コンタクトセンター最前線(第13回):取引履歴の一元管理と生産性・サービス品質の向上を実現

(株)エイ ビー シー スカイ パートナーズ

海外旅行の際に大きなスーツケースなどの手荷物を自宅や会社から空港へ運んでくれる「空港宅配サービス」 。その草分けである(株) エイ ビー シー スカイ パートナーズでは、予約業務の効率化とサービス品質の向上を目指して、2001年にコールセンターを一新した。 そこでの取り組みと今後の展開について話を聞いた。

空港宅配のパイオニアとして最先端のサービスを提供

 (株)エイ ビー シー スカイ パートナーズの創業は1997年。成田空港の開港と同時に、本邦で最初に空港宅配サービスを開始した。現在では、成田空港、羽田空港、関西空港、名古屋空港、福岡空港、新千歳空港など全国の主要10空港に窓口を設置している。
 現在では、空港宅配サービスだけでなく、旅行に関連する各種サービスを提供。 スーツケースのレンタルや修理、コート一時預かり、世界のおみやげ通信販売など、サービス内容の拡充を図り、後に参入してきたライバル企業との競争力を強化している。
 同社の中核商品である空港宅配サービスとは、電話で予約を受け付けて、例えば海外へ行く顧客の荷物を家から空港まで運ぶ、また逆に、帰国した顧客の荷物を空港から家へ運ぶというもの。いわば、サービスの通信販売なのだ。
 通信販売においてコールセンターは不可欠な存在。同社では、東京・本社内に予約センターを開設し、空港宅配の予約、スーツケースのレンタル予約や修理受付、世界のおみやげ通信販売の注文および問い合わせ受付を行っている。

コールセンター・システムを一新

 受付窓口には、電話、FAX、インターネットを活用している。
 インターネットで予約受付を開始した当初は、利用件数が少なかったこともあり、データベースへの登録は別途手入力するか、提携業者への発注時に使用するCSVデータを移行していた。また、顧客管理機能もなかったため、予約センターに集まるデータの有効活用がしづらい状況にあった。そこで、この課題を解決するためにコールセンター・システムを一新。2001年10月より、新予約センターを稼働させた。
 システムには、沖電気工業(株)のCTIシステム「Ctstage」と三井情報開発(株)CRMソフト「Vantive」を採用。マルチチャネルでの取引履歴を一元管理すると同時に、インターネットでの予約受付をすべて自動化。顧客がホームページ画面に入力したデータをダイレクトに登録するほか、予約確認のeメールを自動的に返信する仕組みになっている。
 このほか同システムには、オペレータに頼る部分を最小限に抑えることで、応対の効率化と精度を高め、トータルな品質向上を図るための機能が多々ある。例えば、同社の空港宅配サービスは、複数の運送会社と提携することで、集荷時間帯などのバリエーションを豊富にし、顧客に最適なサービスを提供できる体制を整えている。この結果、業務が複雑になり、オペレータに負荷がかかる。そこで、システムには集荷地域やサービス内容に応じてどの運送会社を手配するかをあらかじめ登録しておき、自動的に処理。顧客のニーズにきめ細かく対応しつつも、業務効率を高めることに成功した。
 また、次回ご優待券に記載されているコード番号や契約会社に伝えているコード番号を入力するだけで、該当するサービス内容がオペレータ端末に表示されるほか、郵便番号を入力するだけで、町名まで自動的に入力されるようにしている。
 予約センターに寄せられる電話の70~80%は受注。従ってオペレーションの効率化を図り、より多くの電話に対応することは、売り上げの拡大につながるのである。

0301-a1

クレームの原因を突きとめサービス品質の向上に努める

 また新しいシステムでは、全社でのクレーム情報の即時共有も実現した。コールセンターだけでなく空港カウンターにもクライアント端末を設置し、どの窓口にクレームが寄せられても、即座にデータベースに登録し、一斉に上層部をはじめ関連部署、そして関連取引先にeメールで詳細情報が配信される仕組みになっている。これにより、クレームへの迅速な対応が可能になったのはもちろん、これを分析することでサービスの弱点を知り、早期に改善策が講じられるようになった。
 具体的な改善例を紹介しよう。スーツケースのキャスター破損のクレームが重なったため、空港内でスーツケースを運ぶキャリアを2段にし、積み重ねないようにすると同時に、空港に運ぶ前に仕分け作業を行う提携先の倉庫の床に絨毯を引き、床に置く際の衝撃を和らげた。これによって、キャスターの損傷が激減したという。このように提携先に改善を求める場合、データを示すと非常に分かりやすく、スムーズにことが運ぶという。

顧客に応じて電話回線を使い分け

予約センターの受付時間帯は、月曜から金曜日が午前8時30分から午後6時までで、土・日が午前8時30分から午後5時までとなっている。
 スタッフ数は約70名。このうち約10名がセンターの運営管理を行う正社員。残りの約60名が受付業務を担うオペレータで、パートやアルバイトとなっている。
 電話受付には、一般加入回線とナビダイヤルを利用している。
 予約センターでは、全国からの電話に対応しているため、必然的に遠方のお客様が負担する通話料がかさんでしまう。そこでNTTコミュニケーションズ( 株)のナビダイヤルを導入。東日本地区は一般加入回線、西日本地区はナビダイヤルで対応することで、電話をかけやすい環境作りに努めている。しかし、かけやすさを追求すると、最終的にはフリーダイヤルに行き着く。そこで同社では、将来的にはフリーダイヤルに切り替える方向で、検討しているという。
 予約センターの告知には、パンフレットを作成し、旅行会社への販売斡旋依頼で配布しているほか、JALの機内誌「ウインズ」への広告掲載、各種旅行会社および空港ホームページとのリンクなどを活用している。
 また、不定期で実施しているアンケート結果から“口コミ”の効果も大きいことが判明した。

0401-aパンフ

各種サービスのパンフレット。予約センターの電話番号とURLが併記されている

顧客を逃さないためのクロスセリング

 同社の顧客はリピーターが多く、利用件数の約7割は既存顧客の利用となっている。これには2つの理由がある。ひとつは、最初の利用に不安を抱いていた方でも一度利用すると、その利便性と取扱品質の高さを理解していただけること。そしてもうひとつは、空港宅配やコート預かりサービスの利用金額に応じてマイレージポイントが加算されるという、大手航空会社との提携によるプロモーションに負うところが大きい。
 同社では、キャンペーン時に利用者を対象としたミニアンケートを実施。 「出発時に空港宅配を利用したか、しないか」 「利用しない理由」「海外へ行く際にあったら便利だと思うサービスは何か」といった質問を投げかけている。この結果をもとに顧客のニーズを探り、新サービスの開発に役立てているのだ。
 また予約センターでは、他社との提携プロモーションに甘んじることなく、クロスセリングを実施し、顧客維持に努めている。具体的には、出発の際の空港宅配しか予約していない顧客に、帰りの宅配をお勧めするというもの。成田空港第2ターミナルの到着ロビーには出口が2つあり、その一方にしか同社のカウンターはない。そのため、出発時に同社を利用した顧客が入国時には他社へ流れてしまう可能性がある。これを阻止するためにも、予約センターでのクロスセリングは欠かせない施策だ。
 同社では、クロスセリングに成功したオペレータにインセンティブを支給することで、モチベーションの向上を図っている。

月間5万~6万件のコールに対応 放棄率3%を維持

 予約センターに寄せられる月間コール数は平均5万~6万件。旅行シーズンの8・9・10月の3カ月が最も多いという。また、週単位で見ると休み明けの月曜日が最も多く、さらに1日単位で見ると、午前9時から11時までがピークとなっている。
 昨年から今年のはじめにかけては、米国同時多発テロの影響で、海外旅行者が減少。これを受けて同社では、受付体制を縮小した。そのため、一時期は放棄呼が目立っていたが、再度、受付体制の見直しを図り、現在では平均3%と非常に低い放棄率を維持している。前述の通り、一部の法人顧客を除き、電話での受け付けには一般加入回線とナビダイヤルを利用、通話料は顧客の負担となっている。そのため、お待たせしてはいけないとの考えから、余裕のある人員配置を敷いているのである。しかしこの数字は、裏を返せば労働力の余剰を意味する。オペレータ数、待ち時間、放棄率のバランスのとり方が難しいところだ。

インターネットの予約件数が倍増

 インターネットの予約件数は全体の約10%とまだまだ少ない。利用者の年齢を見ると、比較的高齢者が多いため、同社ではインターネット予約の利用率が低い理由はここにあると推測している。
 しかし、インターネット予約の利用件数はこの1年で倍増。前年比180%となっている。
 では、どういった顧客がインターネット予約を利用するのだろうか。その多くは、若い世代とビジネスユーザーのようだ。同社では各種航空会社と提携しており、ビジネスおよびファーストクラス搭乗者は無料で宅配サービスを利用できる。この多くはビジネス客で、会社から予約する際にインターネットを利用しているようだ。
 一方、ホームページへのアクセス数を見ると、インターネット予約利用件数以上に伸びており、現在では15~17万PVに達している。これは前年度比約360%に当たる。
 インターネットの利用が飛躍的に増加した理由としては、ネット利用者が増えていることが挙げられるが、それだけではない。同社では、コールセンター・システムの一新に合わせて、ホームページの機能拡充も図ったのだ。拡充は2度に分けて行われ、2002年9月に終了した。
 同時に、Yahoo!をはじめとする検索エンジンへの登録キーワードの見直しを図った。顧客が何をキーワードに検索するかを入念に調べ、“宅配”“空港”“旅行”では必ずヒットするように登録し直した。さらに、パンフレットや利用者に配布する次回ご優待券にはすべてURLを記載することで、徹底した告知を行っているのである。

受け身から攻めへ

 今後同社では、CRMシステムに蓄積されている500万~600万件の顧客データを分析、顧客一人ひとりの海外旅行のサイクルを洗い出し、個別のアプローチ時期を見定め、ダイレクトメールやeメール、電話で積極的に働きかけていきたいとしている。これまでは電話がくるのを待つ、受け身のビジネスを展開していたわけだが、今後は攻めのビジネスを展開していく意向だ。
 また同社では、IT環境のさらなる進展に備えて、コールセンター機能拡充の準備に余念がない。
 そのひとつは、インターネット対応の強化である。新システムには現在は利用していないものの、チャット対応機能とeメール問い合わせ受付機能が備わっている。ブロードバンドの普及により、一般家庭における通信環境が向上すると、より一層、インターネット利用者が拡大し、アクセスチャネルの主流になる可能性は十分にある。そこで同社では、チャットについては顧客ニーズの顕在化を待ち、またeメールでの問い合わせ受付については、オペレータが新システムに慣れてから十分な教育を行い、万全の受付体制を整えた上でスタートする計画だ。
 新たなシステムにはもうひとつ、在宅勤務を可能とするリモートアクセス機能が備わっている。オペレータの多くはパートやアルバイトで、午前中の勤務を希望する者が多い。こうした状況への対応策として、また交通費の削減や時間の有効活用に向けて、リモートアクセス機能を活用していく意向。しかしこれを実現するには、環境整備に費用がかかるほか、通話料もかさむという問題がある。実用化には、IP端末の低価格化とIPテレフォニーの早期普及が望まれるところだ。

PICT0025

予約センターのオペレーション風景。不明点があれば隣のオペレータに即確認。横のつながりも強いようだ


月刊『アイ・エム・プレス』2003年1月号の記事