コンタクトセンター最前線(第93回):不安や疑問を解消しVOCを製品作りに生かす企業活動の中枢 お客様サービスセンター

石井食品(株)

石井食品(株)では、安全でおいしく、かつ環境にも配慮した製品作りを追求している。この活動の源となるのがお客さまの声(VOC)である。VOCの集積地である同社お客様サービスセンターでは、問い合わせやクレームに対応することでお客さまの不安や疑問を解消するとともに、VOCを製品作りに役立てる活動を推進。企業理念の具現化に力を注いでいる。

経営陣への情報伝達スピードを加速させるために組織を変更

 1974年の発売以来、お弁当の定番メニューとして親しまれている「ミートボール」や「ハンバーグ」のほか、玄米・雑穀パン群、サラダ・スープ群、デザート群、炊き込みごはん群など幅広い品ぞろえで、日本の食卓を潤している石井食品(株)。「地球にやさしく、おいしさと安全の一体化を図りお客様満足に全力を傾ける」を企業理念に掲げ、①品質保証番号、②無添加調理、③無添加調理を支える厳選素材の三大原則に則って、製品作りを行っている。
 昨今、食に関する不祥事が後を絶たない。生活者の関心が安全で安心な食品に集まる中、同社では以前にも増して企業理念を具現化する取り組みに注力。この取り組みの中核を担っているのが、同社お客様サービスセンターである。
 同センターの発足は1989年3月。営業本部お客様担当の名称で、問い合わせなどへの対応を通じてお客さまの疑問や不安を解消するとともに、お客さまが求める製品の開発・改善に役立つ情報を社内へフィードバックするという、まさに企業理念を具現化するための使命を担ってスタートを切った。その後、1993年には経営陣への情報伝達スピードを加速させることを目的に、社長室(現秘書室)直轄の組織へと変更。1995年に現在の名称に改め、今日に至っている(図表1)。

0908S1

365日無休で社員が対応に当たる

 お客様サービスセンターは千葉県の八千代工場内にあり、ここで全国のお客さまから電話やWebメール、eメールで寄せられる問い合わせ・意見・要望・クレームに対応している。
 電話回線には、センター開設当初からNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを使用。お客さまが電話をかけやすい環境を整えることを目的に、同社で通話料金を負担している。携帯電話・PHSといった移動体通信が普及してからは、世の中の通信環境の変化に合わせて移動体からの着信も可能にすることで、お客さまにとっての利便性をいっそう高めた。使用回線数は10回線。午前9時から午後6時まで、年中無休で社員が対応に当たっている。
 同センターの告知媒体には、商品パッケージやWebサイトなどを活用している。Webサイトのお問い合わせページでは、フリーダイヤル番号を記載しているほか、お問い合わせフォームやeメールアドレスとリンクが張られており、お客さまは希望のコンタクトチャネルを選択することができる。また、よくある質問とその答えのページともリンクを張り、件数の多い問い合わせについてはお客さま自身が問題を解決できるよう促している。

0908S2

お問い合わせのページ(左)/お問い合わせフォーム(中)/よくあるご質問のページ(右)

クレームは訪問により事実を確認し的確に対応

 日々のお客さま対応は、最終的に石井食品のファンづくりにつながるものである。そのため同センターでは、お客さまに納得していただき、製品を買い続けていただくことをモットーに対応している。
 クレーム対応を例に、具体的な対応の流れを見てみよう。まず、フリーダイヤルにクレームが寄せられると、その場で事実確認を行い、必ず訪問を申し出る。その理由は、実際に製品を見たり、お客さまから直接話を聞いたりすることによって、お客さまに納得していただくための的確な対応方法を導き出せると同センターでは考えているためだ。
 お客さまが訪問を了承したら、訪問日時を決めて同センターのスタッフがお客さまを訪問する。基本的には同センターのスタッフが訪問するが、西日本エリアに住むお客さまや、関西や九州の工場で作られた製品へのクレームの場合は、関西工場と九州工場のお客様担当へ対応を引き継ぎ、スピーディーに対処している。地域の事情を把握しているスタッフや、実際に製品を作った工場のスタッフが対応することは、お客さまに納得していただける説明をすることができるというメリットもある。
 詳しい状況を把握したら、問題の商品を工場に持ち込み検査する。続いて、工場長などのカンパニーマネージャーを集めた会議を開催してクレームの原因追及と対応策の検討を実施。クレームを申し立てたお客さまに結果をフィードバックすると同時に、全社で情報共有を図り、関連部門のスタッフを集めてチームを結成して対応策を推進する。さらに、ほかの工場で同様のクレームを発生させないための予防策も講じている。また、問い合わせ履歴をさかのぼり、同様のクレームの有無を確認。拡大の可能性があると判断した場合には、先回りして対応することができる体制も整えている。お客様サービスセンターの業務は、リスク管理の役割も果たしているのだ。
 一方、訪問を希望しないお客さまには、電話でできるだけ詳しく話を聞いた後、代替品と手紙を送る。手紙では、お詫びと併せてクレームの原因や対応策をお知らせしている。文章が長くなることもあるが、同センターでは1通1通手書きすることにこだわっている。きれいな字ではなかったとしても、印刷した手紙より誠意が伝わりやすいと考えているのである。
 クレーム対応終了後は、毎週、工場長、品質管理担当のほか、関西工場と九州工場のお客様担当が参加する「クレーム再発防止会議」を開催。同様のクレームが再発していないかのチェックを行っている。このように、同センターは、社内のあらゆる部署と連携しながら問題に対応しているのだ。

食品に関する事故が発生すると問い合わせが急増

 同センターの受付件数は、通常であれば月間100件前後。しかし、食品に関する事故などが起こると、それが自社と直接関係のないことであっても急激に問い合わせ件数が増加するという特徴がある。2007年6月に発覚した牛肉偽装や、2008年1月30日に他社が冷凍食品の回収を発表した直後には、同社にも原材料に関する問い合わせが急増し対応に追われた(図表2)。

0908S3

 2007年度(2007年4月〜2008年3月)の総受付件数は約2,800件であったが、特に大きな事故がなかった2008年度(2008年4月〜2009年3月)は約2,000件にとどまっている。
 問い合わせとクレームの比率は6対4。問い合わせ内容としては、賞味期限・保存方法・原材料・販売店に関することが多くなっている(図表3)。

0908S4

 受付状況は、毎日、八千代・関西・九州の3工場および品質管理、内部統制、フードエンジニアリング(製品開発)で共有。緊急対応や経営的判断が必要な案件があれば、その都度、役員会議で審議する。

VOCをあらゆる企業活動に生かす

 VOCは、製品改善や営業支援といったさまざまな企業活動に役立てられている。
 まず、製品の改善例としては、同社の代名詞とも言える「ミートボール」や「チキンハンバーグ」などの改良が挙げられる。食品添加物は、加工食品を大量に生産する際に品質の均一化を助ける役割を果たすため、同社でも製造過程で使用していた。しかし、国が認めているものを使用していても、不安を感じるお客さまの声が多く寄せられたことから、1997年に食品添加物を使用しない取り組みをスタート。「ミートボール」や「チキンハンバーグ」などの主力商品からリニューアルしていった。
 さらに、2006年にはアレルギーを持つ子どもも安心しておいしく食べられる製品を望む声にこたえて、ミートボール・ハンバーグ群から乳・卵の使用を取り止めた。また、由来原材料も知りたいという声にこたえ、パッケージに詳細なアレルゲン情報を、表形式でわかりやすく記載することにした。
 次に、営業支援での活用例としては、販売店への提案力の向上が挙げられる。「この商品はどこに売っているの?」という問い合わせをいただいても、お客さまの最寄りのスーパーマーケットなどで取り扱いがない場合がある。その際には、同センターから営業担当へその情報をフィードバックし、営業担当から小売店に取り扱いを提案しているのだ。最近は、お客さまのニーズにきめ細やかに対応する小売店が増えていることから、こうした提案は小売店の仕入れ担当者からも喜ばれている。
 以上から、製造から販売まであらゆる企業活動の源となる情報がお客様サービスセンターに集まっていることがわかる。同センターは、石井食品の中枢とも言えよう。

0908S5

2005年から「無添加調理」の文字を大きくするとともに上部に移動して強調。現在は、アレルゲン表示、品質保証番号、賞味期限など、お客さまの関心の高い情報を見やすくし、店頭での購入をサポートしている

今後はクレームの減少に注力

 「ミートボール」のパッケージ改善は、これまでに幾度も行ってきたが、同センターでは今後も改良の提案を続けていく考え。例えば、環境への配慮からパッケージサイズを縮小したことに伴い、表示スペースも縮小されてしまった。そのため、伝えたい情報をすべて伝えることが難しくなっているのが現状である。しかし、限られたスペースの中で工夫を凝らして、同社の三大原則のひとつである無添加調理をPRするとともに、意外と知られていない加熱せずにそのまま食べられるというミートボールの特長も積極的に伝えていきたいとしている。
 もうひとつ、今後の取り組みとして、同センターではクレームの減少に注力していくという。お客さまの声が集まる特徴を生かし、工場や営業担当者などの現場とより深くかかわることで、社内に有益な情報提供をしようというのである。加えて、前出の「クレーム再発防止会議」を通じて、打ち出した改善策の有効性も追求していく構えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年8月号の記事