コンタクトセンター最前線(第29回):国内ISP初、しかも最短期間でCOPC-2000®を取得 自信を胸にさらなる品質向上を目指す

AOLジャパン(株)

数あるISPの中でも、ユーザーフレンドリーなサービスとコールセンターにおけるサポート力の高さに定評のあるAOLジャパン (株) 。 業界高水準の効率と品質により高い顧客満足度を実現することをミッションとする同社では、そのさらなる追求のためにCOPC-2000®を導入。 この4月に認証を取得した。 これは国内のISPとしては初めてであり、かつ取組開始から7カ月という国内最短期間での認証取得となった。

社員の半数以上をサポート業務に割り当て

 タイム・ワーナーグループの一員として、世界17カ国、8つの言語でインターネットサービスを展開している、America Online(AOL)。「簡単」で「便利」、そして「安全」なインターネットサービスの提供に努めている同社は、現在3,500万人の会員を擁し、世界最大のインターネットサービスプロバイダー(ISP)としての地位を確立している。
 その日本法人として 1996 年に設立されたのがAOLジャパン(株)。日本でも、「簡単」「便利」「安全」なインターネットサービスの提供を実現し、インターネット初心者から熟練者まで幅広い層の会員を獲得。また、世界を飛び回るビジネスパーソンからも強い指示を得ている。これに大きく貢献しているのが、会員および入会を検討している方からのさまざまな問い合わせを受け付けるメンバーサポートセンターだ。
 言うまでもなくISPというビジネスは店鋪を持たない。必然的に、顧客との接点は電話やWebといった通信手段に限られる。そのため同社では、コールセンターを「簡単」「便利」「安全」なインターネットサービスの実現に不可欠なものと位置付けているのだ。社員の6〜7割を、メンバーサポート業務に割り当てていることや、社長自らがコールセンターに関する豊富な知識を有していることからも、同社にとってコールセンターがいかに大切な顧客接点であるかがうかがえる。

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センター内の、壁やパ−テ−ションなどにはミッションを明記したパネルが掛けられている。パネルの右下にあるのは、顧客から寄せられた感謝のメッセージの数々。こうした言葉がレップの励みになっている

入会案内から解約防止まで幅広い業務に対応

 同社では、設立の翌年に当たる1997年4月にサービス提供を開始。これに合わせて、東京・新宿にコールセンターを開設した。
 センターが担う役割は、前述の通り、入会を検討している方からの問い合わせを受け付ける入会案内と、会員からの問い合わせを受け付けるメンバーサポートの2つに大別できる。前者は、具体的にはAOLでどのようなことができるのかといった問い合わせや、料金体系や他社との違い、工事費無料などのキャンペーンに関する問い合わせなど。後者は、料金に関する問い合わせのほか、接続方法をはじめとする技術的な問い合わせやアクセスポイントの照会など、サービスを利用する上で必要となる情報の提供が中心となっている。このほか、解約希望者に対するリテンション業務、さらには解約理由やキャンペーンについて多く寄せられた問い合わせなど、収集した顧客の声を関連部署へフィードバックすることも、コールセンターが担う大切な役割だ。(図表1)

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 運営に当たるのは、メンバーサービス部。「業界高水準の効率と品質により高い顧客満足度を実現する」ことをミッションとし、日々の業務に邁進している。

フリーダイヤルで距離にかかわらず均一なサービスを提供

 コールセンターの受付時間帯は午前9時から午後9時までで、年中無休。受付窓口には、電話とeメールを活用しており、電話窓口にはNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入している。
 以前は、入会案内にのみフリーダイヤルを利用していたが、2001年3月よりメンバーサポートにもフリーダイヤルを採用した。これには次のような経緯があった。同社では、ひとつのコールセンターで全国からの問い合わせに対応しているために、近県の顧客に比べて遠方の顧客は負担する通話料が大きかった。そこで、距離にかかわらず、すべての顧客に均一なサービスを提供したいと考え、フリーダイヤルサービスの導入に踏み切ったのである。これにより、遠方の顧客の電話をかけることへの抵抗感をなくすとともに、利便性を高めることができた。
 対応に当たるコミュニケータは、Representativeの頭文字をとって「レップ」と呼ばれている。前述の通り、社員の約7割をここでのサポート業務に割り当てており、キャンペーンなどでコールの大幅な増加が見込まれる際には、アウトソーシングを行って、フレキシブルな受付体制を実現している。

電話とeメールできめ細かいサポートを実現

 一方、eメールにも、同じセンターで一括して対応している。受け付けには、eメール対応専任のレップを1名配置しているが、基本的には電話にもeメールにも同じレップが対応する。
 話すスキルと書くスキルは異なるため、電話とeメールに同じスタッフが対応するよりは、専任のスタッフを配置するほうが効率的だという見方もある。同社でも以前 eメール対応専門のメールチームを設けていたが、スキルの違いはツールを活用して最大限に業務の定型化を図ることでカバーできると考え、現在ではこれを廃止。ひとりのレップが電話とeメールの両方に対応する利点を活かして、現在同社では、電話とWebをミックスしたきめ細かい対応を推進している。
 例えば、インターネットの設定方法に関する問い合わせをフリーダイヤルで受け付けた場合、口頭でひと通り説明した上で、eメールで設定手順が書かれた文書を送信するといった具合だ。
 レップと話しているときは理解したつもりでいても、電話を切っていざ設定に取りかかろうとすると実は覚えていなかったという経験をお持ちの方も多いだろう。そんなとき、eメールで設定手順が送られてきたら安堵するのではないだろうか。また再び同じトラブルに見舞われても、メンバーサポートへ再び問い合わせをする必要なく、自力で解決できる。
 逆に、eメールでの問い合わせに対して、電話で補足することもあるという。
 こうしたきめ細かいサポートは、顧客の満足度を高めるのはもちろんのこと、顧客のスキル向上にも貢献しており、ひいてはコール数の減少に結び付く。同社ではこのほかに、WebやFAXでも情報を提供しており、これらの利用推進に努めた結果、ブロードバンドの普及も後押ししてか、最近はコール数が減少傾向にあるという。

全体2 トレーニング

メンバーサポートセンターのオペレーション風景(左)。奥の高いパーテーションで仕切られているブースではバックエンド業務を担っている。同じフロアーにトレーニングルーム(右)もあり、必要に応じてマンツーマンでもトレーニングを行う

より効果的なIVR の活用方法を模索

 システム面にも注力している同社では、全世界共通の独自システムと併せてIVR、CMS、ナッレッジマネジメント、ワークフォースマネジメント、ボイスロギングシステムなど、ひと通りのコールセンター・システムを導入している。
 中でも、IVRの活用方法には課題が多いとされているが、同社では日々のレポートをもとに、問い合わせの多い内容をメニューの先頭に移動したり、マーケティングの計画に合わせて随時変更を施したりすることで、利用者の利便性の向上を図っている。また、予測待ち時間に応じてアナウンスする情報の内容を変えるなど、IVRの機能を活かし、効果的かつ効率的なオペレーションを展開。さらに同社では、入会案内とメンバーサポートそれぞれに専用のフリーダイヤル番号を設定しているが、これに加えてIVRで用件を絞り込み、スキルベースルーティングによって適切なレップにコールを振り分けることで、転送を約 20%も減らすことに成功したという。
 IVRをセンターの生産性向上に役立てている同社であるが、まだまだ改善の余地はあると考えている。今後は、IVRの変更に伴う作業をスムーズにするため、社内のどのスタッフが音声を録音しても、同じ声に変換できるシンセサイザーの利用を検討しているところだ。

すべての顧客に満足度調査を実施

 コールセンターに寄せられたコールは、すべてデータベースに蓄積される。メンバーサポートセンターでは、このコンタクト履歴をもとに、顧客の満足度を把握し、より高めることを目的とした、eメールによるアンケート調査を実施している。
 具体的には、問い合わせから約 1週間後に、アンケートへの協力を依頼する顧客を抽出し、eメールを送信する方法を採用。データの抽出に当たっては、短期間のうちに何度か問い合わせをしてきた顧客に何度も重複してアンケートが届かないよう配慮するなど、顧客の気分を害さないように、細心の注意を払っている。また、問い合わせ内容に応じたアンケート票を作成することで、きめ細かく満足度を測定している。
 アンケートの設問数は約30と多いにもかかわらず、回答率は20〜30%と高い。同社に対する顧客のロイヤルティの高さの表れと言えよう。

国内ISP初・最短期間でCOPC-2000® の認証を取得

 同社がサポート業務のミッションに掲げているように、“高い水準の効率および品質”と“顧客満足度”は、コールセンターを運営する上で非常に重要なポイントとなる。
 これまでも同社では独自の指標を用いて双方を高めることに努めてきたが、さらなるレベルアップを目指し、メンバーサポートの中の入会案内と解約受付を担うセールスチームにおいて、2003年8月よりCOPC-2000® の認証に向けた取り組みをスタート。2004年3月26日に認証を取得した。
 COPC-2000® は、カスタマーサービス業務における、サービス、コスト、クオリティといったパフォーマンスを向上させるために、マイクロソフト、アメリカン・エキスプレス、L.L. ビーンなどが中心となって作成した国際的な品質保証規格。日本でも着実に同規格を導入する企業が増えているが、同社は国内で8番目、ISP としては初のケースとなった。また、取得への取り組み開始から認証取得までに要した期間は7カ月と、これまでの国内最短記録であった9カ月を大幅に更新した。同社では、短期間で認証を取得できた理由として、レップの成長に合わせて、最適なタイミングでチャレンジしたことを挙げている。加えて、これまでも独自の指標で品質・生産管理を行っていたために、数値管理のベースが確立しており、COPC-2000® の目標数値を当初からクリアしていた項目があったことも大きかった。
 同社では、COPC-2000® への取り組みを経て、独自の指標に新たなKPI(Key Performance Indicator)を加えることになった。これによって、顧客の利便性や満足度を第一に考えてきたセンター運営に、ビジネスとしての観点が採り入れられ、サービス、コスト、クオリティのバランスがこれまで以上に追求されることになった。
 もともとサポート品質には高い評価を得ていたが、客観的な証明を得たことにより、さらなる自信につながったという。今後は、マーケティングと連動することにより、COPC-2000® のメリットをより享受していく考えだ。
 その一方で、継続的にレップの教育に注力。新人のスキルをベテランレベルにまで引き上げると同時に、ベテランのスキルを一層高めていくという。
 今後は、AOLのビジネスを加速させるべく、より高度でプロフェッショナルなセンターを目指し、まずは求められるサポートが的確に提供されるようさらなる努力を続ける意向。テクノロジーはますます進化していくが、常に本質的なプロセスを見据えて、メンバーサポートセンターの運営に取り組んでいきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年5月号の記事