コンタクトセンター最前線(第41回):事故を転機にお客様対応を強化 CRMに基づく商品の改良・開発を推進

カルビー(株)

お客様にフレッシュなおいしさと満足感を届けるために、 鮮度と品質にこだわり、 新しいコンセプトの商品を提供し続けるカルビー(株) 。 同社では、2000年8月に起こったポテトチップスカナヘビ混入事件をきっかけに、大掛かりな構造改革を実施。 その一環としてお客様対応の見直しを図り、お客様の声をもとにした商品の改良・開発に着手した。 今回は、これをリードする同社お客様相談室の取り組みを紹介する。

本社と各事業所とで連携を図り地域密着型のお客様対応を展開

 かっぱえびせん、ポテトチップス、じゃがりこなど、ロングセラーのスナック菓子やシリアルなどで親しまれているカルビー(株)。同社ではかねてより電話によるお客様対応を実施していたが、1995年のPL法施行をきっかけに、広報部内に正式にお客様相談室を開設すると同時に、お客様対応支援システムを導入した。
 その後、このシステムを改良しながらお客様対応に努めてきたが、2000年8月に起こったポテトチップスへのカナヘビ混入事件をきっかけに、お客様相談室の体制強化に向けた取り組みを開始した。
 同社に限らず食品業界では、2000年から2004年にかけて、異物混入事件、狂牛病や鳥インフルエンザと、問題が多発。こうした一連の出来事が、消費者の食品メーカーに対する不信感を高めていった。そこで、同社では自戒を込めて大掛かりな構造改革に着手、業務構造の根本的な見直しを図った。その一環として、お客様相談室の体制強化も行われたのである。
 まず、北海道から九州までの各事業部にもお客様相談室を設置し、それぞれにお客様相談室長を置いた。続いて、2001年には広報部から独立。2003年にはCRMグループお客様相談室として新たなスタートを切った。
 CRMグループは、広報室、品質保証室、広告宣伝などお客様に正しい情報を伝える役割を果たすチームの 集 合 体 で、CRMはConsumer Relationship Management の略である。一般的に、CはCustomerを指すが、同社では最終消費者を意味するConsumerをあえて使っている。
 現在、本社お客様相談室では、電話、eメール、郵便により全国のお客様からの問い合わせや指摘を受け付け、全社的な情報共有と情報の活用に注力。一方、全国の事業所のお客様相談室では、指摘を申し出たお客様宅を訪問するなど、本社お客様相談室と連携を図りながら地域密着型の活動を行っている。このように同社では、全社一丸となってCRMに基づく商品改良や商品開発を推進。お客様が喜ぶ商品作りに努めている。

正しい知識を伝え、食生活を知るために教育と評価を繰り返し実施

 本社お客様相談室の役割は大きく3つある。ひとつは、電話やeメール、郵便を通じて、お客様に正しい食品の知識を伝えること。そして、お客様対応を通じて、食生活を知ることである。
 電話窓口には、2003年よりNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを導入している。導入以前は、電話をいただくとすぐに折り返していたが、その手間をなくすと同時に、有益な情報を提供してくれるお客様に通話料を負担させないために導入に踏み切った。導入に当たっては、通話時間が長くなることを懸念したが、現在は通話時間にとらわれず、必要であれば長時間の通話もいとわないという。どのような購買行動が取られているのか、あるいはどのような場合にそう感じたのかなど、問い合わせや指摘に至るまでの背景を知ることは、お客様の食生活を知る有効な手がかりとなるからである。
 受け付けに当たるのは、計12名のスタッフ。社員4名、契約社員5名、派遣社員3名で構成されている。受付時間帯は、月曜日から土曜日の9時から17時まで。日曜日と祝日は休業となっている。
 お客様相談室へのアクセス数をチャネル別に見ると、電話が1日約120件、eメールと郵便がそれぞれ約30件。土曜日は、この約6割と減少傾向にある。中でもeメールは増加傾向にあることから、お客様相談室ではこのまま増え続ければ、5年後には電話を超えると予測している。
 図表1は問い合わせ内容の内訳を示したものである。最も多いのはアレルギーに関する問い合わせで、これは年々増加傾向にあるという。また、添加物に関する質問では詳細説明を求められるケースが多く、食に対する安全、安心を求める声の高まりを感じているという。

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 このように専門知識が必要となる問い合わせが多く寄せられることから、お客様相談室では4名の管理栄養士の資格保有者を採用。正しい情報発信に努めている。
 この実現には、「安心で信頼できる知識」と「わかりやすく伝えるスキル」、そして何より「お客様本位に立ちお客様を知り、問題を解決しようとする意識」が不可欠である。お客様相談室では、まず信頼できる知識を身に付けるために、製品知識や食関連の法律に加えて、食生活にかかわる知識の取得に注力している。最近特に力を入れていることは、増加傾向にあるアレルギーに関する知識を豊富に備えることと、全員が消費生活アドバイザーの資格を取得することである。これに向けて現在、自主的な勉強会を週に2時間ほど開催しているという。
 わかりやすく伝えるスキルとしては、第一印象を決めるオープニングトーク、わかりやすい表現、間、説明手順の組み立て、正しい言葉遣いなどが挙げられる。これには、独自に作成した応対基準に基づき教育を実施している。
 お客様相談室では、定期的に知識評価テスト、ミステリーカスタマー、電話応対満足度調査を実施。その結果とお客様の声(VOC)改善実施件数をもとに、知識、スキル、お客様本位を評価し、弱い点を教育するというサイクルを繰り返すことで、レベルアップを図っている。

指摘対応の方針を変更しお客様の信頼を獲得

 もうひとつの役割は、お客様にとってのリスクを回避することである。ここでいうリスクとは、お客様にとって不利益となること。つまり、製品不良などの指摘を指す。お客様相談室では、2000年に策定したカルビーグループ食品衛生標準と2004年に策定したお客様対応標準に基づき、お客様からの指摘に対応している。
 お客様相談室では、2004年3月より、製品不良などの指摘への対応方針を大きく変更し、指摘を申し出たお客様を各事業所のお客様相談スタッフ、もしくは最寄りの営業所社員が訪問することにした。これまでは、現物の郵送をお客様に依頼していたが、不快な思いをした上に手を煩わせることはよろしくないとの考えに基づいている。加えて、従来は現物がある場合に限って交換などに応じていたが、お客様の申し出から判断して、現物がない場合でも代替品を送付するよう改めた。
 指摘対応のポイントは、正確な状況把握と敏速な対応にある。お客様相談室では、指摘が寄せられるとお客様の居住区を担当する事業所のお客様相談室へ連絡し、15分以内にお客様へコールバック。2時間以内を目標としてお客様宅を訪問し、商品を回収している。ただし、お客様の都合で訪問が難しい場合や訪問が望まれない場合は、引き取りおよび着払いの宅配便や返信用封筒を利用して回収している。
 訪問時には、お客様に失礼のないよう社員のマナーにも細心の注意を払っている。社員の応対スキルを高めるために、お客様相談室ではお客様対応学習VTRを活用した学習会を実施しているほか、携帯用の対応マニュアル「お客様対応心得帖」を配布している。
 指摘対応方針の変更から数カ月経ったころから、この取り組みの効果が表われはじめたという。図表2は、指摘を申し出たお客様を対象に、再購入の意向を尋ねたアンケート調査の結果である。「買う」「買わない」「機会があれば買う」のうち、「買う」と回答したお客様の割合が、2004年7月から少しずつ上昇し、10月には93%に達した。2002年8月と比較すると9%も高まっている。
 指摘対応を通じてお客様の信頼を獲得し、ファン作りに成功している好例と言えよう。

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期待とのギャップを埋めることが感動や喜びにつながる

 そして3つ目の役割は、お客様の声の中から気付きを得て、製品・サービスの評価を測定することである。気付きは、毎週開かれる役員会で報告し、評価測定実施の提案を行っている。
 ではここで、具体的なケースを紹介しよう。人気商品じゃがりこの姉妹品として期間限定で発売されたさつまりこについて、内容量が少ないという指摘が多数寄せられた。そこで容器と内容量に着目して調べたところ、じゃがりこよりさつまりこのほうが内容量が少なく、1本の長さが短かいにもかかわらず、じゃがりこと同じサイズの容器を使用していたために、実際よりかなり少なく見えていたことがわかった。これがお客様の不満につながっていたのである。このような不満に対する改善も、今後の課題としている。
 お客様相談室では、正しい知識を伝える、リスクを回避する、製品・サービスの評価測定をするという3つの役割に共通して、ヒアリングが大切であると認識。お客様の不満を抽出し、期待とのギャップを理解し、不満を解決する商品やサービスを開発することによって、お客様に感動や喜びを提供でき、それがひいては自社の利益につながると考えている。

プロジェクトチームを結成しお客様の声から学ぶ

 お客様相談室では、製品やサービスの評価測定にとどまらず、お客様の声を基に製品やサービスを改善するという取り組みにも注力している。この取り組みは、CRMグループ推進スタッフ、お客様相談室、生活研究室、営業部門、シリアル商品企画チームが集まり、2003年下期か ら ス タ ー ト し た。 現 在 で は、R&D(リサーチ&ディベロップメント)、シリアル以外の商品企画チームも加わり、参加メンバーが広がっている。
 具体的には次のような例が挙げられる。人口透析をしているお客様から、シリアルに含まれるリンとカリウムの量に関する問い合わせが多かったことから、パッケージに栄養成分表示を記載した。また、プロ野球チップスのラッキーカードとキラキラ光るカードを混同するケースが見受けられたため、パッケージにラッキーカードの見本を掲載したなど、枚挙にいとまがない。こうした改善例は、Webサイト上のお客様相談室のページで公開し、お客様にフィードバックしている。さらに、こうした改善を「たいへんよくできました」から「もう少しがんばりましょう」まで4段階に分けてアンケートを実施。お客様の評価を調査している点は特筆に値する。
 お客様相談室のWebサイトの活用はほかにもある。よくある質問をQ&A形式にまとめて紹介するのは、同社に限らず広く行われていることだが、注目すべきは、お客様相談室の日々の出来事や、お客様に役立つさまざまなカルビーの情報を紹介する「室長の部屋」だ。情報の更新は不定期だが、室長自らが筆を取る。やわらかい文体と、室長にそっくりなイラストで工夫を凝らし、親しみやすい雰囲気を演出している。今後は、新たな機能として、製品の取扱店をWebサイトで検索できる仕組みを構築する計画だ。
 また、今年度の上半期には、室長を含むお客様相談室のメンバーが全国の工場を訪問し、お客様に提出する報告書の作成方法の指導に当たる。お客様へ提出する報告書と詫び状の作成は、指摘のあった製品を作った工場で担当している。そのため、工場ごとに仕様が異なり、加えて専門用語が使われているなど、必ずしもお客様にとってわかりやすいものではなかった。この点に注目し、改善策に乗り出したのである。
 今後もお客様相談室では、他社のお客様相談室に負けず劣らず、お客様の声を大切にする意向。その声を活かす取り組みを多角的にサポートすることで、さらにお客様に喜ばれる美味しい製品を届けるよう、努めていきたいとしている。

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お客様相談室のトップ画面(左)/室長の部屋のページ。3月31日付けの室長日記では、期間限定販売の「おいもとあずきグラノーラ」を紹介。ネット通販に誘導している(右)


月刊『アイ・エム・プレス』2005年5月号の記事