コンタクトセンター最前線(第35回):“生活者の代表”“企業の代表” 2つの顔を駆使してCSを推進

(株)INAX

1924年、焼きものの里、愛知県常滑市に誕生した (株) INAX ( 旧・伊奈製陶) 。 同社では、お客様の豊かな暮らしに貢献するために、 お客様の視点に立った物作りを推進している。 その取り組みに不可欠なのが、 お客さま相談センターだ。今回は同センターのCS向上、および、お客様の声を製品の開発や改善に活かす取り組みについて話を聞いた。

自社の変革に貢献する相談センターへ

 タイル・建材、住宅設備機器のメーカーとして、住宅のインテリア空間、トイレ、バスルーム、キッチンなどの水まわり空間を美しく快適にする商品やサービスを提供する(株)INAX。同社がエンドユーザー、およびハウスメーカーや設計事務所、工務店などからの問い合わせに対応するコールセンターを開設したのは1981年のこと。東京支店内に「東京支店ユーザーセンター」を開設し、管轄するショールームに寄せられる問い合わせを一手に受けようとしたのが始まりだった。その後、大阪と名古屋にもユーザーセンターを開設し、名称も「お客さま相談室」に改めた。
 その後も変遷を続けたが、お客様の視点に立った生活者密着型サービス業を目指す同社では、お客様の真の満足を実現するために、お客様の「声」情報を基に自社の変革に貢献する受信・発信基地としての相談室を目指して、機能および体制の強化に着手した。その一環として、1999年6月愛知県知多市の事業所内へ各地のお客さま相談室を集約。コールセンターシステムも刷新し、全国からの問い合わせを一手に受け付ける体制を整えた。その翌年2000年1月には名称を「お客さま相談センター」に変更し、現在に至る。
 同社にとってお客さま相談センターは、生活者と企業の間に良好なコミュニケーションを作り出す場であり、社内へは“生活者の代表”として、逆に生活者に対しては“企業の代表”として機能している。
 同センターの業務内容は、単なる問い合わせやカタログ請求の受け付けにとどまらない。お客様のニーズをキャッチして関連部門へフィードバックし、商品やサービスの改善に活かすこと。さらには、お客様の動向や企業環境の変化の兆しをトップマネジメントに伝えることで経営を支える、という重要な役割を担っている(図表1)。

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受付体制を強化し応答率アップを図る

 環境や健康、快適な暮らしを求めてリフォーム需要が高まる中、同センターに寄せられる問い合わせや相談が急増している。それは、毎年の月平均コール数の推移(図表2)を見ると一目瞭然である。2000年には1万900件だったものが、2003年には2万7,500 件と、3年で2.5倍にも膨れ上がった。2004年も増加傾向は続いており、4月から9月までの月平均コール数は3万3,800件。単月で見ると、9月には過去最高の3万7,000件に達した。

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 こうした状況の中、同センターでは、スタッフの増員や増床を実施。また、システムのバージョンアップなどにより機能拡張を図り、増え続けるコールに対応している。
 現在スタッフ数は、センター長を筆頭に総勢81名。年末年始を除く平日の午前9時から午後7時までと、土日・祝日の午前10時から午後6時まで対応に当たっている。

さまざまな難易度のコールに効率的に対応

 同センターに寄せられるコールの内訳は図表3の通り。

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 まず、問い合わせの多い商品を見ると、設備、住器、建材の順になっており、設備関係が過半数を超える。
 次に問い合わせの内容を見ると、「商品の仕様について」が60%と圧倒的に多い。次いで「お手入れ、修理について」が20%、となっている。ちなみに、修理受付はグループ会社の(株)INAX メンテナンスに引き継がれる。
 これを見るとわかるように、同センターの問い合わせ内容は、資料請求から設備や建材についてなど専門知識が必要なものまで、内容、難易度ともに幅広い。こうしたコールを効率良く受け付けるために、同センターでは、お客様や用件別に電話番号を変え、グループ別に対応に当たっている。
 具体的には、エンドユーザーからの問い合わせには、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入し、「消費者さま相談窓口グループ」が対応に当たっている。
 フリーダイヤルの導入は、センターの統合がきっかけだった。全国からの問い合わせを1カ所で受け付けるとなると、一般加入回線ではエンドユーザーの通話料負担の格差が大きくなる。この問題を解決すると同時にCSの向上を図ろうと、導入に踏み切ったという。
 消費者さま相談窓口グループでは、資料請求やショールームの案内などは11名の一次受付が担当し、専門知識が必要な問い合わせには17名の相談員が対応に当たっている。
 一方、ハウスメーカーや設計事務所、工務店などからの問い合わせには、一般加入回線で対応。技術的な問い合わせに対応する「技術担当グループ」、建材に関する問い合わせを受け付ける「建材商品相談窓口グループ」、そのほかの問い合わせに対応する「業者さま相談窓口グループ」などに分かれており、いずれのグループも、専門知識が豊富な社員が相談員として対応に当たっている。
 同センターが、コールの振り分けにIVRを使用せず、電話番号を変えているのは、CSの観点からであることは言うまでもない。 
 各窓口の告知には、カタログや商品の施工説明書・取扱説明書など、各種印刷物に電話番号を掲載。またINAXのWebサイトでも電話番号を公開している(資料1)。

INAX-お問い合わせ

【資料 1】お客さま相談センターの告知画面

約5年の歳月をかけて蓄積したお客様情報の活用に注力

 ここからは、同センターの重要な役割のひとつである、お客様の声の活用について詳しく紹介しよう。
 同センターでは、寄せられた問い合わせをすべてデータベースに蓄積している。これをシステムベンダーと共同で開発したお客さま相談事例検索システムで、開発や企画、営業などの関連部署と共有。商品開発や品質の向上に役立てている。
 毎月1回、CS推進室長、センター長をはじめ技術に関する相談員を召集して検討会を開催。各相談員が日々の応対の中で要検討のフラグを立てた案件の中から、特に重要と思われるものを抽出して、「CS推進室としての提案」として関連部署に発信する。これを受けて関連部署では、提案に基づき改善に取り組むわけだ。このほか、相談員が日々の業務の中で少しでも気になることがあれば、過去の情報にあたって分析・整理し、その都度、関連部署へフィードバックしている。

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INAX のお客さま相談センターは、愛知県知多市の事業所内に設置されている。広々としたセンターだ

CS活動への理解が深まるとともに増える改善例

 こうした活動が身を結んだ例は多々ある。
 「ワンルームマンションを設計中。1014か1116サイズのユニットバスに対応できるシャワートイレはないか?」という声から今後の需要を見込み、小サイズの3点式ワンルームユニット用の貯湯式シャワートイレを商品化。また、「車椅子を使って生活している。車椅子でも使いやすい化粧台はないか?」という声に応え、車椅子対応洗面化粧台を商品化した。新商品の開発といった大掛かりなことばかりではなく、既存商品のバリエーションの拡充なども行われている。
 また、約半年ごとに各事業部の開発・品質保証統括部門との情報交換会を開催。実際にお客様の声が反映された内容を確認したり、取り組みの進捗状況をチェックしている。このように一貫してお客様の声の活用にかかわることにより、確実にお客様の声が商品作りに反映されていくのだ。
 しかし、取り組み始めた当初は、お客さま相談センターのCS活動に対する社内の理解が十分でなかったために、どうしても後回しにされがちで、改善がスムーズに進まなかった。そこで同センターでは、日々の業務を通じて、あるいは社内報などを活用して自らの活動を積極的にPR。その結果、現在では改善スピードがアップし、改善例も増え続けているという。
 このほか、お客さま相談事例検索システムの中から、多く寄せられる問い合わせをピックアップしてFAQなどの資料を作成。同センターの応対品質の向上に努めるほか、Webサイトの各商品紹介のページにある「商品Q&A」にも反映させている。

スタッフが前向きで生き生きと働ける職場作りを目指す

 前述の通り、同センターではお客様の声の活用に積極的に取り組んでいるが、まだまだ十分ではないと考えている。お客様からの問い合わせに迅速、かつ満足していただける対応を心掛けると同時にさらなる“声”の活用に努め、お客様により高い満足度を継続して感じていただけるよう、着実に取り組んでいく意向だ。
 具体的には、応答率を向上させる、商品勉強会などを通じた応対品質を向上させる、といったことに取り組む計画。また、同センター以上に取り組みが進んでいる他社のコールセンターも手本にしていきたいとしている。
 ここで紹介した同センターの取り組みには、社内外から脚光を浴びるような華やかさはない。しかし、商品の品質向上やCS推進に必要不可欠なことばかり。そこで同センターでは、地道な業務とは言え、スタッフ全員が前向きで生き生きと働ける職場作りにも力を入れていきたいとしている。

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定期的に開催している情報交換会の様子


月刊『アイ・エム・プレス』2004年11月号の記事