コンタクトセンター最前線(第24回):獣医師と専門の相談員が親身に対応 ロイヤルカスタマーの育成に努める

アイムス・ジャパン(株)

アイムス・ジャパン (株) では、 販売方針の変更を機にお客様相談室を開設した。 獣医師と動物看護師をアドバイザーとして採用し、 ペットショップや動物病院、ブリーダー、 そしてペットのオーナーからの問い合わせ、および健康相談に対応。高い満足度を得ている。

販売方針の変更を機にお客様相談室を開設

 世界77カ国において、ユーカヌバとアイムスのブランドでプレミアムドッグ&キャットフードを販売している米アイムス社。その日本法人であるアイムス・ジャパン(株)では、2001年3月よりお客様相談室を開設。ペットショップや動物病院、ブリーダー、そしてエンドユーザー(ペットのオーナー)から寄せられる各種問い合わせ、および犬猫の健康相談に対応している。
 お客様相談室の開設に至るには、次のような背景があった。
 同社の製品、アイムスとユーカヌバは、いずれもアイムス社が数々の研究を重ね、原材料にこだわって作られた製品で、犬猫の年齢や種類、健康状態に応じて適切な製品を選ぶことができるよう、さまざまな配慮がなされている。そのため、ペットショップや動物病院を介し、十分な製品説明を行った上でペットのオーナーに販売してきた。しかし、1999年の P&G グループとの合併により、その販売方針を変更。アイムスブランドについては、マス媒体を活用して一般に広く告知し、ペット用品を取り扱うホームセンターなどでも販売するようになったのである。当然、マス媒体による不特定多数への情報発信では情報量に限りがあり、オーナーが同社の商品を正しく理解することは難しい。パッケージに詳しい説明を記載してはいるが、ペットフード専門の店員がいないといった状況では、理解の浸透に限界がある。また、他社のペットフードより価格が高いこともあり、購入していただくためには製品への理解を促進する必要があった。そこで、オーナーに栄養学に基づいた同社の製品を正しく理解し、さらには同社のファンになっていただくことを目的に、お客様相談室を開設したのである。

アドバイザーは全員犬猫のプロフェッショナル

 お客様相談室は、東京・品川の本社内に開設されている。P&Gグループのコールセンターは神戸にあるが、製品属性が異なり対応には専門知識が必要であることから、アイムス・ジャパン専用のコールセンターとして別個に設けられた。
 お客様相談室の具体的な業務内容は、製品に関する問い合わせ受付や食事相談、クレーム対応、サンプル・資料請求受付とその発送業務など。受付窓口には電話、FAX、e メールを活用している。e メールはこの 10月からスタートしたばかりのため、アドレスの告知はホームページにとどめている。
 同社では、ひとりでも多くのオーナーに通話料を気にせず気軽に問い合わせてもらうために、電話窓口には NTT コミュニケーションズのフリーダイヤルを採用した。
 フリーダイヤルによる受付時間帯は、祝祭日および年末年始を除く月曜から金曜の午前10時から午後4時まで。アドバイザーと呼ばれるコミュニケータ4名で対応に当たっている。
 ここで特筆すべきは、アドバイザー全員が獣医師、あるいは動物病院で看護師として働いた経験を持っていることである。現在アドバイザーは、獣医師2名、動物看護師2名で構成されている。
 お客様相談室の開設当初は、食事や栄養管理といった相談には獣医師が、製品に対する問い合わせには一般の社員が対応していた。しかし、製品への問い合わせから健康相談に発展するケースも多く、内容の線引きが難しい。そのため、内容にかかわらず、すべてペットに関するプロフェッショナルが対応するよう体制を変更したのだ。

データベースへの登録はオプト・インで

 お客様相談室では、人材面での対応強化を図ると同時に、システム面でもオペレーションをサポート。応対品質の向上に努めている。
 受付システムには、あるパッケージ製品をカスタマイズして使用。頻繁に寄せられる問い合わせについてはあらかじめFAQを作成しておき、オペレーション端末の画面上に表示されている FAQ ボタンをクリックすれば必要な情報を閲覧できるようにしている。また、CTI を導入し、発信者番号をもとに過去に問い合わせをいただいたオーナーの情報を検索。瞬時にポップアップさせる仕組みを構築した。これにより、コンタクト履歴に基づく適切な対応を実現している。
 お客様相談室に寄せられた問い合わせや相談の内容はデータベースに登録。その内容は、使用製品、ペットの種類(犬か猫か)、購入店舗、コンタクト方法といった情報のほか、ペットの種類、性別、生年月日、体重、コンディション、ペット名、使用フード名、使用期間といったペットの詳細情報にまで及ぶ。
 電話応対をしながらこれらの情報を入力するとなると、アドバイザーの負担は大きくなる。この入力作業を簡素化するため、同社では FAQとしてデータベース化されている内容については、マウスで選択していくだけで入力できるよう工夫している。(資料1)

【資料 1】受付システム画面

受付システム画…ップアップ ペット情報

左が顧客情報で、右がペット情報。キーボードで入力する部分を極力少なくしている。ペット情報画面右側の「ペット種類選択」の「分類」「タイプ」「種類」を順に「犬」「中型犬(小)」「ウェルシュ・コーギー」といったように選択していくと、画面左側の分類の欄に自動的に入力される

 データベースを構築するに当たり、留意したのは、プライバシーの問題だ。一般生活者のプライバシー保護への意識が高まっていることを配慮し、データの取り扱いに細心の注意を払っている。CRM を推進する上では、お客様を知り、問い合わせや要望を正確に把握・対応することがサービス向上につながる反面、個人情報の取り扱いは慎重に行わなければならない。現在お客様相談室では、よりよい施策を検討中である。

会話の主導権を握りつつじっくり話を聞くことが大切

 お客様相談室の告知媒体には、雑誌広告のほか、製品パッケージ、ホームページ、パンフレットなどを使用(資料2)。これらを見たオーナーから寄せられる問い合わせ件数は、電話と FAX を合わせて1カ月当たり1,600〜1,700件となっている。わずかだが手紙による問い合わせも寄せられるという。また、e メールでの問い合わせは、1カ月当たり120件ほどとなっている。

HPお客様相談室画面 0412-a資料2

【資料 2】告知媒体の例  ホームページ(写真左)/パンフレットなど(写真右)

 内容の内訳は、多い順に「製品選び」「給与量」「与え方」「サンプル・資料の請求」「食事相談」「取扱店舗の照会」。最も多い「製品選び」は、全体の15〜20%を占めるという。
 対応に際して、お客様相談室では、オーナーに対して共感を示すことを心掛けているという。ペットを気遣いながら、穏やかに優しく話すことで、オーナーがアドバイザーに打ち解けて話しやすい環境作りに努めているのである。
 また、ファンを作り、さらにはロイヤルユーザーを育成することがお客様相談室の役割だ。そのため、数をこなすのではなく、オーナーの話をじっくり聞くことに主眼を置いているという。
 そうは言っても、オーナーのペースで延々と話を聞いているだけでは有意義なコミュニケーションは成立しない。会話の主導権はアドバイザーが握っていなければならない。アドバイザーには、オーナーから情報を引き出しつつ、最適な情報を提供するという高度なテクニックが求められる。
 お客様相談室では、これらを踏まえてアドバイザーの応対スキルを向上させるため、外部研修を利用して、話法やクレーム対応のレベルアップに努めている。また、ミーティングを通じて、キャンペーン情報や問い合わせ内容の傾向などを周知。社内の情報共有を徹底している。
 一方で、専門知識のレベルアップにも余念がない。そのときどきのトピックをテーマにして勉強会を開催し、最新情報の習得に努めていると いう。

約9割のオーナーがお客様相談室の対応力に満足

 お客様相談室では応対への満足度を測定するため、オプト・インしたオーナーを対象にアンケートを実施している。
 直近に実施したアンケートの結果を見ると、情報の提供量と質に「大変満足」あるいは「満足」したとの回答が91%。話し方など対応が「大変良い」あるいは「良い」との回答が94%と、いずれも9割以上のオーナーから良い評価を得ている。
 さらに、サンプル提供者へ製品の切り替えについて尋ねたところ、他社製品からアイムス社製品へ、アイムス社製品からより適した同社製品へといった具合に切り替えられているケースが多いことが分かった。これによりお客様相談室では、話す機会さえあれば、製品の良さを理解してもらうことができ、購入につながることを深く実感したという。
 お客様相談室への問い合わせが製品購入に結び付くということは、強い製品力と合わせて、アドバイザーの情報提供力、つまりコミュニケーション能力が高いことを物語っていると言えよう。
 今後は年 2 回の頻度で、同様の満足度調査を実施していく予定である。

e メールの一次回答率60%を目指して

 現在、お客様相談室では、e メール対応が課題となっている。
 e メールは、時間や場所にとらわれないことから、オーナーにとって利便性の高いツールである。電話を補い、サービスを拡大するためにも不可欠だ。今年の8月から試験的に受け付けを始め、問い合わせ内容の傾向や件数、返信に要する時間などを計測し、ワークフローを作成。この10月から本格的にスタートしている。
 受付体制は、現在、一次受付をテレマーケティング・エージェンシーにアウトソーシング。頻度の高い問い合わせなど回答がマニュアル化されているものは一次受付で対応し、難易度の高い問い合わせや健康相談についてはお客様相談室で対応している。
 比較的対応が容易な問い合わせを一次受付が担当することにより、アドバイザーの負担を軽減することが狙いだが、一次受付での回答率は 5〜10%とまだまだ低いのが実際のところ。お客様相談室では、マニュアルを整備したり、研修を行うなどして、一次回答率を高めていきたいとしている。将来的には、50〜60%の回答率を実現したい構えだ。

アクセス数を増やし多くのファンの獲得を目指す

 もうひとつの課題として、お客様相談室で収集した情報の活用が挙げられる。
 製品開発は米国で行われていることから、お客様相談室に寄せられたオーナーの声をすぐに製品の改善に結び付けることはなかなか難しいが、国内で対応できるものについては、随時、改善に取り組んでいる。
 一例としては、給与量や賞味期限の表示を分かりやすくするといったことが挙げられる。
 また、ペットショップや動物病院、ブリーダーから寄せられた問い合わせを営業担当者にフィードバックすることで、円滑なコミュニケーションに役立てたり、次の販売につなげたりしている。
 このほか、3カ月に1度、声のトレンドをまとめ、イントラネットで各部署のディレクターに伝達しているが、今後は、ディレクターに限らずにより広く、情報を開示していく意向だ。
 お客様相談室の対応がオーナーの満足を得ていることは、アンケート結果からも明らかである。また、社内からも高い評価を得ている。そこでお客様相談室では、今後はより一層、自信を持って業務に当たっていきたいとしている。それがオーナーの信頼を獲得し、満足度を高めることにつながるのだ。
 また、今後はさらにお客様相談室の告知に努め、アクセス数を増やしていく方針。ひとりでも多くのオーナーに製品の良さを伝え、ファンになっていただくことが目的だ。お客様相談室では、応対件数が増えても現状の応対品質を維持していきたいとしている。 


月刊『アイ・エム・プレス』2003年12月号の記事