コンタクトセンター最前線(第63回):根気よく話を聞いてお客様の気持ちを晴らしお客様とサロンの良好な関係作りをサポート

(株)ソシエ・ワールド

1960年に創業した(株)ソシエ・ワールドは、 女性の美しさを追求するトータル・エステティックサロン。同社のお客様相談室では、会員を対象に問い合わせおよび苦情を受け付けることで、 会員が気持よくサロンへ通い続けることができるよう、会員とサロンとの橋渡し役を担っている。

80年代にお客様相談室の基礎を固める

 「お客様相談室は、良いことも悪いことも、お客様の気持ちをすべて受け止めるところ」
 女性の美しさを追求し、ヘアからフェイシャル、痩身、ネイル、スパまで豊富なメニューを提供する、トータル・エステティックサロン、ソシエ・ワールド(株)では、会員(=お客様)を対象としたお客様相談室をこう表現する。
 同社がお客様相談室を開設したのは、サロンをオープンして間もなくのこと。当初は専任のスタッフはおらず、本社内で内容に応じて適した社員が対応に当たっていた。
 1980年代に入り、エステティック事業を拡大する中で、お客様相談室も組織化されていく。受付窓口には、当時NTTコミュニケーションズがサービス提供を開始したばかりのフリーダイヤルを導入し、運営体制の基礎を固めた。お客様相談室は現在、営業本部、法務室、経営企画室、管理本部と並ぶ重要な部門と位置付けられている(図表1)。

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用件別に電話番号を用意しCSと生産性の向上を図る

 現在、お客様向けの窓口としては、お客様相談室のほかに、「ホットライン」という名称の窓口も用意している。お客様相談室もホットラインも、東京の本社内に設置されているお客様相談室で同一のスタッフが対応しており、こちらも受付窓口にはフリーダイヤルを利用。各々異なる番号で受け付けている。
 お客様相談室では、サロンや各種コースに関する問い合わせのほか、施術期間の延長、ケアに関する相談、サロンの接客や施術に関する苦情・意見、お礼の受け付けに対応。これに対し、ホットラインでは住所変更やチケット残高照会(入会時に施術を受けるために、あらかじめお客様が購入したチケットの残高)、入会したサロン以外での施術の申し込みなど、事務的な用件を受け付けている。
 このように、用件の性格が異なるため、各々に専用番号を設けて窓口を明確にすることはお客様にとってわかりやすく、かつスピーディーに正確な回答が得られるというメリットがある。逆に、同社においても、電話番号によって用件を識別することができるため、効率を高めつつCS(顧客満足)を向上することができるというメリットを生んでいる。
 加えて、携帯電話からの着信を可能にすることでもCSを向上している。
 フリーダイヤル番号の告知媒体には、入会時に配布する「ご利用の案内」と「サロンのご案内書」のほか、お客様専用Webサイトや会報誌『シェリーポケット』などを活用している。
 受付時間帯は、午前10時から午後6時半まで。年末年始以外は休まず営業している。お客様相談室では、フリーダイヤルの基本サービスのひとつである発信地域案内サービス(図表2)を使用することで、着信ごとに発信エリアを確認した上で電話に出ている。

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 発信地域を知ることで、そのデータをマーケティングに活用することができる。さらに、発信元が携帯電話か一般電話かも識別できるため、お客様の状況を推測して対応することも可能だ。
 受付時間外の着信には、自動アナウンスで対応。お礼の気持ちと営業時間外であることを伝えた後、営業時間内に掛け直すようアナウンスすることで、お客様に失礼のないよう留意している。

経験を活かしたスタッフィングを実施

 お客様相談室での対応スタッフ数は6名。フルタイムの正社員4名、契約社員1名、アルバイト1名で構成されており、シフト制で常時2 〜3名が対応に当たる。お客様の相談に応じるに当たっては、施術などサービスに関する知識とサロンの運営に関する知識を必要とすることから、最近、サロンの店長経験者を迎え入れた。
 エステティックサロンのお客様の大半は女性である。そのため、応対者もすべて女性が良いと考えがちだが、同社では正社員4名のうち2名に男性社員を起用している。理由のひとつに、応対する中で、お客様から第三者の意見として異性の意見を求められるケースもあることが挙げられる。もうひとつは、男性のほうが話しやすいと感じるお客様もいるためである。
 このように、店長経験者や男性社員を起用するといった点は、同社が長年の経験の中から得たノウハウと言えよう。

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「サロンのご案内」(左)の中面を開くと、大きく記載されたお客様相談室のフリーダイヤル番号に目が留まる

苦情はお客様のSOS

 冒頭で紹介したように、同社ではお客様相談室を「良いことも悪いことも、お客様の気持ちをすべて受け止めるところ」と言うが、こうしたお客様に対する姿勢は、対応時の留意点にも表れている。
 留意点のひとつ目は、お客様の気持ちになって心情を読み取ること。中には、発する言葉と本当に伝えたい思いが裏腹だとか、適当な表現が見付からずに言葉に迷うお客様がいるのである。
 2つ目は、お客様の話を漏らさず聞き、お客様にとって納得のゆく対応をすること。たとえ取りとめのない話であったとしても、話しているうちに本音が出ることもある。よく話を聞いたらお客様が勘違いしていた、などというケースもあるのだ。
 お客様の心情を読み取り、納得していただける対応をするには、お客様の気持ちが晴れるまで根気よく話を聞くことが不可欠である。そのため、お客様相談室の通話時間は、ホットラインの通話時間よりも長く、30分から1時間ほど。時には2時間にも及ぶ。
 お客様相談室では、この時間を肯定的にとらえている。なぜなら、これまでの経験から、お客様相談室に施術や接客に関する苦情・要望を申し立てるお客様は、結果を求める目的意識が高い、もしくは、理想のサロンを求めており、同社に寄せる期待が高いことがわかっているからだ。数々のエステティックサロンを経て、ようやく理想のサロンに出会ったのがソシエだったというお客様もいる。苦情や要望は、ソシエのエステティックを信頼し、ソシエに通い続けたいと思うお客様のSOSなのである。
 しかし、苦情や要望は、お客様が直接、顔を合わせるサロンのスタッフには伝えにくい。そこで、お客様相談室がこうしたお客様のSOSをキャッチし、サロンとお客様の関係を取り持っているのだ。
 同社のお客様は長期にわたってサロンを利用する方が多い。中には10代の頃に母親に連れられて来たのをきっかけに、十数年通っているお客様や、親子3代で利用しているお客様もいるほどである。こうしたお客様は、親が子を思いやるような気持ちで意見されるのだ。また、お客様には経営者も多く、親切心からアドバイスが寄せられることもある。厳しい言葉の裏にあるお客様の期待を感じとり、よりよいサロン作りに役立てていくことも、お客様相談室の大切な役割となっている。

社内の理解が迅速な回答につながる

 お客様相談室に寄せられる問い合わせや苦情、意見は、年間約4,000件。確認が必要な要件については、施術に関することは教育部、接客・接遇に関することはサロンに確認し、コールバックしている。
 なお、確認が必要な案件については、お客様に回答期日を提示し、了解いただいた上で電話を切っている。回答期日を約束することで、CSの維持を図っているのだ。
 数十年にわたりお客様の声に耳を傾けてきた同社の中には、お客様の声を聞き対策を講じることに対する理解がある。すでにお客様の声を聞く風土ができているため、お客様相談室から確認の連絡が入ると、いずれの部門も迅速に対応する。こうした風土が、お客様へのスピーディーな回答を実現し、約束を守ることにつながっていると言える。
 また、サロンの接客・接遇に関する苦情や要望の場合は、お客様相談室のスタッフがサロン店長の指導に当たることもある。
 お客様相談室では、お客様から寄せられた用件とその対応内容を1日単位で一覧表にまとめ、関連部門で共有している。一覧表には、苦情や意見だけでなく、お礼のメッセージもある。お客様の丁寧で心温まるお礼の言葉は、お客様相談室スタッフのモチベーションを高める特効薬であるほか、サロンスタッフや各部門の励みにもなっているという。

苦情やニーズの早期察知に向けてご意見箱を新設

 現在、お客様相談室では、スタッフの応対品質のばらつきを課題としている。これは経験の差によるものである。お客様相談室に寄せられる内容はお客様によって異なり、対応をマニュアル化しにくい。そのため、対応レベルを一定に保つには、やはり経験を積む必要がある。時間を要することは否めないが、1日の受付状況一覧表の作成を通じて全件に目を通すことで、短期間で多くの声にふれ、応対品質のレベルを引き上げようと努めているところだ。
 今後の取り組みとしては、より積極的にお客様の声の収集にチャレンジしていく意向。具体的には、サロンにご意見箱を設置し、アンケート調査で取りこぼしていた意見や要望を収集する。お客様の声を聞くためのツールを増やすことでより多くの情報を得ることができれば、そこから苦情やニーズを察知することも不可能ではない。顔が見えない電話であっても苦情や要望は伝えにくいと、これまで意見することを躊躇していたお客様の声を聞くこともできるだろう。
 お客様相談室には、今日に至るまでにたくさんのノウハウが蓄積されてきた。その間には目覚しいITの進展もあった。しかし、どれほどITによるメリットを享受したとしても、お客様とのコミュニケーションにおいて大切なものは、気持ちのキャッチボールに違いない。この信念が、お客様の信頼の獲得につながっていると言えよう。

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お客様が声を発しやすいよう、2006年12月からパンパシフィックホテル横浜店のロッカールームに試験的に設置した「ご意見箱」


月刊『アイ・エム・プレス』2007年2月号の記事