コンタクトセンター最前線(第6回):顧客満足主義を追求し世界的な情報の共有化を推進

ユーピーエス・ヤマト・エクスプレス(株)

2000年3月、ヤマト・ユーピーエス(株) から分社して設立されたエクスプレス専門会社、ユーピーエス・ヤマト・エクスプレス(株) 。 同社では、お客様サービスセンターを重要な顧客接点と認識。“IT”と“人”を活かして顧客からの問い合わせに迅速・的確な対応をすることにより、顧客満足度の向上に努めている。

ニーズに基づくサービスを提供 顧客満足主義を追求

 ユーピーエス・ヤマト・エクスプレス(株)は、世界最大の小口貨物輸送会社である米ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)と、日本最大の宅配便ネットワークを誇るヤマト運輸との合弁会社である。
 同社の前身は、ヤマト・ユーピーエス(株) 。ヤマト・ユーピーエスは、1990年に設立されて以来、着実に業務を拡大してきたが、近年、エクスプレス(国際宅配便)事業、航空貨物事業ともに、日本における同業他社との競争が激化。顧客のニーズ、環境の変化に柔軟、かつ迅速に対応していく体制が求められていた。
 これを受けて2000年3月、エクスプレス、航空貨物、通関の業務を分社化。エクスプレス専門会社はユーピーエス・ヤマト・エクスプレス (株)、航空貨物主体の会社はヤマト・ユーピーエス・インターナショナル・エアーカーゴ(株)、通関業務専門会社はヤマト・ユーピーエス(株)のままとして新しいスタートを切った。
 ユーピーエス・ヤマト・エクスプレスの出資率は、UPSが51%、ヤマト運輸が49%。米国において確立されているUPSのエクスプレス業務とインターネット関連サービスを積極的に採用するなど、UPS主導で事業を展開している。エクスプレス業務については、東京・大阪・横浜における自社集荷とヤマト運輸の全国ネットワークで集荷した荷物を253機のUPSが所有する貨物航空機、および346機のチャーター便で、200以上の国と地域にドア・ツー・ドアで配達している。荷物を預かった翌日に米国まで届けることも可能だ。 また、自社の集配車によるサービスエリアを拡大し、当日自社機搭載率、当日配達率を高め、サービスレベルの向上に努めている。インターネット関連サービスについては、Webサイトで荷物の配達状況を確認できる「オンライン・トラッキング」や、出荷伝票などをPC上で作成できる出荷情報ソフト「UPS WorldShip」などを提供。顧客ニーズに基づくサービス提供を目指し、全社を挙げて「顧客満足主義」を追求している。

お客様サービスセンターは重要な顧客接点

 同社の使命は、正確に早く顧客の手元に荷物を届けること。その実現において、UPSとヤマト運輸のネットワーク、自社所有の貨物航空機、そして貨物の流れとスケジュールを正確に把握する「OPSCAN」や「自社通関・事前通関処理システム」をはじめとするITの活用は不可欠であるが、これらと同様に、お客様サービスセンターも欠かせない存在となっている。
 ヤマト運輸では、1990年のヤマト・ユーピーエス設立に先駆けて、1988年よりヤマト運輸の1部門で国際宅配便サービスをスタート。これと同時に、集荷依頼受付、利用方法や関税、配達日数をはじめとするあらゆる問い合わせに対応するお客様サービスセンターを開設した。 (その後、ヤマト・ユーピーエスの設立と同時に移管)
 お客様サービスセンターでは、顧客からの問い合わせに迅速・的確な対応をすることにより、顧客満足度の向上に努めている。お客様サービスセンターは営業スタッフのように、フェイス・トゥ・フェイスの顧客接点ではない。しかし、営業スタッフ以上に頻繁に顧客とのやりとりが行われる場だ。同社では、顧客満足を得るために不可欠な、非常に重要なポジションと位置付けている。

サービスの一貫としてフリーダイヤルを導入

 お客様サービスセンターの受付窓口には電話とeメールを利用。電話による受け付けについて見ると、集荷依頼受付窓口には一般加入回線、問い合わせ受付窓口にはNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを利用している。
 フリーダイヤル導入の理由は、顧客サービスの一貫として。お客様サービスセンターは東京・有明にあり、ここ1カ所で全国からの電話を受け付けている。そのため、遠方の顧客にも通話料金を気にすることなく電話をかけていただきたいというのが同社の考えである。また、フリーダイヤルに集荷依頼が入った場合でも、速やかに受け付けを行う。
 受付時間帯は、月曜から金曜日の8時30分から20時までと土曜・祝日の9時から17時まで。日曜日は休業となっている。受付時間外は、受付時間が終了していることと併せて、受付時間と休日をアナウンスしている。
 受け付けに当たるのは、36名のスタッフたち。席数は19席で、常時16名から19名が対応に当たっている。詳しい説明は後ほどするが、同社では、UPS本社で使用している受付システムICSCや、全世界のお客様サービスセンターの連絡先、各国の休日(ナショナル・ホリデー)、 料金体系、輸出入情報など、応対に必要な情報を登録したWorld Comと呼ばれるUPSのイントラネットを活用しているため、インターフェースの表示はすべて英語。また、サービス柄、外国人から問い合わせが入ることもある。そのため、スタッフにはバイリンガルを起用している。
 お客様サービスセンターでは、用件別に3つの受付チームを設けている。まずひとつ目が、集荷依頼を受け付ける「Pick-up Request」。2つ目が、料金や送付方法など一般的な問い合わせを受け付ける「Front Line」。そして3つ目が、関税や輸出にかかわる条約についてなど専門知識を必要とする問い合わせに対応する「Back Line」である。
 また、eメールによる問い合わせには、Front Lineで対応している。
 お客様サービスセンターの告知には、交通広告、新聞・雑誌、ホームページを活用(資料1) 。このほか、顧客に配布しているカスタマー・ニューズレターとサービスガイドにもフリーダイヤル番号を記載するなど、あらゆる媒体を活用している。

HP1
HP2 HP3

【資料1】ホームページには、お客様サービスセンターのフリーダイヤル番号とeメールアドレスを記載。また、よくある質問に関してはQ&A形式で回答を公開している

全世界共通システムで迅速・的確なサービスを提供

 お客様サービスセンターでは、2002年2月にコールセンターシステムを一新。ICSC(インターナショナル・カスタマー・サービス・センター)システムを導入した。これは、米国のUPS本社で利用しているもの。集荷手続き、問い合わせ内容の登録といった機能のほか、関連部署へ情報を伝達する機能を備えている。
 導入以前、関連部署への情報伝達は内線電話で行っていたため、担当者の不在や話し中によって用件がスムーズに伝えられないこともしばしば見受けられた。そのため、コールバックが必要な問い合わせへの対応に時間を要していたが、ICSCの導入によりこれを改善。現在では、最適なスタッフに迅速につなぐことによって、タイムラグを最小に抑えることができるようになったという。
 また、送った荷物の配達状況は、顧客にとって、ビジネスを円滑に進める上での重要な情報である。同社では、ITT(インテグレーテッド・トラッキング)システムによりこれを把握。これには、荷物の状況のほか、受領者のサインも登録されているため、運送状に記載されている全世界共通のトラッキング・ナンバーか顧客番号をキーとして検索するだけで、「送った荷物は今どこにありますか?」「いつ、誰が受け取りましたか?」といった問い合わせにリアルタイムで対応することができるようになっている。
 具体的なコールの流れは図表1の通り。

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 例えば集荷受付の場合、Pick-upRequestに電話が入ると、スタッフが集荷日、集荷時間などの必要事項を聞き、ICSC上の集荷受付画面に入力。入力後、画面上にある送信ボタンをクリックすると、オンラインでドライバーを手配するDispatchへ情報が伝達される。そしてDispatchから担当ドライバーへと伝わり、集荷へ向かう。
 また、関税に関する問い合わせの場合、まずFront Lineで受け付け、用件を確認した後、速やかにBack Lineまたは同社の通関に転送。つまり、Front Lineでは短時間により多くの顧客に的確な対応をする。Back Lineでは、調査に時間を要する問い合わせに対応するというように、役割を明確にすることで、業務の効率化を図っているのである。
 コールが集中するのは、9時から11時と16時から18時30分。朝一番と受付終了間際にコールが集中する典型的なパターンと言える。各チームの応対比率は、Front Line52%、集荷依頼受付36%、Back Line 12%と なっている。

センターで独自のトレーニング体制を確立

 業種・業態を問わず、コールセンターに共通する課題として、人材の育成がある。
 「人は財産」と考える同社では、全社で人材育成に取り組んでおり、営業、人事・経理など各部門ごとにトレーナーを配属。社内でトレーニング体制を整えている。
 お客様相談センターにおいても、これと同様にセンター内にトレーナーがおり、必要に応じてトレーニングを実施している。最近では、新システムの導入や、新機能の追加が頻繁になされているため、その都度、トレーニングを行っているという。トレーニングは、まず始めに3日間の集合トレーニングを行った後、スタッフ一人ひとりに対して1時間ほど時間を設け、フォロー・トレーニングを実施している。
 また、もうひとつの課題として、顧客の声の活用が挙げられる。
 お客様サービスセンターには、集荷依頼や各種問い合わせのほかに、要望や指摘が寄せられることもある。これらは、改善すべき点を示唆する、経営上有効な情報であると考えられる。そこで、お客様サービスセンターでは、通常のトラッキングとは別の専用画面に入力し、ICSCへ登録している。これをいかに活用し、サービスの改善に反映させていくか。お客様サービスセンターでは、これらを定期的に取りまとめ、センター長から部長へ報告。スタッフミーティングを経て、経営トップに伝えている。
 また、アメリカの学者デミング教授によって開発された人材評価システム「バランススコアカード」を用いて、仕事の仕方を顧客の視点、社内的ビジネスプロセスなどの点から細かく評価。この中の、顧客の声・満足度を重視して、センタースタッフの評価を行っている。

ICSCをベースにさらなるサービス向上を目指す

 世界各国のお客様サービスセンターでICSCを導入することによって、世界的なデータの共有が可能となる。同社では、これによって、顧客サービスがより一層向上するものと確信している。
 アジア諸国へは、多くの日本企業が進出しており、これらの中には、製品の生産は外国で行っているが、製品の輸送に関しては日本本社でコントロールしたいという企業もある。現在同社では、こういったニーズに応えるため、海外からの出荷を希望する場合でも、現地のお客様サービスセンターではなく、日本のお客様サービスセンターで受け付けられるよう、仕組みを構築している。例えば、香港からシンガポールに荷物を送りたい場合、日本のお客様サービスセンターで集荷依頼を受け、その情報をICSCによって中国へ転送。中国のDispatchを通して、香港の集荷指令を出す部門へ伝えるという流れだ。
 また、現在ヨーロッパでは 、ICSCをベースにお客様サービスセンター業務をアイルランドに集約している。ICSCの導入により、日本においても日本の顧客サポートは日本国内で、という常識を超えたサポート体制の構築が可能となったわけだ。
 どこの国でサービスを提供しても、サービスの本質が変わることはない。同社では、顧客の声を反映できるシステムを最優先で取り入れていく意向。ICSCの導入はその第一歩なのである。
 UPSには95年、ヤマト運輸には83年の歴史がある。創業以来、今日に至るまでビジネスを行ってこられたのも、顧客の信頼があってこそ。これからも大切な顧客との接点であるお客様サービスセンターでの応対品質を向上させ、お客様の満足を獲得。より一層、信頼を得られるよう努力していきたいとしている。

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お客様サービスセンターのオペレーション風景。
奥のチームがPick-up Request、手前のチームがFront Line


月刊『アイ・エム・プレス』2002年6月号の記事