コンタクトセンター最前線(第49回):中国・大連に北アジアの拠点を新設しグローバルで品質とパフォーマンスを追求

日本ヒューレット・パッカード(株)

国によるサービスレベルの違いをなくし、 世界中どこにいても変わらないサービスをお客様に提供しようと、 2004年、中国・大連にサポートセンターを新設したヒューレット・パッカード。 日本ヒューレット・パッカードでは、 2005年1月から、 一部の業務を大連に移行し、現在、順調に稼働しているという。 今回は中国・大連にコールセンターを移行した背景と現状、今後の取り組みを紹介する。

PCテクニカルサポート業務を大連へ移行中

 法人から個人まで世界規模でサービスを提供するテクノロジー・ソリューション・プロバイダとして、ITインフラストラクチャ、コンサルティング&インテグレーションをはじめ、PC、PDA、プリンターまで幅広い製品とサービスを提供しているヒューレット・パッカード(以下、HP)。その日本法人である、日本ヒューレット・パッカード(株)(以下、日本 HP)の PC・IAサーバー・ハードコピー カスタマーサポートセンターは、2002年12月のコンパックコンピュータ(株)との合併を機に、統合サポートセンターとして新たなスタートを切った。
 同センターは、全国から NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルで商品購入後のお客様からの問い合わせを受け付ける、無料サポート窓口である。対象商品は、法人またはSOHO向けのデスクトップパソコン、ノートパソコン、IAサーバー、ネットワーク機器、大判プリンターなど多岐にわたる。
 合併以降、国内4カ所のセンターでサポート業務を行っていたが、2005年1月より、パソコン(ノートおよびデスクトップ)のテクニカルサポート業務の一部を中国・大連のコールセンターへ移行した。現在は、既存の4センターと大連のセンターの5拠点で対応に当たっている。
 大連へのサポート業務移行には、次のような背景がある。
 同社では世界各国に現地法人、もしくは販売店を設けているため、日本人が現地のサポートセンターを利用するケースがある。ところが、国ごとに文化が異なることからサービスレベルにも違いがあり、日本人にとって必ずしもその国のサービスが使いやすいとは言えない状況にあった。特に中国には多くの日本企業が進出しており、同社製品のユーザーも大勢いることから、中国在住の日本人ユーザーから日本のコールセンターにサポートを求めてくるケースも少なくなかった。こうした状況の中、HPでは、カスタマーサポート全体のレベルアップとパフォーマンスの向上を目指して、「グローバルデリバリープログラム」を始動。国によるサービスレベルの違いをなくし、お客様が世界中どこにいても変わらないサービスを提供しようと、2004年、中国・大連にサポートセンターを新設。これを北アジアの拠点とし、台湾、香港、中国、日本、韓国のサポートセンター集約に乗り出したのである。
 すでに台湾、香港の移行が終了しており、現在、中国の北京、日本、韓国のコールセンターを移行しているところだ。

フリーダイヤルの機能で用件に応じたセンターへコールを振り分け

 図表1は、受付体制のイメージである。まず、お客様がサポートセンターのフリーダイヤルに電話をかけると自動音声で応答。お客様が入力した番号に基づき、フリーダイヤル・インテリジェントサービスの接続先指示ルーティングによって、用件にあった受付先にコールを振り分けている。

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 さらに、センターの振り分け情報などをWebブラウザにより照会・変更することができるカスタマコントロールを利用することで、リアルタイムでの受付状況の把握と体制の変更を可能としている。これにより、それまでシステムベンダーに依頼していた受付先の変更やガイダンスの設定がセンター側でスピーディーに行えるようになり、保守費用の削減が実現した。このほか、発信地域指定サービスを利用して、発信地域別のコール数を把握するなど、同センターではこのサービスを活用して、高機能なコールセンターを構築している。
 大連のセンターが受付拠点に加わっても、このルーティング方法は変わってない。ただし、フリーダイヤルでは海外拠点に直接、電話をつなぐことができないため、同センターでは、いったん国内の拠点を経由してから大連に着信させている。これは、既存のインフラを活用したネットワーク内での転送のため、コスト負担は少ないが、ネットワークがダウンするとお客様の電話がつなげなくなるという危険性がある。そこで同センターでは、ネットワークに障害が発生したときのバックアップとして音声系の専用線を設け、万一に備えている。

大連のセンターは順調に稼働 新たな業務も検討中

 大連コールセンターは、600席を有する大規模センターで、このうち3分の1が日本向けのカスタマーサポートセンターとなっている。現在、日本向けのカスタマーサポートセンターには約100名のコールエージェントが勤務しており、このうち中国人が6割、日本人が4割と、若干中国人の割合が高い。中国人コールエージェントは、大連コールセンターの開設に当たり現地で採用。また、日本人コールエージェントは日本で採用し、現地入りさせた。
 同センターには、問い合わせだけで月間3万件ものコールが寄せられる。これを中国人と日本人で受け付けるとなると、中国人だけでも相当数のコールエージェントを確保しなければならない。しかも、流暢な日本語を話す人材でなければならないことから、センター長は当初、希望する人数を集められないのではないかと危惧していた。ところが、面接には定員を大幅に上回る応募があり、また予想以上に日本語のスキルが高かったことから、採用はスムーズに行うことができた。
 続いて、日本人コールエージェントの採用に当たっても、中国で働くことを希望する日本人がいるのだろうかという疑問があった。ところがこちらもそのような不安をよそに、定員以上の応募が寄せられ、予定していた人数を揃えることができた。
 採用に当たっては、日本語のスキルとテクニカルスキル、そして明るい声であることに留意。また、雇用形態については、コールエージェントのモチベーションや責任感を高めるために、社員として採用した。
 導入研修は、すべて日本語で実施。研修期間は2〜3カ月で、スキルが一定レベルに達したところで、実際のオペレーションに移行していった。
 言葉や採用に不安はあったものの、現在コールセンターは順調に稼働している。そのため、移行することは決まっていたがスケジュールが確定していなかった業務に早期に着手するとともに、当初は予定していなかった業務の移行も検討中である。
 また、センター内の人間関係も上手くいっているようだ。ほかの外資系企業では、中国人同士、日本人同士でグループを作ってしまうこともあるようだが、同社のコールエージェントたちは国籍を問わずランチをともにする光景があちらこちらで見られるという。また、センターが過渡期にあることから、ゼロから作り上げながら自己の能力を高めたいという意識を持っているコールエージェントが多く、センターは活気に満ちているという。

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大連コールセンターの外観(写真左)/オペレーションの様子(写真右)

つながりやすいコールセンターを実現

 日本HPでは、北アジアのサポートセンターを集約したことにより、日本だけでなく、各国にメリットがもたらされるという。
 まず挙げられるのが、より電話がつながりやすい受付体制が実現したこと。中国進出と聞いて想起するのがコスト削減だが、人件費や物価が安価であることは、同じ費用でより多くの回線と人員の配置が可能なことを意味する。余裕のある受付体制を敷くことで、電話がつながりやすい環境を整備。感覚的にではあるが、以前よりつながりにくさが解消されたと見ている。
 もうひとつのメリットとしては、各国の応対品質とパフォーマンスの管理部隊をひとつに集約できたことを挙げている。かねてよりHPでは、問い合わせ終了後、サーベイ会社からお客様へ電話をかけて、応対に対する満足度を調査してきたが、これを除いては、国ごとに管理部隊が設けられ、管理方法も評価基準も各国各様だったのである。管理部隊がひとつにまとまったことで、基準も統一され、管理の効率が高まったのだ。
 国ごとにサービスレベルにも違いがあることを先に述べたが、センターが統一されたことで、各国の文化やお国事情の理解が進むものと考えられる。これにより、日本HPではお客様に各国のサービスの違いをきちんと説明できるようになることも期待している。
 また、ナンバーワンと言われている日本のサービスをほかの国に知ってもらうことができる、いい機会ともとらえている。

問い合わせが寄せられる理由を考えることが大切

 前述のように、余裕のある回線数と人員の配置により、電話がつながりやすい環境は整った。しかし、サービスに完成形はなく、次はより早く、さらにその次はより正確にと、お客様のサービスへのニーズはどんどん高くなっていくだろう。今後同社では、高まるニーズに対応していくために、トレーニングに注力していく計画。これまで以上に、サービスのクオリティとパフォーマンスを追求することにより、お客様にとっても、同社にとっても有益なコールセンターとして成長させていくことを理想としているのである。一方、人員の拡充を図り、業務の移行を推進する計画。現在、新たにコールエージェントの採用を行っているところだ。
 また同社では、本来はお客様が問い合わせをしなくてもいいことが一番のサービスであると考えており、これからは、なぜコールセンターに問い合わせが寄せられるのかを分析して、よりよい情報提供の仕組みを作り上げることが必須であるとしている。特に、一言二言で解決してしまうような問い合わせが多く寄せられる場合は、その原因を探り解決を図ることが不可欠であると考えている。
 実際に次のような例があった。お客様から「パソコンの同梱物リストにCDとあるが、見当たらない」という問い合わせが多く寄せられた。さっそく調べてみると、取扱説明書やその他用紙の間に挟まれており、見つけにくくなっていたのである。これと同様に、コードが梱包資材でおおわれていたことから、「コードがない」という問い合わせが多数寄せられたこともあったという。また、「キャンペーンの申込方法がわからない」という問い合わせが多く寄せられた背景には、Webサイト上でキャンペーン情報が見つけにくいことに問題があった。いずれも、少しの改善で問い合わせを減らすことができるものばかりである。
 大連コールセンターへ移行してから、約1年が経過した。今はまだ寄せられる問い合わせに対応するのが精一杯といったところ。だが、今後はサポートセンターの主導で、積極的に情報発信を行っていきたいとしている。

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コールエージェントの研修風景(写真左)
休憩室にはゲームが置かれており、楽しそうな様子。左側のボードには良い成果を出したスタッフを表彰する掲示が出ている(写真右)


月刊『アイ・エム・プレス』2006年1月号の記事