コンタクトセンター最前線(第91回):お客様相談室を整備しハイタッチなコミュニケーションと顧客の声の活用を推進

ユースキン製薬(株)

50年にわたり多くの方に愛用されているビタミン系クリーム「ユースキンA」を製造するユースキン製薬(株)。同社では顧客の声に耳を傾け、その声を商品開発や既存商品の改良に生かすべく、1996年にお客様相談室の体制を整備した。同相談室では、手紙に対しては手書きの返事を送るなどハイタッチなコミュニケーションにこだわりつつ、顧客の声の活用を推進。顧客の声と社長のアイデアから生まれた「セヌール」は、2006年に発売して以来、ワンシーズンで10万個を販売するヒット商品となっている。

より多くの声を聞くためにお客様相談室を組織化

 手荒れや肌のかさつきを治療するビタミン系クリーム「ユースキンA」を製造する製薬メーカーとして知られるユースキン製薬(株)。1955年に創業した当初の社名は瑞穂化学工業(株)であったが、1968年に商品名の「ユースキン」をとって現在の社名に変更した。2010年には創業55年を迎える、歴史ある企業だ。
 同社の主力商品である「ユースキンA」は1957年の発売以来、50余年にわたり多くの人々に使用されているロングセラー商品である。商品の良さが口コミで広まり、中には親子3代で愛用しているという顧客もいるほどだ。
 「ユースキンA」は、もともと薬局を営んでいた創業者の野渡良清氏がひどい手荒れに困っている女性の「肌荒れに効いて、べたつかないクリームが欲しい」という要望にこたえるために研究を重ねて開発したもので、顧客の声をきっかけに同社と「ユースキンA」が誕生したと言える。
 現在、「ユースキンA シリーズ」は唇、手、かかとといったパーツケアへと商品バリエーションを拡大しているほか、有効成分でかゆみを止めて保湿成分で肌にうるおいを与える「ユースキンI(アイ)シリーズ」、敏感肌用の保湿系スキンケアを目的とした「薬用ユースキンS シリーズ」、にきびケア用の「ユースキン ルドーシリーズ」など、症状に合わせて商品ラインアップを拡充。さまざまな肌の悩みにこたえている。
 同社は顧客の声をきっかけに誕生したというだけに、創業以来、常に顧客の声に耳を傾けてきた。20 年ほど前にNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを導入し、顧客や取扱店からの問い合わせに対応してきたが、当時はフリーダイヤルカードを利用して同じフリーダイヤル番号を営業担当者のヘルプデスクとしても活用しており、対応業務は社員がほかの業務と兼務するというかたちで行っていた。こうした状況の中、顧客接点を充実させてより多くの声に耳を傾けることで新商品の開発や、既存商品の改良に役立てたいと考えた同社では、1996年に顧客と取扱店を対象とした相談業務の組織化を図ったのである。
 具体的には、顧客対応の専任者を配置したほか、商品パッケージにフリーダイヤル番号の記載をスタートした。その後2000年代に入って、企業のインターネット活用が本格的になったことを受けて、同社では自社サイトを開設してWebメールによる問い合わせと資料請求の受け付けを開始し、顧客の声を収集しやすい環境をつくった。
 現在、同社が用意しているコンタクトチャネルはフリーダイヤルの電話、Webメール、手紙の3つ。お客様相談室の告知媒体には商品パッケージやホームページ、取扱店用の商品カタログなどを活用しており、顧客からはフリーダイヤルの電話、Webメール、手紙で問い合わせやサンプル請求を受け付ける一方、取扱店からはフリーダイヤルの電話で問い合わせを受け付けている。

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Webサイトのお客様相談室のページ

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取扱店向けに用意している商品カタログ

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中央が同社のロングセラー商品「ユースキンA」

問い合わせ対応からサンプル発送までを担う

 お客様相談室の業務内容は、①電話で寄せられる問い合わせや苦情への対応、② Webメールでの問い合わせ対応、③手紙への対応、④サンプルの発送、⑤製品に添付しているアンケートハガキの集計と意見への対応と、多岐にわたる。
 ①は、土日・祝日を除く平日の9時から18時まで対応している。同社の主な顧客層は年配の女性である。そのため、自宅の固定電話から問い合わせてくるケースが多いが、最近は携帯電話しか持たない人や、固定電話を持っていても主に携帯電話を利用する人が増えていることから、顧客の利便性を考慮しフリーダイヤルへの携帯電話からの着信を可能にしている。
 ②も、①と同様の時間内に対応しており、基本的にWebメールで寄せられた問い合わせにはeメールで返信している。また、即日返信をルールとしているが、営業時間外に寄せられたものについては、翌営業日に返信している。
 ③は、お客様相談室の業務の中で、最も手間と時間を必要とする業務かもしれない。手紙やハガキで寄せられた問い合わせには、すべて手書きで返事を書いているのだ。好意的な感想などについてもお礼の手紙を送るが、返事のひな形は用意しておらず、寄せられた内容に応じて1通1通考えて書くハイタッチなコミュニケーションに同社はこだわっている。
 ④は、サンプル発送に必要な伝票や送り状の作成、封入、発送までのフルフィルメント業務である。実際に使用していただくことが商品の理解を深める近道と考える同社では、例えば、顧客の用件が商品に関する問い合わせや感想であったとしても、積極的にサンプルを送付している。その際、同封する送り状も顧客と交わした会話に基づいて作成しているため、フルフィルメントまでお客様相談室のスタッフが担っているのだ。
 ⑤は、「ユースキンS シリーズ」に添付しているアンケートの集計と、アンケート用紙に書かれた意見や問い合わせなどへの対応である。コメントの内容に応じて手紙で返事を書き、必要に応じてサンプルを送っている。
 現在、これらお客様相談室の業務は、企画開発部の社員と派遣社員の合計4名で行っている。

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S シリーズの商品(上)とS シリーズに添付されているアンケート(下)。アンケートは商品パンフレットと一体化しており、切り離して使用する

Webメールの9割はサンプル請求 用件に応じたチャネルの使い分けがうかがえる

 同社が顧客対応において留意している点は2つある。ひとつは、顧客の気持ちを考え言葉の裏側にある真意をとらえて的確な対応をすること。これは、すべてのコンタクトチャネルに共通する留意点である。
 もうひとつは手紙への返事に関することで、もらって「嬉しい」「良かった」と思っていただける返事を書くこと。ビジネスレターのように伝えたい内容を決まった言い回しで伝えるのではなく、寄せられた手紙のトーンに合わせて、若干くだけた文章になったとしても親しみやすさを演出することを優先しているという。
 月間の平均受付件数を見ると、フリーダイヤル電話が約400件、Webメールが約900件、手紙が約200件となっている。件数だけを見るとフリーダイヤル電話をWebメールが上回っているが、Webメールの9割はサンプル請求となっており、依然、問い合わせには電話が利用されるケースが多いことがわかる。サンプル請求はWebメールで、問い合わせや感想、苦情は電話や手紙でというように、顧客が用件やその時の緊急性などによってコンタクトチャネルを使い分けていると考えられよう。

顧客の声と社長のアイデアで大ヒット商品が誕生

 お客様相談室に寄せられる問い合わせ内容は、成分に関するものや、小さな子どもを持つ母親からの「何歳から使用できるか」といったことなどが主で、これらはコンタクトチャネルにかかわらず問い合わせデータベースに蓄積される。一方、苦情は苦情データベースに蓄積され、別に管理されている。各データベースに蓄積している項目は、顧客の住所や氏名といった個人情報のほか、コンタクトチャネル、問い合わせ内容/苦情内容、対応内容など。個人情報を取得している顧客に関しては、過去の問い合わせやサンプル送付の履歴をすべて紐付けしている。
 データベースに蓄積された顧客の声は、新商品の開発や既存商品の改良に役立てられる。企画開発部、品質保証部、製造部の責任者に役員を交えた「打ち合わせ会」を開催して顧客の声を共有し、改良案など具体的な施策を検討。そこで打ち出した施策を担当部門が持ち帰り、遂行するという流れで取り組まれている。
 2006年には、こうした取り組みから大ヒット商品が誕生した。「セヌール」がそれである。一人暮らしのお年寄りは、背中にかゆみがあっても自分でクリームやローションを塗ることができない。顧客の声からこうした状況を知った同社では、社長のアイデアを基に、手の届きにくい背中などにクリームやローションを塗ることができる道具「セヌール」を商品化。かゆみを止めて肌にうるおいを与える効果のある「ユースキンI(アイ)ローション」とセットで販売したところ、ひと冬で10万個の販売を記録したのである。以来、毎年秋から冬の乾燥が気になるシーズンに期間限定で販売しており、現在では大ヒット商品へと成長した。

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全国から届くたくさんの手紙(上)/今年もひと冬で10 万本の販売数を記録した、セヌール付きユースキンI(アイ)ローション(下)

これからは情報発信にも注力

 お客様相談室では今後も顧客の声の活用を推進し、肌の悩みを解決する商品を開発していく考え。こうした取り組みの一方で、お客様相談室の基本的な業務である問い合わせへの対応についても、より応対品質を高めるべく注力していく構えだ。前述のように、個人情報を把握している顧客に関しては問い合わせやサンプル請求などの履歴を紐付けて管理しているが、実際の電話対応においては応対履歴を十分に活用できていないのが現状である。そこで同社では、履歴を生かした電話対応を行うことで、顧客とのコミュニケーションを充実させ、より満足度の高い対応に努めていきたいとしている。
 さらに、顧客への情報発信も強化する方針だ。現在同社では、全国の一般の方から格言を募集し、オリジナル格言カレンダーを制作している。カレンダーに採用する格言は、同社製品の愛用者が参加する選考会によって選出されるが、同社にとってこの選考会は顧客と対面でのコミュニケーションが図れる貴重な機会である。そこで、この場を生かし、新商品や認知度が低い商品とその使い方などを紹介。このほか、顧客との対面でのコミュニケーションの場として全国各地でハンドマッサージキャラバンを実施するなど、イベントを通じた情報発信に取り組んでいる。これらに加えて、お客様相談室でも問い合わせの機会を生かし情報を発信していくことで、「ユースキンI(アイ)シリーズ」や「ユースキンS シリーズ」の認知度向上に努めていくという。同社では、50年にわたり培ってきた商品の良さや安全性をまだ使ったことのない人に伝えるには、実際に使っていただくことが一番の近道と考えている。そのためには最適なタイミングで的確なサンプルを薦めることが不可欠だが、過度な情報発信は逆効果となることが懸念されるため、注意を払いながら行う必要があるとしている。
 これからのお客様相談室には、顧客と商品・同社の間に入り情報の仲立ちをすることで新商品の開発を促進したり、顧客の商品やブランドに対する認知および理解を深めることが、今まで以上に求められてくると言えるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年6月号の記事