コンタクトセンター最前線(第95回):お客さま対応は最優先事項 全社で情報を共有し対応に当たる

キユーピー(株)

『キユーピー』や『アヲハタ』といったブランドで知られるキユーピー(株)。同社お客様相談室では、世の中の変化やお客さまのニーズに合わせて受付体制の見直しを図り、自らを進化させてきた。現在は年間約5万件の問い合わせや指摘に対応。そこから得た気付きを、商品の開発・改善に生かしている。

お客さま対応は最優先事項

 キユーピー(株)は1919年に創業し、日本で初めての「マヨネーズ」や「オレンジママレード」などを世に送り出してきた、誰もがよく知る食品メーカーである。現在、調味料・加工食品事業、健康機能事業、タマゴ事業、サラダ・惣菜事業、物流システム事業を手掛ける同社では、グループが一丸となって「『おいしさ・やさしさ・ユニークさ』をもって、食生活に貢献する」べく、「一人ひとりのお客さまに、最も愛され、親しまれるグループをめざします」を経営理念に掲げ、赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い世代にさまざまな食を提供している。取扱アイテム数は、家庭用と業務用を合わせて4,000種に及ぶ。
 同社のお客様相談室に話を移す前に、同社の社訓を紹介したい。なぜなら、社訓が同社の商品づくりの根底にある思想だけでなく、お客さま対応の基本姿勢にも通じているからだ。
 同社の社訓は「道義を重んずること」「創意工夫に努めること」「親を大切にすること」。「道義」と「創意工夫」は、何が本当か、正しいかということを判断の基準にし、創意工夫を忘れないことを意味している。3つ目の「親を大切にすること」は、同社らしい社訓と言える。わが子を思う親の気持ちをありがたく感じ、それに報いようとする気持ちが親孝行であり、親孝行のできる人は人の好意に感謝し、それに報いようとすることのできる人である。そんな人の周りには、好意を持って接してくれる人が集まり、その会社はおのずから発展するはずであるという、創始者 中島董一郎氏の考えを表している。
 これを受けて、お客さま対応においては、まず、電話を掛けていただけることを心からありがたく思い、拝聴し、誠心誠意の回答をする。
 次に、お客さま対応を全社的な最優先事項と認識。長年にわたり培ってきた『キユーピー』や『アヲハタ』といったブランドに寄せる大きな信頼を失わないよう努めていこうというのである。お客さま対応を最優先させるという考えは、1973年に顧客対応窓口を開設した時から変わっていない。
 そして指摘の場合には訪問を基本とし、迅速、的確、誠実に対応する。
 指摘は、お客さまからいただいた貴重な情報と受け止め、商品改善に役立てる。
 以上の4点をお客さま対応の基本姿勢とし、お客様相談室をはじめ工場、支店など全社に浸透させている。

世の中の変化やお客さまのニーズに応じて改組

 お客様相談室には36年の歴史がある。その中で、世の中の変化やお客さまのニーズに応じて組織を変化させてきた。開設当時は本社の広報室内に設置していたが、1995年に品質保証室(現品質保証本部)へ移管した。1995年といえば、PL法が施行された年であり、これを機に、各社でお客さま対応窓口を整備する動きが活発化したことはご存じの方も多いだろう。同社では品質保証室への移管と併せて、全支店にもお客様相談室を設置。同時に、業務用製品にも問い合わせ用電話番号の記載を開始。受付体制の組織化と窓口の告知に力を注いだ。さらに、2000年には、土日・祝日の緊急の問い合わせ対応をスタートした。これは、食品メーカーの不祥事が発生し、問い合わせ件数が増えたことがきっかけとなった。
 現在は、本社お客様相談室には22名、支店には10拠点で12名の相談員を配置。拠点間で連携を図りながら、全国のお客さまから寄せられる各種問い合わせおよび指摘の対応に当たっている。
 受付チャネルには、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスと、eメールを活用。少数ではあるが手紙や訪問もある。
 電話の受付時間帯は、午前9時から午後5時30分まで。休業は年末年始のみで、土日・祝日も対応できる体制をとっている。

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キユーピーお客様相談室。対応時に商品を確認することができるよう、写真の右手前の棚上と、右奥の棚には商品が用意されている

インターネットが普及しても電話の利用率が圧倒的に高い

 電話対応の流れは次の通り。お客さまがフリーダイヤル番号へ発信すると、すべて本社のお客様相談室に着信。問い合わせの場合はその場で回答する。指摘の場合は、お客さまの居住地区を担当する支店・営業所に対応を依頼。支店・営業所の相談員や営業担当者がお客さま宅を訪問し、指摘内容を詳細に伺って説明する。また、必要に応じて現品を預り、調査。その結果を後日改めて報告している。
 お客さまが訪問を望まない場合は、電話で詳しく話を聞いて説明し、調査が必要な場合は着払いで送付していただき、代替品の発送を手配。訪問の場合と同様に、後日、調査結果を報告している。
 電話で問題が解決するケースは28%。訪問して解決が56%。代替品の送付で解決が16%。電話で解決を除くと約80%のお客さまを訪問したことになり、訪問のウエートは高いと言える。
 受け付けた内容はすべて「お客様情報対応システムデータベース」に蓄積。入力完了から約5分後には、関連部門や支店・工場でも閲覧することができる仕組みになっている。これにより、本社と支店のお客様相談室間のスムーズな連携を実現。指摘対応時に必要な情報をスピーディーに漏れなく共有している。
 eメール対応の流れはこうだ。まず、Webサイトに用意したお問い合わせフォームからお客様相談室にeメールが送られてくると、専任のeメール担当者が対応。eメール担当者数は5名で、返信業務は平日の午前9時から午後5時30分まで行っている。
 2008年度におけるチャネル別利用率を見ると、電話が88%と圧倒的に多い。eメールと手紙・その他はそれぞれ6%となっている。一般家庭へのインターネットの普及率が高まっても、利用率はそれほど伸びていないのが実際のところだ。同社ではFAQを充実させているため、セルフで問題解決できるお客さまが多いのではないかと見ている(資料1)。

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お客様相談室のページを開くと、最近多く寄せられる質問が目に入る。FAQの充実と合わせて、お客さまにFAQを利用していただくための工夫も施している

事故・事件などで変わる問い合わせ内容状況

 図表1は、年度別の受付件数をグラフ化したものである。2005年度以降、微量ながらも増加を続け、2008年度には5万2,240件に及んだ。前年と比べると13%増加しており、過去最高の伸び率を記録した。指摘の件数も増加傾向にあり、指摘の影には「メーカーが信用できない」といったお客さまの思いが感じられるという。食品メーカーの不祥事が後を絶たないことから、お客さまの商品に向ける目が厳しくなっているのだ。

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 受付内容を、問い合わせ、指摘、販売店問い合わせの3つに分類すると、問い合わせが58%と最も多い。さらに問い合わせの内容を具体的に見ると、2007年度には製品、原料、賞味期限、使用方法に関する問い合わせが多く寄せられていたが、2008年度に入ると変化が表れる。原料、栄養成分などの問い合わせが増加し、中でも原料に関する問い合わせは2倍以上寄せられるようになったのである(図表2)。お客様相談室ではこれを、2008年1月に発生した中国産餃子事件の影響を受け、国産志向が強くなったことの表れと見ている。

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 このように、その時々に起こる事故・事件、流行などによって問い合わせの内容は変化していくのだ。

対話を通じて得た気付きを開発会議でアウトプット

 年間約5 万人のお客さまと直接対話しているお客様相談室では、的確な対応でキユーピーファンをつくるとともに、相談員の問題をキャッチする感度を高めて事故の拡大を防止している。これに加えて、2年半ほど前から対話を通じて得た“気付き”を製品の開発・改善に生かす取り組みをルーティン化。商品カテゴリーごとに行われる開発会議で、お客様相談室が気付きをアウトプットしている。気付きは、お客さまから直接申し出があった、もしくは対話の中で相談員が気付いた「商品の改善提案」と「新製品の発案」。加えて、相談員がこれは問題だとか、同様の指摘が増えていると感じる「気になるご指摘」。最後に、上記に当てはまらない「その他」の4つに分類され、それぞれ検討される。

商品コンセプトや使用方法のわかりにくさを解消

 開発会議を経て改善に至った例は多数あるが、比較的最近の改善例を紹介する。
 独自の製法でカロリーを同社のマヨネーズの半分に抑え、コレステロールを下げる働きがあるとして、厚生労働省から特定保健用食品に指定されている「キユーピー ディフェ」という商品がある。この商品コンセプトがわからないという問い合わせが多く寄せられたことから、2009年1月に商品パッケージを変更。「コレステロールを下げる」という特長を大きく表示し、「カロリー50%カット」をロゴにして、目立つようにした。
 「レンジクック」シリーズは、素材を加えて電子レンジで調理するだけでおかずができ上がる、便利な商品である。これに対して「素材を入れなければいけないことがわかりにくい」「調理説明がわかりにくい。時間通りにレンジにかけたけど、素材が生で食べられなかった。素材の切り方は? 下ごしらえって蒸すの?」「加える素材は限定なの? パッケージに書かれていない素材を入れたらだめ?」といった声が寄せられた。そこで、パッケージ表面に素材を入れて電子レンジで調理するという商品コンセプトを明記するとともに、裏面に記載している調理方法を改善した。

さらなる声活用を目指して「お客様の声委員会」を発足

 現在、お客様相談室の電話の接続状況は良好で、応答率はほぼ100%を実現している。万一、あふれ呼が生じた場合には、しばらく経ってから掛け直していただくようアナウンスしているが、前述の通り年々受付件数が増加していることから、お客様相談室では今後より多くの問い合わせに対応していくためにも、コールデータに基づくオペレーション管理が不可欠と認識。これを課題としている。
 もうひとつの課題として、お客様相談室ではさらなるお客さまの声の活用を挙げている。約2年半にわたり開発会議で気付きをアウトプットしてきたが、改善スピードをよりはやめ、確実に改善につなげていくために、2009年6月から「お客様の声委員会」を発足させた。今後は委員会活動が1日も早く軌道に乗るよう、注力していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年10月号の記事