コンタクトセンター最前線(第38回):誠意ある応対と商品知識でCS向上を推進

TOTO

1917年の創業以降、トイレ、 バス、キッチンなどの水回りの商品を取り扱う住宅設備機器メーカー東陶機器(株)( TOTO)。同社では、 1984年に開設したお客様相談室の受付体制を時代に合わせて拡充すると同時に、 誠意ある応対と商品知識でお客様の満足度を高めることに注力している。

費用対効果に見合った受付体制を求めて

 TOTOがお客様相談室を開設したのは1984年。当時、東京・虎ノ門にあったショールームに専用電話を敷き、ショールームのアドバイザーが日替わりで消費者(お客様)からの問い合わせを受け付けるかたちでスタートした。開設以前は、全国各地のショールームで個別に対応していたが、お客様にとって電話窓口がわかりにくかったことに加えて、アドバイザーの本来の業務を阻害していたため、専用の窓口を設けるに至ったのである。
 図表1にあるように、その後、お客様相談室は拠点の拡充や統合を行い、費用対効果に見合った最適な受付体制を模索し、拠点の増設や統合を行った。

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 同社がお客様相談室を4カ所に拡充したあと2カ所に統合し、さらに1カ所に統合した背景には、応対品質の向上とコスト面を含めた運営効率の向上が挙げられる。
 TOTOでは住宅設備機器を取り扱っていることから、商品を注文してくるのは工務店や設備業者であり、お客様と接する機会はほとんどなかったと言える。ところが1990年代に入ってからは、お客様の意識が変化。工務店などに任せきりにするのではなく、自ら商品を確認したり選んだりするようになってきた。ちょうどそのころ、TOTOでは新聞広告を積極的に活用し始め、1992年には、TOTOの商品に興味を持っているお客様に満足していただける応対をすることで、ファンを作り、商品購入に結び付けようと、NTTコミュニケ−ションズのフリーダイヤル(0120-03-1010)を導入した。このように複数の要素が相まって、導入前までは月間約4,000件だったコール数が、導入の1〜2カ月後には月間約1万件にまで増加。その後も、TOTOの商品やお客様相談室の認知度が高まるにつれ、毎年10%の割合でコールが増え続け、現在では年間約31万件のコールが寄せられている。
 複数の拠点を持っている場合、大量のコールに効率良く、かつ一定の品質を保ちながら応対するには、システムの拡充も、スタッフの増員や育成も、拠点の数だけ必要になる。しかし、拠点が1カ所であればこれらのコストを削減することも可能だ。
 実際、2003年にお客様相談室を本社を構える福岡の小倉に統合したことでコスト削減が可能となり、同時に応対品質の均一化も図れた。また、従来はお客様相談室のスタッフに社員を起用していたが、現在はグループ会社からの派遣スタッフを30名採用している。これもコスト削減に寄与しているという。
 ひとつ、お客様相談室が小倉にあることのデメリットを挙げるとすれば、消費者関連団体などとの交流や情報収集面に制約があること。この点においては、東京のほうが便利なため、お客様相談室業務の経験が豊富な人材を東京に配属。さらに、旧茅ヶ崎スタッフ3名を集めて、eメール対応を行っている。
 お客様相談室を管轄するのはお客様相談センター。同センターは、技術相談室も管轄している。前述の通り、お客様相談室は消費者を対象としているためフリーダイヤルを利用しているが、技術相談室は工務店や設備業者を対象とした窓口のため、発信者と着信者で通話料を折半するナビダイヤルを利用している。ちなみに、購入後の故障や修理については、グループ会社のTOTOメンテナンスに一任している。(図表2)

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クレーム対応で実施するお客様相談業務の醍醐味

 お客様相談室の受付時間帯は、月曜から金曜の9時から18時までと、土日の10時から18時まで。夏季休暇、および年末年始以外は休まず営業している。
 業務内容は、全商品の問い合わせ受付、購入前の買い物相談への対応、クレーム・要望への対応、アフターサービスに関する問い合わせへの対応、そして購入後のお手入れ方法に関する情報提供と多岐にわたる。
 特に商品数は、最新の900ページに及ぶカタログに掲載されている6,500品番のほか、十数年以上前に住宅に取り付けられた機器もある。そのため、いくら研修に注力しても、すべての商品知識を身に付けさせることはできない。そこでお客様相談室では、独自に開発した「業務ナビ」を活用して、オペレーションをサポートしている。
 大変と言えば、ここ数年、以前に比べてクレーム対応が難しくなったという声をよく耳にするが、これは同社においても同様で、お客様としての権利を主張する方が増えているのだという。何が常識で何が非常識かというのは一概には言えない難しい問題だが、何よりも避けたいのはクレームでないコールをコミュニケータが対応しているうちにクレームへと発展させてしまうケースである。例えば、商品や設備に関する知識が少ないために、お客様が適切な表現で用件を説明することができず、それに対応したコミュニケータが焦って言葉足らずになってしまう。そうしたことがお客様のクレームを誘発しがちなのだ。
 しかし、お客様相談室ではクレームをネガティブにとらえてはいない。逆に、お客様の信頼を得るチャンスである。クレーム時の対応に満足していただけたお客様の中には、新商品のテレビCMを見るたびに「この商品はどうですか? 私に合いますか?」と問い合わせてきて、その商品を購入してくださる方がいるという。こうしたとき、お客様相談業務の醍醐味を痛感するそうだ。

スクリーン-1

TOTO ホームページ。問い合わせ窓口を見つけやすくするため、右上にお客様相談室のボタンを置いた

応対のポイントはお客様の話を良く聞き豊富な知識で信頼を得ること

 お客様相談室では、クレームに発展させないためのポイントとして、不器用でも誠心誠意お客様の話に耳を傾けること、豊富な商品知識を備えてお客様の信頼を得ることを挙げている。
 前者については、コミュニケータに聞く姿勢を持たせることが大切である。そこで毎月、コミュニケータに問い合わせやクレームの中から改善につなげるべきと思うことを提案させている。これは、単に対応するのではなく、問い合わせの奥に潜む真の問題点を読み取るスキルの向上にも役立つ。
 一方、後者については、研修に力を入れている。お客様相談室では、まず、採用時の導入研修として、電話応対の基礎、商品知識の習得を実施。そこで学んだことをOJTでコミュニケータ自身が自分のものにしていけるようサポートしている。その後は、週に1〜2度の割合で、受付時間終了後に、フォローアップ研修を開催。新商品の研修、実際の問い合わせやクレームに基づいた事例研修、そして電話応対のおさらいなどを行っている。
 研修に当たるのは主にリーダーだが、時には外部講師を招くこともある。2004年4月からは、eラーニングも導入した。これは全社的に導入されたもので、お客様相談室のスタッフには接客のカリキュラムを設けるなど、部署別にカスタマイズした内容になっている。個人情報保護法の全面施行を間近に控えた今、個人情報保護に関する勉強もこれで行っているという。
 また、知識を押し付けるばかりではなく、コミュニケータが意欲的に研修に臨めるための環境作りも不可欠である。そこで、お客様相談室では表彰制度を設けている。表彰の基準はさまざまで、お客様に喜ばれる応対をしたコミュニケータ、多くの電話に対応したコミュニケータ、同僚や室長から推薦されたコミュニケータなどに贈られる。表彰は業務評価にも反映されるため、コミュニケータのモチベーションは高いようだ。

応対履歴の登録はクレームと要望に限定

 現在、お客様相談センターに寄せられる年間アクセス数は、電話とeメールなどを合わせて約32万件に達している。前述の通り、このうち、電話は約31万件で、eメールは約1万2,000件。eメールも電話と同様、年々増加傾向にあり、1999年のスタート時と比べると、今日では10倍になっている。お客様相談室では、電話、eメールともに今後もこの傾向は変わらないと見て、応対品質を高めながら効率もアップさせようと、ある時期から応対履歴のデータベース登録をクレームと要望に限定することにした。アクセス数が膨大なため、全アクセスを蓄積するには多大な時間と労力を必要とするからだ。加えて、単なる問い合わせを分析してもそこから有益な情報を見出すことは難しく、むしろクレームや要望が大きなヒントになることが多いのである。ただし、加工が容易なeメールについては、すべてデータベースへ蓄積している。また、半期に2日間だけは、その日に受け付けたアクセスを内容にかかわらず全件登録することで、お客様の声の傾向を把握しているという。
 最近では、お客様の声を商品の開発や改善に役立てようとする取り組みが活発化しているが、TOTOでも積極的にお客様の声の活用に努めている。
 まず、お客様相談室のメンバーで、定期的に情報検討会を実施。その結果を関連部門へ投げかけ、新商品の開発や商品の改善に役立てる仕組みになっている。
 これまでにお客様の声が反映された例は枚挙にいとまがないが、比較的最近の事例で分かりやすいものとしては、次の2つが挙げられる。
 ひとつは、キッチンに食器洗浄機を設置する際に必要な蛇口の分岐金具である。既存の商品は左側に分岐したものしかなかったが、キッチンのレイアウトによっては右側から分岐させたほうが都合の良いケースがあったため、分岐部分を回転させることで左右どちらでも利用できる分岐金具に改良した。
 もうひとつは、携帯用ウォシュレットだ。ウォシュレットは日本ではかなり普及しており、住居だけでなくホテルやレストラン、病院などのトイレにも設置されているが、海外ではほとんど設置されていない。そこで海外旅行などに持っていきたいという要望が寄せられたことをきっかけに、携帯用の開発に踏み切ったのである。
 このほか、比較的多く寄せられる問い合わせを Q&A集としてまとめ、Webサイトへ掲載している。問い合わせフォームへ飛ぶ前にQ&A画面を表示させることで、お客様自身での問題解決をサポートし、増加を続けるeメール通数に歯止めをかけたい考えだ。

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お客様の声に基づき改善された蛇口の分岐金具(左)と携帯用ウォシュレット(右)

コミュニケータの育成とお客様の啓発活動に注力


 日本の経済を動かしてきたと言っても過言ではない団塊の世代が定年退職を迎える 2007年以降は、彼らからの専門的で高度な問い合わせが増える可能性があるとお客様相談室では推測している。そこで、専門的な問い合わせにも満足していただける応対をするためにも、お客様の話をよく聞き、豊富な知識で応対することがますます重要になってくると認識。今後も継続的に、お客様の話をよく聞く耳を持ち、かつ商品に関する専門知識を豊富に備えたコミュニケータの育成に努めていきたいとしている。
 その一方で、お客様への啓発活動として、キッチンやバス、トイレといった水周りに関する情報発信を積極的に行っていく構えだ。以前より、ショールームなどで講習会を実施しているが、こうした取り組みは特に大切と考えているという。なぜなら、お客様の知識が深まれば問い合わせ件数を減らすことができるからだ。
 このほか、お客様向けにシンクのお手入れ方法などをわかりやすく解説した冊子を作り、ACAP(消費者関連専門家会議)の啓発資料コーナーに設置したり、Webサイト上で紹介したりしている。
 今後も、TOTOお客様相談室の動向に注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年2月号の記事