コンタクトセンター最前線(第39回):KQRSで迅速かつ正確な対応を実現 消費者の満足度と知識の向上を目指す

キッコーマン(株)

1917(大正6)年12月に野田醤油(株)として設立されたキッコーマン(株) 。現在、 同社お客様相談室では、 消費者の声を聞き、その声を社内に還流させていく取り組みに注力。 消費者の満足度を高めると同時に、消費者の食に関する知識の向上を目指している。

四半世紀にわたって消費者に対応

 キッコーマン(株)は、日本の歴史ある食品メーカーである。今日、同社のしょうゆは100カ国以上で愛用されており、世界の“KIKKOMAN”としての認知を高めている。現在は、トップブランドとしてのキッコーマンしょうゆのほか、和風調味料、デルモンテ、マンジョウ、焼酎、マンズワインなど、商品力のある製品を世に送り出している。
 会社の歴史ほどではないが、同社のお客様相談室(以下、相談室)の歴史も長い。1980年に広報部内に設置された相談室は、今年でちょうど四半世紀を迎えたところだ。
 当初は、消費者からの問い合わせやクレームなどに広報スタッフがほかの業務と兼務で対応する程度だったが、その後、商品数や販路の拡大に伴い問い合わせ件数が増えたことから、専任スタッフによる受付体制へと移行。加えて、情報管理システムの導入にも着手した。現在は、社員3名、技術や営業の経験のあるOB社員2名、派遣およびパートタイマー5名の計10名が相談室業務を担当している。
 開設当初に比べて体制の整備が進んできた相談室。その業務内容のひとつに、問い合わせ、意見・要望、クレームへの対応がある。相談室は、こうした消費者の声をキッコーマンを代表して最初に聞く、いわば企業の顔としての存在であるとともに、「日常的に消費者の声を直接聞くことができる唯一のセクション」として重視されている。また、相談室に寄せられた声を社内に還流させ、商品の開発や改善に活かすことも大切な業務。相談室では、今後は特に後者が重視されていくものと見ている。
 受付チャネルは、電話(フリーダイヤルと一般加入回線)、FAX、eメール。電話の受付時間帯は、祝日を除く月曜から金曜の9時から17時まで。受付時間外および土・日は、留守番電話で受け付けて翌営業日にかけ直している。また、eメールは、社員が交替で対応している。

相談室

京・虎ノ門にあるお客様相談室

時代の要請に応えフリーダイヤルを導入

 相談室が電話窓口に NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを導入したのは、2004年11月とつい最近のことだ。なぜ今、フリーダイヤルを導入するに至ったのか。それは、世の中の変化に伴い消費者の要求レベルも変化し、相談業務あるいはそれに関連するサービスそのものも企業の好意ではなく、当然の行為と考えられるようになったからである。(社)消費者関連専門家会議の調査でもフリーダイヤルをはじめとする着信課金サービスの導入企業はすでに半数を越えている。
 さらに、携帯電話やPHSからの着信を可能にした。近年、携帯電話の契約台数が増加し、一般加入回線を上回っている中、若者を中心に携帯電話しか持たない消費者が増えているためだ。
 相談室の告知には、商品パッケージやWebサイトを活用。前者については、順次、フリーダイヤル番号が記載された商品を出荷している。今年の6月ごろには、店頭に並ぶほぼすべての商品にフリーダイヤル番号が記載される見込みだ。

キッコーマンお客様相談室

お客様相談室の告知画面。下方に、フリーダイヤル番号が記載されている

消費者の変化と格差広がる食の知識

 ここ4〜5年の間に、企業と消費者の信頼関係を損なう事故や事件が多発し、企業と消費者との関係が変わってきている。
 その変化とは、まず、知名度の高い大企業であっても事故を起こす可能性があると認識したこと。そして、以前は抵抗感があった企業への申し立てを現在は当然の権利として認識し、申し立てを躊躇しなくなったこと。最後に、個人が大企業とわたり合うために、国民生活センターや保健所などの公的機関を積極的に活用するようになったことの3つである。
 こうしたことが原因で、ここ数年、お客様対応が難しくなっているという。例えば、不祥事や事故による企業への不信感が、消費者に「メーカーは私たちをだまそうとしている」という先入観を抱かせ、ただでさえ難しい電話でのコミュニケーションを一層、難しくしているのだ。認知心理学者メラービアンによれば、伝達力のうち言語によるものはわずか7%。口調や音声が38%となっており、これらを合わせても50%に満たないという。
 さらに、食品ならではの特徴が対応を難しくしている面もある。その特徴とは、家庭への普及率の高さと、人が口にし健康や命にかかわる商品であることである。しょうゆで見ると、その世帯普及率はなんと98%。しょうゆのない家を探すほうが困難なくらいだ。そのため、パソコンや車などほかの製品に比べて当事者意識を持つ人が多いのである。
 こうした消費者の変化に対応するために、相談室ではより一層、スタッフの知識と応対スキルを高めることに努めている。
 定期的に相談室のスタッフを集めて商品知識を高めるための勉強会を行ったり、年1〜2回は工場を見学したりしている。その後、OJTにより知識を確実なものにすることでスキルアップを図っているという。
 消費者意識の高まりの中で、企業側はさまざまな努力や検討を進め、その知識や技術が格段に進んできた一方、核家族化が進み、親から子へ、子から孫へと知識が伝わらなくなったせいか、「食べ物って腐るのですか?」「塩を少々って何グラムのことですか?」「冷蔵庫に入れておいたから大丈夫」など、消費者から食に関する知識の低下を如実に表す問い合わせが寄せられるという。加えて、テレビや雑誌などにより、生活者が食に関して偏った表層的な知識を持つようになったことも、正しい理解を阻害する要因のひとつかもしれない。

消費者の目線で話を聞く

 そこで相談室では、消費者からの問い合わせやクレームなどに対応する際は、「消費者の目線で話しを聞くこと」を心掛けている。よく聞くことで、問い合わせに対して的確に回答することができるのだ。また、クレームや意見を申し出る消費者に対してでも、自社の誠意を伝えることはできる。さらに、消費者からの問い合わせやクレームに真摯に耳を傾けて対応することは、正しい食の知識の醸成にもつながる。
 また、相談室では、専門的な知識を豊富に備えているものの、これをひけらかして消費者を言いまかそうとするのは、最もしてはならないことであると考えている。
 もうひとつ心掛けているのが、迅速で正確な対応をすることである。前述の勉強会もその実現に欠かせないことだが、相談室内には、即時に正しく回答するための工夫が見られる。例えば、貼り紙。実施中のキャンペーンや、取扱店の情報など、頻繁に問い合わせを受けるものはすぐに手の届くところに資料を貼り付けているのだ。
 また、物流や商流についてなど、メンバー全員に知っておいてほしいことを応対の合間をぬって室長がレクチャー。相談室は交替勤務となっているため、レクチャーの内容をリーダーが記録して、全員にeメールで送信することで共有化している。

迅速で正確な対応をサポートするKQRS

 現在、相談室における年間受付件数は、フリーダイヤル電話、FAX、eメールを合わせて年間約1万8,000件(図表1)。商品やサービスに関する問い合わせが全体の約8割を占めている。相談室では、昨年末からフリーダイヤルを導入したことで、今年は前年を3割上回る、2万〜2万数千件のアクセスが寄せられると推測している。

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 これらすべての問い合わせに、前述のような、人による工夫だけで迅速で正確な応対を実現するには限界がある。そこで相談室では、これをより確実なものとするために、「キッコーマン・クイック・レスポンス・システム(KQRS)」を利用している。KQRSは、消費者からの問い合わせに即答することを目的に開発されたシステムで、主に2つの役割がある。
 まずひとつが、正しい回答をスピーディーに導き出すためのデータベースとしての役割。各商品の容器形態や保存期間、分析値などの詳細情報を検索できる商品情報と、頻繁に寄せられる問い合わせに対して誰もが正しく同じように答えるためのQ&A集が蓄積されている。商品情報は、商品コードで検索することが可能。そのため、担当者は問い合わせのあった商品をその場で検索し、すばやく正しく回答することができる。また、Q&A集は、随時内容を更新して精度を高めている。
 もうひとつが、受付情報の記録としての役割だ。すでに約10年の事例が蓄積されているが、例えば電話での苦情の場合、いつ、誰から、何の商品について、どのような苦情が寄せられたのかを記録している。後日読み返した時に、よりリアルに状況を把握できるよう、苦情の内容はできる限り相手の話した言葉通りに入力しているという。
 なお、受付情報の記録には消費者の個人情報が含まれるため、一般には公開していない。相談室のスタッフが特定の個人が割り出せないように加工し、社内へ発信している。

情報の有効活用への取り組み

 相談室から消費者の声を還流させる仕組みとしては「週報」「月報」、そして半年に1回関係部門と開催する「連絡会議」がある。
 現在の取り組みの中で中心的なものは「週報」だ。社長、全役員、所属長に対し、毎週月曜日に前週に消費者から寄せられた意見や苦情を列挙したものをeメールで送信。所属長には、部内での回覧を依頼している。
 ところが、この週報に必ず目を通す社員がいる一方で、読んでいない社員もいるのが実際のところ。中には、意見や苦情が列挙されているだけでは読み難いという意見もあるという。相談室側からすれば、お客様の声を生に近い状態で見てもらい、お客様を感じてもらいたいという思いがあるわけだが、そのように受け取ってもらえないこともあるようだ。現在のフィードバックシステムでは十分でないと考えている相談室では、社内の意見を参考にしながら、より早く、スムーズに情報を共有・活用できる仕組みを検討しているところだ。
 しかし、まったく成果が出ていないわけではなく、消費者の声が改善のヒントになったケースは多々ある。わかりやすい例として、デルモンテ・トマトケチャップ800gのケースを紹介する。500gの容器の場合はキャップの穴は十字型になっているが、800g入り容器の場合は、流量を調節するために丸い突起状の脇からケチャップが出るようになっている。ところが、この突起を栓だと思った消費者から「800gのケチャップを買ったが穴があいていない」「突起を切ろうとしてケガをした」という声が何件も寄せられるのである。そこで、相談室ではプロダクト・マネージャー室へ報告。改善策として、商品ラベルにキャップについての説明が記載されることになった(資料1)。

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【資料 1】お客様の声の活用例 お客様からの問い合わせが多かったデルモンテ・トマトケチャップ800g。パッケージの裏面に、キャップの形状について説明書きを加えたところ、問い合わせが減少した

 相談室に寄せられる問い合わせや苦情は、見方を変えれば商品やサービスの開発、改善のヒントとなる。苦情を単なる苦情にとどめず、ヒントととらえて次に結び付けることが、真の消費者本位と言える。これを推進していくためにも、対応スキルをさらにレベルアップさせ、収集する情報の質を高めていく意向だ。消費者は何か言いたいことがあって電話を掛けてくるのだから、10話したいことがあるところ7しか話せなければ不満足に終わる。しかし、こちらがしっかり聞くことによって10話せたら満足だろうし、そのことによって、11、12、13…と話が広がり、さらなる情報を提供してくれるかもしれないのである。
 また、声の活用例を消費者へフィードバックすることも必要である。ホームページを中心に、改善への取り組みを周知。満足度の向上、ひいては信頼の獲得につなげていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年3月号の記事