コンタクトセンター最前線(第61回):法制度の知識を持つオペレーターがトラブルに応じて関連機関を紹介

日本司法支援センター

国民にさまざまな法律上のサービスを提供する日本司法支援センターが、この10月から業務を開始した。 同センターの業務のひとつである情報提供業務の中心となるのがコールセンターだ。人材の採用から育成、センター運営の課題などを聞いた。

国民と司法の橋渡し役として誕生

 2006年10月2日、これまでに類を見ない新しいコールセンターが開設された。それは、愛称を「法テラス」とする日本司法支援センターのコールセンターである。
 昨今、社会構造などの変化に伴うトラブルが増大している。しかし、解決策がわからない、どこで、誰に相談したらよいかわからない、身近に弁護士がいない、経済的理由から弁護士に依頼できないなど、国民と司法の間には大きな壁があり、権利を守ることができない人々も少なくない。「法テラス」は、この壁をなくして国民が民事、刑事を問わず法による紛争解決に必要な情報やサービスを受けられる社会を実現しようと、「総合法律支援法」に基づいて2006年4月に設立された公的機関である。東京に本部を構え、全国50カ所に地方事務所を設置している。「法テラス」という愛称は、「法で社会を“照らす”」「日当たりのよい“テラス”のように安心できる場所にしたい」という思いを込めて名付けられた。「法テラス」が提供しているサービスは次の5つである。
①紛争解決に役立つ法制度や法律サービスを提供する関係機関を紹介する情報提供業務
②資力の乏しい方に無料法律相談や裁判代理費用、書類作成費用の立替などを行う民事法律扶助
③弁護士や司法書士がいない地域で法律サービスを提供する司法過疎対策
④被害者の援助に詳しい弁護士や専門機関を紹介する犯罪被害者支援
⑤迅速・確実に国選弁護人を確保し、捜査から裁判まで一貫した国選弁護体制を整備して裁判員制度の実施を支える国選弁護関連業務

 国民がこれらのサービスを受ける際、窓口となるのがコールセンターだ。コールセンターでは、利用者の困りごとを把握し、 迅速かつ的確に、解決に必要な法制度や機関を紹介している。つまり、国民と司法の橋渡しの役割を担っているのだ。
 「法テラス」のサービスは、事務所を直接たずねても利用することができる。しかし、利用者のニーズや利便性を考えると電話での情報提供は不可欠である。そこで、「法テラス」の開設に先駆けて、2005年12月1日から14日まで鳥取県において、また、翌3月10日から16日まで茨城県において電話による情報提供を試みた。これに、他機関の相談窓口の調査結果などを合わせて利用数を試算したところ、年間100万件を超えるという結果が出た。だが、各事務所ですべての電話に対応していては窓口業務に支障をきたす。また、電話がつながりにくい状態が生じ、利用者の不満足につながる可能性も否めない。そこで、各事務所の職員が窓口業務に集中できるとともに、利用者に満足していただける体制を作ろうと、コールセンターを開設するに至った。

告知に力を入れコールセンターに電話を誘導

 コールセンターは、東京・中野区に100席規模で開設された。受付時間帯は平日の9時から21時までと土曜日の9時から17時まで。日・祝日と年末年始は休業となっている。夜間と土曜日も営業することで、日中は仕事がある方でも利用できる環境を整えた。
 「法テラス」では、利用者のファーストコンタクトをコールセンターに誘導しようと、パンフレットに「法的な困りごとは法テラスへお電話ください」といったメッセージをナビダイヤル番号と併せて記載。このほか、ホームページに大きくナビダイヤル番号を記載するなどして、コールセンターの告知に努めている。
 ナビダイヤルとは、NTTコミュニケーションズ(株)のサービスのひとつで、通話料を発信者と着信者とで負担することができる点を特徴としている。「法テラス」は公的な機関であることから、国民に均一なサービスを提供するべくナビダイヤルを導入し、全国どこからでも同じ通話料(3分8.5円/税別)で利用できるようにした。
 ナビダイヤル番号には、0570-078374(おなやみなし)と語呂が良く覚えやすい番号を使用。また、犯罪被害者支援は専門家の対応が必要なことから、別途、犯罪被害者支援ダイヤル(0570-079714〈なくことないよ〉)を設けている。
 新しく設立された法人で、かつ新しいコールセンターを開設するとあって、「法テラス」では、地方自治体コールセンターの構築を手掛けた実績を持つアクセンチュア(株)をパートナーに迎えた。アクセンチュアでは、オペレーターなどスタッフの採用、オペレーターの応対をサポートするFAQや関係機関データベースの検索機能を備えたコールセンターシステムの構築から実際の運営まで、コールセンター業務を全面的に担っている。
 FAQの作成に当たっては、地方公共団体や警察などに寄せられている相談案件を参考にした。地方公共団体や警察などのFAQは信頼性の高いものだが、「法テラス」の業務とは異なるため、今後、コールセンターに蓄積した情報を基にFAQを作成していくことで、「法テラス」の業務にマッチしたFAQを充実させていきたいとしている。

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トップページには、大きな文字でコールセンターのナビダイヤル番号が記載されている。とても目につきやすい(写真左)
地方自治体などで配布されているパンフレット。法テラスの役割や利用方法などがわかりやすく記載されている(写真右)

採用のポイントは明るい性格

 対応に当たるオペレーターは、全国の地方公共団体の消費生活センターなどでの勤務経験を持つ消費生活相談員や、消費生活コンサルタント、消費生活アドバイザーといった有資格者と裁判所OBなど。また、犯罪被害者支援ダイヤルのオペレーターは、犯罪被害者支援相談の経験者および、警察や検察のOBで構成されている。このほか、日本弁護士連合会の協力を得て、弁護士が常駐している。これに、スーパーバイザー(SV)やセンター長を加えると、コールセンターのスタッフ数は約100名に及ぶ。このように、消費生活相談資格保有者や弁護士など法的知識や経験を持つ人材を多数雇用できる地域は、東京都内のほかにはない。ここに、東京にコールセンターを設置した理由がある。
 しかし、東京だからといって一般的な人材の募集方法で必要な人数を確保できる保証はない。では、どのように採用したのだろうか。「法テラス」ではまず、全国相談員協会など相談員で構成される団体に推薦を依頼。リストアップされた200名と面接を行った。採用のポイントは、資格を持っているだけでなく相談経験があること、システムに対応できること、性格が明るいことの3つ。利用者から寄せられるのは困りごとであり、困りごとと言えば総じて暗い内容であるだけに、明るい性格は重視したという。併せて一般からも人材を募集。こちらの採用には、志望動機、サービス業経験、法律関連の資格を持っていることの3つをポイントとした。
 相談員としての経験や専門知識のある人材を採用しているため、3日間の導入研修は基本的な法制度や関係機関に関する知識と、システム操作を習得させる内容とした。加えて、もう一歩踏み込んだ法制度の研修と、電話応対マナーの研修をそれぞれ3日間にわたって行った。このほか、ビデオに録画した弁護士の講義をオペレーター専用のポータルサイトで配信するeラーニングも実施した。ちなみに、このポータルサイトは、前日に多かったミスなどの注意事項や各種連絡事項など日々の業務連絡にも利用されており、オペレーターたちは業務に就く前に閲覧することが義務付けられている。

応対おける3つの留意点

 図表1は、情報提供業務のイメージである。ここにあるように、困りごとを抱えている利用者が電話でコールセンターに問い合わせると、オペレーターが問題を把握・整理して最適な関係機関にコールを転送したり、解決に役立つ情報を提供したりしている。

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 現在、関連機関は弁護士会、司法書士会、地方自治体、裁判所など約2万5,000カ所。このうち、コールセンターからの転送を受けてくれる機関が約1,300カ所ある。コールセンターで問題を整理して関連機関へつなぐことにより、関連機関では対応範囲外の問い合わせを防ぐことができ、本来業務に集中することができる。利用者にとっても、関連機関にとってもうれしいサービスと言えよう。
 コールセンターでは、以下の3つに留意して対応に当たっている。
 まず、利用者の話をじっくり丁寧に聞くこと。とにかく、困っている状況を誰かに話したい、あるいは聞いてもらいたいという欲求を持っている利用者も少なくないのである。
 次は、法制度の紹介をすること。困りごとに応じて弁護士会や地方公共団体などの適切な関係機関を紹介するとともに、問題解決に役立つ知識の提供も積極的に行っていく。
 そして最後は、関連機関へ丁寧に引き継ぐこと。コール転送時に、コールセンターから利用者の用件を伝えておくことで、スムーズな引き継ぎが可能になる上、利用者が何度も同じことを話さなくて済むという利点もある。

開設からわずか1週間で1万件以上のコールに対応

 10月2日から7日までに寄せられたコール数は1万2,270件。新聞などで開設のニュースが伝えられたこともあって問い合わせが集中。電話がつながりにくくなり、応答率が目標の90%を下回る状況が続いた。 しかし、翌週の9日以降は、1週間当たりのコール数が6,000件代~7,000件代に落ち着きはじめ、現在では応答率が99%に達する日もあるという。ちなみに、10月の総受付件数は3万5,303件であった。
 情報提供業務に関しては、通話時間7分、後処理時間3分で計10分を目標にしているが、犯罪被害者支援に関しては通話時間の目標は定めずに後処理時間のみ3分という目標を掲げている。現在、情報提供業務においては通話時間8分、後処理時間4分と目標値に達するにはあと一歩というところ。「法テラス」では、後処理は1分にまで短縮可能と見ており、浮いた時間を通話に当てることでサービスを充実させたいとしている。
 コールセンターに寄せられる法的トラブルで最も多いのが債務整理。次に離婚、相続、土地と続く。これらのFAQは特に充実させているが、まだ個々のオペレーターの能力に依存している部分も大きいのが実際のところ。また、オペレーターごとに得意な分野がある一方、知識が浅い分野もあることから、分野別の研修を行うなどして知識を補充すると同時に、応対品質の均一化に取り組む構えだ。
 コールセンターでは、コール数が落ち着きを取り戻したこの時期を利用してコールセンターの基盤を固めていく意向。また、より一層、認知度を高めるために、新聞、ラジオ、交通広告などを活用したPRを継続するほか、電話番号を記載したシールやマグネットなどの作成・配布も検討している。さらに、コールセンターの営業時間外でも国民に情報提供ができるよう、1日も早いWebサイト上でのFAQおよび関連機関情報の公開を目指して、取り組んでいるところだ。
 法テラスのコールセンターは、船出したばかり。国民にとって司法をより身近なものとする機関として、今後の活動に期待が集まっている。

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今後の拡張を見据えて用意された広々としたフロアに約100席が設けられている。10名のオペレーターにSVがひとり付いており、SVの後ろ(写真左側)には弁護士たちが控えている


月刊『アイ・エム・プレス』2006年12月号の記事