コンタクトセンター最前線(第86回):日本一のコールセンターを目指し4つのビジョンを実現

(株)リコー

「日本一のコールセンターを目指す」というスローガンのもと、「顧客満足度の向上」「高品質かつ高効率の運営」「セキュリティの強化」「ビジネスへの貢献」の4つのビジョンを実現している(株)リコーお客様相談センター。その受付体制と今後の展開を紹介する。

お客様相談センターにおける4つの取り組み

 複合機やデジタルカメラなど、オフィス用機器からコンシューマー用商品まで幅広いカテゴリーの商品を取り扱う(株)リコー。同社はOA機器メーカーとしてスタートしたが、デジタル化、ネットワーク化のニーズに応えるかたちで事業領域を拡大。現在は、自らを“ソリューションパートナー”と位置付け、トータルなネットワーク・オフィスソリューションを提供している。
 東京駅から電車で約20分。神奈川県川崎市に(株)リコーのお客様相談センターはある。同センターでは、「日本一のコールセンターを目指す」というスローガンのもと4つのビジョンを掲げ、その実現に向けて取り組んでいる。
 ひとつ目は、「顧客満足の向上」である。国内販売事業の一翼を担っているという認識のもと、ワンストップでスピーディーな対応を行うことによって、顧客満足度を高めることを目指している。
 2つ目は、「高品質かつ高効率の運営」である。具体的には、コミュニケータのマルチスキル化を推進している。例えば、複合機に関する問い合わせの場合、コピー、ファクス、スキャナー、プリンターと、機能ごとに異なるコミュニケータが対応していたが、ひとりのコミュニケータが複合機の4機能すべてに対応できるようにする。レーザープリンターとジェルジェットプリンターの応対に必要なスキルは似ているので、お互いを補完し合う。また、近年問い合わせ件数が減少傾向にあるワープロ担当のコミュニケータに、問い合わせ件数が増加傾向にあるデジタルカメラに関するスキルを身に付けさせる、といった具合だ。
 3つ目が「セキュリティの強化」である。センターには、多くの顧客情報が集まるため、情報の漏えい防止に努めている。
 そして4つ目が「ビジネスへの貢献」である。顧客と直接対話できる窓口であるという利点を生かし、顧客の声を社内にフィードバックしてより良い製品作りに反映させるよう努めている。逆に、センターから有益な情報を顧客に伝えることで、クロスセルやアップセルにつなげることにも注力しているという。

製品および無償・有償のサポート内容別にチームを作って対応

 同センターは、受付内容別に「お客様相談室」と「コールセンター」の2組織で構成されている。前者は、同社の経営活動全般にかかわる意見を受け付ける窓口で、10名ほどのコミュニケータで対応。後者は、無償・有償のサポート窓口で、コミュニケータ、企画担当者、教育担当者、IT担当者を含め380名体制で運営しており、その席数は約300に及ぶ大規模なセンターだ。
 電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル番号(0120-000-475)を利用。携帯電話からの着信も可能にしている。同センターでは、問い合わせ番号をひとつにすることで窓口の明確化を図るとともに、その場で顧客の状況を把握して即答する、ワンストップサービスを推進しているのだ(図表1)。受付拠点は1カ所だが、実際の電話対応においては製品および無償と有償のサポート内容別にチームを作り、無償サポート10チーム、有償サポート7チームで対応している。

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 無償サポートの受付時間帯は、製品によって異なるケースがあるが、たいてい平日の午前9時から午後6時までと、土曜日の午前9時から午後5時まで。ただし、土曜日の正午から午後1時までは受け付けていない。また、日・祝日は休業としている。一方、有償サポートの受付時間は、契約ベースで対応時間が異なるが、午前9時から午後9時や、24時間対応のメニューもある。
 運営スタイルにはインソースを採用。1チーム当たりの人数は20名前後だが、問い合わせの多い複合機に関しては100人体制の大きなチームとなっている。図表2は、チーム内のスタッフの階層をまとめたものである。コミュニケータからオペレーションマネージャーまでが委託先のスタッフで、技術支援担当とグループリーダーはリコー社員が担当している。
 大きなチームでは、図表2のようにコミュニケータからグループリーダーまで階層が細かく分かれているが、小さなチームでは階層は少なく、スーパーバイザーが担う役割にも多少の違いがある。

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システムを駆使し4つのビジョンの実現をサポート

 コールセンターシステムには、CTI、IP への対応が可能なPBX、IVR、スキルベースACD、ボイスロギングシステム、対応履歴システムなどを導入している。対応履歴システムには(株)東芝のCT-SQUAREをカスタマイズして使用している。
 対応履歴システムは、全社で利用可能な顧客管理データベースと連動しているため、CTIにより顧客情報をコミュニケータ端末にポップアップさせることができる。
 さらに、サブシステムとして、回線監視管理システム、席モニター、ワークフォースマネジメントシステム、データマイニングツール、テキストマイニングツールのほか、契約管理データベース、販社の営業担当者に対して顧客訪問を依頼するフォロー依頼データベース、FAQのもととなるナレッジデータベースなどを導入している。先に紹介したマルチスキル化によるコミュニケータのスキルアップだけでなく、さまざまなシステムを駆使することも、4つのビジョンの推進に不可欠と言えよう。

IVRで用件を把握し該当チームにコールを振り分ける

 図表3はお客様相談センターのコールフローイメージである。顧客がフリーダイヤル番号に電話をかけると、IVRの自動アナウンスにより「コピー、ファクス、複合機」「レーザープリンター」「ジェルジェットプリンター」「デジカメ」「その他」の5つが案内され、該当するメニューを選択すると、担当コミュニケータにつながる仕組みだ。

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 対応に当たっては、販売会社の営業担当者が日々、顧客とコミュニケーションを積み重ねて築いてきた信頼関係を壊さないことを心掛けている。また、修理が必要な場合には、必要な情報を対応履歴管理システムに入力してから、いったん電話を切り、修理センターに伝達している。
 月間コール数は、トータルで約10万件。同社製品の売上構成を反映して大半がB to Bであり、コンシューマーからの問い合わせは5〜6%にとどまる。季節変動はあまりなく、年末の年賀状需要で約20%アップする程度。これには、マルチスキル化を推進していることで対応できるため、コミュニケータの増員はほとんど行わずに、応答率をキープ。顧客満足を獲得している。

コールセンターの集約を背景に日本一のコールセンターへと近づく

 同センターがマルチスキル化による高品質かつ高効率のセンター運営やコスト削減、ワンストップでスピーディーな対応を実現し、顧客満足を得ている背景には、2004年に行ったコールセンターの集約がある。
 同社では、1980年代からコールセンターを運営してきたが、ワープロが登場すればワープロ専用ダイヤルを、デジタルコピーやレーザープリンターが登場すればその専用ダイヤルを開設するといった具合に、製品の拡大に呼応するかたちで開設してきた。そのため、集約直前には、首都圏6カ所に13センターを構えるまでに拠点数が拡大していたのである。
 一方、インターネットの普及や通信環境の進歩によりネットワーク化が進展する中、同社にも製品だけでなく総合的なソリューションの提供が求められるようになっていた。これに伴い、製品別のコールセンターでは対応しきれない問い合わせが多く寄せられるようになり、次第にコールのたらい回しが増えていったのである。また、社内的な問題として、マネジメントの方針がセンターごとに異なることから、生産性や応対品質、セキュリティ体制にもばらつきが生じていた。そのため、これらの問題解決に向けてコールセンターを集約。日本一のコールセンターを目指し、歩みはじめたのである。

集約における苦労

 コールセンターの集約に当たり、同社では2003年に統合プロジェクトを発足。1年の間で、開設地、センター機能、システム構成を決定した。もともと首都圏にあったセンターを川崎に集約したため、人材の新規採用や社員の転勤はなく、この点においてはスムーズに集約することができた。
 しかし、チャレンジには障害がつきものである。特に、変化することに対して抵抗感を抱く人は多い。バラバラだったコールセンターシステム、管理指標、対応のスタンスなどを統一することに強い反発があり、スタッフの意識改革に苦労したという。
 意識改革のための施策として、まず、コールセンター集約のミッションとビジョンを明確に打ち出した。同時に、四半期ごとにクリアしなければならないこととして具体的な行動に落とし込み、実行していった。
 また、マルチスキル化委員会など案件ごとに委員会を立ち上げて、その場で徹底的に話し合った。委員会は、各センターのグループリーダー6〜7名で構成。週1回のペースで4カ月にわたり開催した。人的リソースの問題もあって、一度にすべての問題を解決することができないため、できるところから委員会を立ち上げるよう、計画を立てていった。委員会の発足当初は互いの意見がぶつかり合ったが、次第に結束が生まれ、最終的には皆がひとつになることができたという。
 苦労の甲斐あって、集約後は既述の通りマルチスキル化によるワンストップでスピーディーな対応を実現するなどの効果が得られているが、もうひとつの大きな効果として、コスト削減が挙げられる。具体的な金額は非公開だが、当初の目標を10%上回る削減に成功したという。

修理や受注のセンターとのリアルタイム連携を計画

 現在、同センターでは、災害対策の強化を課題としている。センターを集約する際、東西の2カ所に分けることも考えたが、人数が少ないチームを分割すると、コストメリットが十分に得られなかったのである。そこで、万一に備えて他部署でも顧客対応業務を担えるようにしたが、規模が小さいため十分とは言えないのが実際のところだ。一度コールセンターを集約したことで、マネジメント方針や管理指標、システムが統一されたため、今後は仮に拠点を分散したとしても、以前のようにばらつきが生じることはない。そこで同社では、将来的にはリスクヘッジのための分散も視野に入れている。
 また、今後も継続的にマルチスキル化を推進する一方、2009年10月には電話回線のIP化を図り、別の拠点で運営している修理センターや受注センターへのリアルタイム・エスカレーションを可能にする。これにより、さらに高いレベルでのワンストップかつスピーディーな対応を実現する計画である。

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リコーお客様相談センターの受付風景


月刊『アイ・エム・プレス』2009年1月号の記事