コンタクトセンター最前線(第77回):カスタマーセンターを企業の顔、不測の事態の受け皿、VOC活動の基点として開設

住信SBIネット銀行(株)

2007年9月24日に開業した住信SBIネット銀行(株)は、店舗を持たずにインターネットと電話により普通預金、外貨預金、住宅ローンといった多様なサービスを24時間・365日提供している。店舗を持たない同行にとって、カスタマーセンターは唯一の顧客接点である。今回は、同行の顔として、また不測の事態の受け皿として、そしてVOC活動の基点としても活躍するカスタマーセンターを紹介する。

開業と同時にオープン

 住信SBIネット銀行は、住友信託銀行グループとSBIグループがお客さま本位の革新的な銀行を目指して共同設立したインターネット銀行である。同行が目指すのは、使いやすく魅力ある商品・サービスを24時間・365日提供するインターネットフルバンキング。「お客さま中心主義」をすべての事業活動の原点として、お客さまのさらなる利便性の向上と社会の発展に貢献する新しい価値の創造に努めている。
 具体的には、市場性・リアルタイム性を重視した円・外貨預金、SBIイー・トレード証券(株)との連携によるシームレスな証券資金決済サービス、米ドル預金によるSBIカード利用額のドル資金決済サービス、非対面での住宅ローンやカードローンの借入取引など、各種サービスを簡単かつスピーディーな手続きで提供している。
 同行の取り組みへの評価は数字に表れており、2007年9月24日の開業から57日で預金総残高が1,000億円を突破。その後も着実に増え続け、2008年1月23日には2,000億円を突破している。
 インターネットを主要な取引チャネルとして非対面取引を手掛ける同行にとって、お客さまとの唯一の接点となるのが電話とeメールでお客さまに対応するカスタマーセンターだ。同行がカスタマーセンターの開設準備を始めたのは2006年。2007年7月よりオペレータの採用・研修に着手し、同年9月24日の開業と同時にオープンした。

カスタマーセンターの3つの役割

 同センターは会社の顔として、またシステムダウンなど不測の事態の受け皿として、見込客と既存客の双方に対応している。
 このほか、お客さまの声を活かす活動も同センターの役割である。インターネットでビジネスを展開する上で不可欠となるのは、使い勝手の良いWebサイトを構築することであるが、これを実現するには、ユーザーであるお客さまから操作につまずいたところやわかり難い箇所について情報を得て改善するという活動が必須なのだ。同センターは、“会社の顔”“不測の事態の受け皿”、そしてお客さまの声を収集し商品やサービスの改善に活かす“VOC活動の基点”の3つの役割を担っている。

部分的なアウトソーシングで全体の運営効率を高める

 同センターは東京都内に設置されており、現在、約100名のスタッフを保有。常時、約50名が対応に当たっている。有人対応の受付時間帯は、平日の9時から19時までと、土日・祝日の9時から17時まで。年末年始とゴールデンウイークは休業となっている。
 図表1は、受付体制のイメージである。受付内容は、見込客と顧客とで異なり、前者は、口座開設の受け付けから進捗状況の案内、Web操作、資料請求、各種問い合わせに対応。後者は、各種取引、諸届変更、資料請求、各種問い合わせへの対応のほか、ローングループでは返済督促のアウトバウンドも行っている。

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 センター運営は、基本的にはインハウスだが、一般的な問い合わせなど対応の定型化を図りやすい業務についてはアウトソーシングするというように、インハウスとアウトソーシングを上手く使い分けることで効率的・効果的なセンター運営を行っている。
 このほか、同センターでは現状の受付体制で応答率を高めるために、お客さまの属性に応じたオペレータのグループ分けは行っていない。スキルベースによるルーティングを行うことで、ひとりのオペレータが見込客、既存客を問わず複数の用件に対応しているのだ。ただし、各種業務の中でもローンについては専門知識が必要なためローングループを設置。ローンに関する問い合わせや相談への対応のほか、支払いの督促業務を行っているが、一般のコールが集中した時には、待機中のローングループのオペレータもこの対応に当たる。
 ちなみに、IVRはオペレータ対応時間外の補完として位置付けられており、実際に利用されているサービスを見ると、パスワード変更が多い。

オペレータの習熟度が向上しコール増でも応答率アップ

 カスタマーセンターの立ち上げに当たっての留意点は多々あるが、中でもお客さま対応の基本となるマニュアル作りは多くのセンターが力を注ぐところであり、苦労するところでもある。しかし同行では、グループ会社であり現在も連携してサービスを提供しているSBIイー・トレード証券のコンタクトセンターで培った経験を活かしてセンターを構築することができたため、この点においては比較的スムーズにできたという。
 とはいえ、スムーズで適確な対応を行うために必要なカスタマーセンター独自のイントラネットの作り込みには、細心の注意が払われている。具体的には、口座開設からログインの方法、各種取引の操作の流れに沿ってトークスクリプトを作っていった。特に、開業初期に多く寄せられると考えられる、口座開設と開設の進捗状況、口座開設後のログイン方法やパスワードに関する問い合わせへの対応準備を入念に行ったという。
 同社の予測は的中。入念な準備の効果は、応答率から見て取れる。図表2は、2007年10月から2008年2月までの口座開設数の推移と応答率を示したものである。この間に行った外貨預金キャンペーンが好評だったこともあって、コールが1.5倍に増えた(実コール数は非公表)。これに伴い、口座開設数も右肩上がりで伸びたが、応答率は常に98%を超えている。金融機関のコンタクトセンターは一般的に応答率が高いことで知られているが、同センターの場合、受付体制を拡充することなく、応答率を維持・向上させているのだ。同行ではその理由として、前述の事前準備に加え、オペレータの習熟度が向上してきたことも大きく貢献していると見ている。

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 また、同センターでは、対応に当たっての留意点として、回答の均一化を挙げている。同センターでは、お客さまの大切な資産をお預かりすることから、同じ用件に対する回答内容が異なることのないよう、細心の注意を払っているのだ。具体的な対応策としては、トークスクリプトとWebサイトのヘルプ情報やFAQの同期を推進している。

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住信SBIネット銀行のホームページとテレホンバンキングサービス一覧。お客さまに一覧を見ながら電話をかけていただくことで、スムーズな取り引きを推進している

フリーダイヤルの導入でサービス品質を向上

 応答率の高さを言い換えると、電話がつながりやすい環境となる。同センターが行っている工夫のひとつに、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスの導入が挙げられる。見込客と既存客とで異なるフリーダイヤル番号を設けることで、キャンペーンなどで一時的にコールが増えても既存のお客さまに迷惑がかからないよう配慮した。また、いずれのフリーダイヤル番号も携帯電話からの着信を可能とすることで、よりつながりやすい環境を整えている。
 フリーダイヤルサービスの導入は、サービス品質の向上にも役立っている。お客様は不明点があって問い合わせをしてくるため、通話料を企業側で負担するのが良いという考えが同センターにはあるのだ。また、お客様への還元という意味もある。通常の銀行は店舗に経費がかかるが、同行には店舗がない。その分、取引手数料を無料もしくは安価に設定しているが、フリーダイヤルの導入もこれと同様の施策として位置付けられている。

システム採用のポイントは安心と安定

 コンタクトセンタシステムには、(株)ブレイニーワークスのe-MARKETBRAINコンタクトセンターを導入した。
 採用のポイントは3つある。ひとつ目は、勘定系システムや債権回収管理システム、外貨システムといった複数のシステムとの連携が容易なこと。2つ目は、操作性が高いこと。そして3つ目は、安心感と安定性が高いことである。特に安心感と安定性は重要なポイントだ。同センターでは、同システムが地方銀行などへの導入実績が豊富で安心感がある上、急なコール増においても安定して稼働する点を高く評価している。
 また、eメール対応の進捗管理には、(株)セールスフォース・ドットコムがSaaSモデルで提供しているsalesforceを利用している。

問い合わせ件数の抑制にお客さまの声を活かす

 カスタマーセンターの開設から約6カ月が経過した。前述の通り、オペレータの習熟度が増し、応答率が高まってきた同センターでは、今後はナレッジの蓄積とそれをオペレータに伝えるスピードの向上に努めていく意向。よりスムーズな周知を目指す。
 これと同時に、オペレータのスキルアップにも注力し、全員をマルチスキルのオペレータへと引き上げていくという。同センターでは、マルチスキルのオペレータが増えれば転送が減り、より一層、サービス品質が高まると見ている。
 また、インターネットフルバンキングを目指す同行では、カスタマーセンターで収集したお客さまの声を基にWebサイトを改善。これにより、問い合わせ件数を減少させたいとしている。 

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カスタマーセンターの様子。奥が管理者席となっている


月刊『アイ・エム・プレス』2008年4月号の記事