コンタクトセンター最前線(第92回):VOC活動と応対品質の向上でお客さまの信頼回復に努める

三井住友海上火災保険(株)

損害保険業界では、保険金の不払いや保険料の取り過ぎなどの問題によりお客さまの信頼を失ってしまった。そこで三井住友海上火災保険(株)では、お客さまと直接コンタクトする場である各コールセンターやお客さまアンケートを通じてより多くのお客さまの声(Voice of Customer:VOC)を収集。これを「お客さまの声担当部」で集約・一元管理・分析し、商品やサービスの改善に生かす取り組みを積極的に行っている。また、各コールセンターでは応対品質の向上を目指し、お客さまに満足していただける応対を推進。失った信頼の回復に取り組んでいる。

お客さまの信頼回復に向けた取り組み

 2001年10月1日に、三井海上火災保険(株)と住友海上火災保険(株)が合併して誕生した三井住友海上火災保険(株)。同社は、自動車保険、火災保険、傷害保険などの開発・販売を手掛ける損害保険会社である。同社の最古の前身である大阪保険から数えると、100年を超える歴史を持つ企業だ。ところが同社では、2006年に発覚した保険金の不払い、不適切な代理店管理、火災保険料の取り過ぎなどが原因で、長い歴史の中で培ってきたお客さまの信頼に傷を付けてしまった。そこで同社では現在、信頼回復に向けて、全社をあげて“お客さまの視点”を基点とする企業品質の向上に注力している。具体的には、①お客さまの声に基づく商品・サービスの改善、②寄せられたお客さまの声を報告、③お客さま基点推進諮問会議を開催するほか、④苦情マネジメントシステムISO10002の運用を推進し、お客さまの声にこたえている(図表1)。

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“ お客さまの視点”を持つには、より多くの声に耳を傾けることが必要である。同社では、お客さまと直接コンタクトする場である「お客さまデスク」「保険金支払相談室」はもちろん、グループ会社で運営する「事故受付センター」など、各コールセンターの業務やお客さまアンケートを通じてお客さまの声(Voice of Customer:VOC)を収集。これを「お客さまの声担当部」で集約・一元管理・分析し、商品やサービスの改善に生かす取り組みを積極的に行っている。また、各コールセンターでは、応対品質の向上を目指すことで、お客さまに満足していただける応対を推進。失った信頼の回復に努めている。

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お客さまデスクの様子。写真ではわかりにくいが、ブース間には透明のパーティションがあり、閉塞感のない仕切りで空間のゆとりを演出している

お客さまデスクと保険金支払相談室

 「お客さまデスク」は、全国のお客さまからの商品に関する問い合わせ、契約内容の照会、意見・要望、苦情を電話、eメール、手紙などで受け付ける窓口である。契約者、見込客からはもちろん、代理店からの問い合わせにも対応している。センター数は、東京と兵庫の2カ所。席数は、前者が110席、後者が30席となっている。
 両センター間はIP回線でネットワーク化しており、ひとつのコールセンターのように機能させている。受付時間帯は、月曜日から金曜日の9時15分から20時までと、土日・祝日の9時15分から17時まで。年末年始のみ休業となっている。
 着信したコールは、IVRを利用して適切なオペレータにつなぎ、ワンストップでの解決を目指している。同センターでは、1次受付のオペレータが用件を聞き、内容に応じて2次受付のオペレータやスーパーバイザーに転送するといったコールフローをあえて採用しなかった。その理由は、お客さまは保険のプロが対応していると思っているため、電話に出たオペレータが用件に対応できなければ満足は得られない。加えて、1コールに対応するオペレータ数が増えれば、人数に比例して1コール当たりの後処理時間も長くなる。その結果、応答率の低下につながる可能性もあると考えたためである。現在同社では、①自賠責保険、②自動車保険、③火災保険、④傷害保険の順にスキルを積み上げていくという方法で、マルチスキルオペレータの育成に注力している。ただし、お客さまデスクで手続きができない保険の新規契約と解約については、代理店にフィードバックしている。
 IVRを活用する際には、お客さまにとってわかりやすいガイダンスを設計することが、満足度を高めるポイントとなる。選択メニューの数が多いと、前に出たガイダンスを忘れてしまい何度も繰り返して聞くことになったり、用件にたどり着くまでに時間がかかったり、異なる用件に対応するオペレータにつながってしまう、といった問題が生じる。そこで、同社ではIVRの操作性を高めるために、1階層のメニューは4つまでと定め、各メニューから2階層以上は設けないことで、シンプルな作り込みを行っている。実際のIVRメニューは、1番を事故受付、2番を自動車保険、3番を火災保険、4番をその他に設定。このほか、年末から確定申告の時期には、控除証明をIVRメニューに追加し、一時期に集中する同一の問い合わせに効率よく対応している。
 「保険金支払相談室」は、保険金の支払いに関する相談や問い合わせ、苦情を電話、eメール、手紙などで受け付ける窓口である。センターは東京の1カ所で、「お客さまデスク」の東京センターと同じロケーションに20席が設置されている。受付時間は月曜日から金曜日の9時15分から17時まで。こちらは、土日・祝日および年末年始を休業としている。
 「お客さまデスク」と「保険金支払相談室」の受付状況を見ると、2008年度のコンタクト数は約45万件であった(図表2)。このうち98%は電話によるもので、残りの2%はeメールや手紙となっている。2005年度と比較すると、2倍以上に増加していることがわかる。同社では、多くの声を集めるために、告知媒体に保険証券、パンフレット、Webサイトなどを活用したことが、コンタクト数の増加と集約につながったと見ている。

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事故受付センター

 「事故受付センター」は、事故受付業務と、保険金支払業務を担う保険金お支払センターの営業時間外に、お客さまおよび関係者への初期対応業務を行う窓口である。運営・管理は、グループ会社であるMSK安心ステーション(株)が三井住友海上火災保険より受託するかたちで行っている。業務内容は、電話での事故受付といったインバウンド業務のほかに、事故の被害者や医療機関、自動車修理工場などへの連絡といったアウトバウンド業務、FAXを通して受け付けた案件のデータチェック業務まで幅広い。2008年度の受付状況を見ると、電話受付が約75万件で、FAX-OCRの受信が約60万件。一方、アウトバウンドコールは約50万件に及ぶ。

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事故受付センターのオペレーション風景

 受付拠点は、東京と大阪の2カ所。受付時間帯は、東京が24時間・365日無休、大阪が8時から22時までとなっている。
 席数は、東京と大阪とで合計140席だが、最大270席まで増設ができるキャパシティを備えている。オペレータ数は、東京が470名で大阪が130名。曜日や時間帯に応じて要員数を決定し、1日3交替のシフト制で対応に当たっている。
 電話窓口にはフリーダイヤルを使用しており、日中は東日本からの発信は東京、西日本からの発信は大阪に着信させ、深夜は東京にすべてのコールを着信させている。また、両センター間はネットワーク化していないものの、相互にコール数をモニタリングし、溢れ呼を自動的にコントロールする仕組みを採用している。
 コールセンターシステムには、事故受付システム「JUS(ジャス)」、受発信履歴管理システム「安心WEB」を使用。オペレータは、ツインモニターの片方でお客さまの契約情報を参照し、もう片方に立ち上がっている「事故受付画面」に事故状況などを入力していく。管理システムには、CMS(Call Management System)とAGENT MAPを導入して受付状況をリアルタイムで把握しているほか、全通話録音システムですべてのコールを記録している。
 事故の内容はどれをとっても同じではない。また、当然のことながらお客さまは事故に不慣れである。そのため、事故受付に当たっては、お客さまが話しやすいよう細心の注意を払わなければならず、事故受付のオペレータには高い応対スキルが求められる。
 同社では、オペレータの離職率を抑えて高いスキルが身につく環境を整えようと、2007年に給与体系に月給制を導入した。また、社員登用の機会も用意している。
 一方で、教育にも力を入れている。採用後は、2〜3カ月の導入研修を行う。前半は座学が中心で、後半は社員のもとで行うOJTがメインとなる。ひとり立ちした後は、オープニングから情報伝達まで、18の品質管理項目に沿って業務知識や応対品質をチェック。その結果をフィードバックすることで、オペレータ一人ひとりのスキルアップを図っている。同センターでは、2009年度から平均通話時間や1日当たりの応対件数といった、生産性を測定する評価項目を追加した。今後は、より一層の応対品質向上を目指していく。

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壁には応対時のモットーが大きく貼り出されている

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休憩室の掲示板では、お客さまアンケートの集計結果や応答率、お客さまから届いたお褒めの言葉を紹介している。こうしたことがオペレータのモチベーションアップにつながり、応対品質にも良い影響を与える

2年間で約80件の改善を実施

 同社では、契約者を対象に、お客さまアンケートを実施している。申込書や保険証券などの見やすさ、商品内容の説明、お申し込み手続きの適切性、保険金支払い可否のわかりやすさなどについて意見を収集。アンケート結果は、各センターに寄せられたお客さまの声とともに全社で共有し、商品やサービスの改善に生かしている。
 図表3は、お客さまの声を生かすフローである。まず、各拠点でお客さま対応後、お客さまの声をデータベースに登録。この分析から課題の抽出、改善策の検討・提言を行い、案件ごとに各部門で改善策を実施。お客さまの声担当部で、改善状況の確認を行うといった流れだ。

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 図表4は、図表3の③④⑤をクローズアップしたもの。お客さまの声担当部が中心となり、お客さまの声活用のPCDAサイクルを繰り返すことによって、本社の各部門がお客さまの声を商品・サービスの開発・改善に生かす取り組みをスムーズに行っているのである。

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 VOC活動を強化してから実際に行われた改善数は、約80件に及ぶ。一例として、パンフレットの説明文をお客さまにとってわかりやすい表現に変更したほか、同社が発行するあらゆる書類において誤解が生じる表現を改善したことが挙げられる。
 今、同社は、お客さまの声を収集・活用する体制の整備を終え、VOC活動の定着に励んでいるところ。今後はより一層、VOC活動を掘り下げ、全社にしっかりと根付かせていく構えだ。お客さまの声を生かす取り組みや、各コールセンターでの高品質な応対を通じて信頼を回復すれば、事業が成長へと向かう。同社では、そこで獲得したお客さまの声を経営資源としてさらなる企業品質向上のために投資する、という好循環が生まれることを期待している。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年7月号の記事