって、コンタクトセンターはWebサイト、モバイルサイトと並ぶ重要な顧客接点と位置付けられている。

マニフェストをセンターの理念、目標、行動指針に落とし込み実践

 センターでは、カスタマーサービスとマーケティングの役割を担っており、具体的には①契約者を対象に問い合わせや諸手続きなどを受け付けるカスタマーサービス、②見込客に対する相談受付(情報提供)、③VOC(Voice of Customer)管理を行っている。
 同社では、冒頭で紹介した企業理念を生活者や社員にわかりやすく伝えるために4章からなるマニフェストを作成し、Webサイト上で公開している。マニフェストに書かれていることがそのままセンターの理念・目標・行動指針となっているものもあるが、センターではマニフェストを咀嚼してセンターのための理念・目標・行動指針を各10項目に落とし込んだ(図表2)。これらを集約すると、「正確性」「迅速性」「ホスピタリティ」というキーワードで表現することができる。センターでは、「正確性」「迅速性」の基本品質に加えて「ホスピタリティ」を追求していくことで、ファンづくりを目指している。

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ライフネット生命保険では、Webサイト上でマニフェストを公開している

ライフネットらしさの実現に向けて業務委託からインハウスへ

 受付チャネルには、WebフォームとNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル電話を使用。センターの受付時間帯は、月曜から金曜日が9時から22時まで。土曜日が9時から18時までで、日祝日が休業となっている。発信者の利便性を高めるために、フリーダイヤルは携帯電話からの着信も可能だ。
 スタッフ数は、オペレータ10名、スーパーバイザー(以下、SV)2名、問い合わせ件数や内容を集計する集計担当1名、マネージャー1名、センター長1名の計15名。現在は、全オペレータがマルチスキルオペレータで、受付チャネルを問わずすべての用件に対応している。
 営業開始当初は速やかなサービス提供を優先し、センター業務はテレマーケティング・サービス・エージェンシーに委託していたが、ライフネットらしさを打ち出していこうと2009年4月からインハウスセンターに移行した。現在、センターは東京本社内に設けられている。マーケティング部や保険事務サービスと隣接させることで、広告やキャンペーンなどの情報をスムーズに共有できる環境を整備。同時に、部門を越えた一体感を作り出すことに努めている。センターではこうした環境が、オペレータの不安を取り除き自信につながり、見込客に納得感のある話ができる、契約者に正確で迅速なサービスを提供できる基盤になると考えているのだ。
 なお、雇用形態はオペレータが派遣社員で、SV以上は正社員となっている。
 コンタクトセンター・システムには、アバイアのPBX、CMS、IVRのほか、通話を録音するナイスログを導入している。問い合わせ履歴の管理には、ASPサービスを採用。ただし、大幅にカスタマイズし、オリジナルに近いかたちで使用している。

受付件数の増加には人員増で対応

 1カ月当たりの問い合わせや相談などの受付件数は約1,800件。受付件数は、会社の認知度向上や契約者増に伴い増加の一途をたどっており、2009年度の第2四半期で前年度の累計8,824件を越えるほどの勢いだ(図表3)。

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 問い合わせ件数増への対応として、センターではオペレータの採用を実施している。採用人数や時期は、これまでの実績に基づき売り上げを予測して計画的に進めている。
 採用時の条件は2つある。ひとつは、センターの目標に掲げられている「腑(ふ)に落ちるまで説明する」ことができるマインドを持っていること。もうひとつは、高い品質の会話ができることである。電話を切った後で、相談して良かったと思ってもらえる、心地よさが残る、そんな対応ができる人材を採用している。
 同社の商品やサービスはシンプルでわかりやすいことから、新人オペレータの理解も早く、比較的短期間でマルチスキルオペレータとして業務をこなせるようになるという。

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コンタクトセンターのオペレーション風景。セキュリティーの都合上、他部署とは壁で区切っているが、一部にガラスを使用することで物理的にも社内の一体感を保っている

お客さまの声に基づく申込画面の改訂が問い合わせ減につながった例

 センターの役割のひとつにVOC管理がある。管理といっても単に声情報を蓄積するだけではない。センターを基点に収集・管理・分析し、サービスの継続的改善とお客さま満足度の向上につなげているのである。
 お客さまの声のフィードバックおよび改善検討を行う場として設けているのが「CSコミッティ」だ。毎月1回開催しており、コンタクトセンターのほかにマーケティング、保険事務サービス、システム部、コーポレート・コミュニケーションズから、CS意識の高いメンバーを集めている。ここで、改善の必要性や実現性を判断。対応できる案件は該当部門が持ち帰って改善するとともに、対応できない案件については対応できない理由を洗い出し、参加メンバーで共有するという作業を行う。また、改善中案件の進捗状況の確認もCSコミッティで行い、滞りなく進むように注意を払っている。
 2009年1月から10月までに寄せられた、苦情などのお客さまの声は124件。このうち改善対応が完了している案件が38件で、改善対応中および今後改善を予定している案件が26件となっている。
 最近の改善例として、申込画面を改定したケースを紹介したい。上掲のWebサイト画面は、申込画面の健康状態の告知を行うページである。申し込みに当たってこのページに関する問い合わせが多く寄せられたことから、新画面のように変更した。すると、これまで総問い合わせ数の3.2%を占めていた告知画面に関連する問い合わせを、1.7%と約半数に減少させることができたという。

お客さまの声に基づき改善した告知画面
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改定前と改定後

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お客さまのご意見に対する取り組み画面

応対品質の評価指標づくりとCRMシステムの構築が課題

 センターの評価指標としては、平均通話時間、放棄率、平均応答時間など数値を取ってはいるものの、オペレータの評価や効率アップの施策づくりには使用していない。その理由は、今は効率よりも応対品質の向上を優先する時期であると考えているためだ。しかし、正確性・迅速性・ホスピタリティを評価する基準が明確に定まっておらず、センターではこの点を課題としている。
 また、システムの課題として、見込客を含めた全顧客を管理できるCRMシステムの早期構築を挙げている。一人ひとりに適切なアプローチができる仕組みを整えることで、成約率のアップや積極的なインバウンドセールスの実践が可能になるためだ。
 コンタクトセンターでは、これまでの業務を通じて、お客さまに必要のない商品は「必要ない」ということが満足につながるということが見えてきたという。コンタクトセンターの開設から約1年半を経て、ようやく応対品質を追求していけるインフラが整った。今後センターではさまざまな議論を繰り返し行うことで、お客さまのためになる基本品質プラスαのサービスを提供していく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年1月号の記事