コンタクトセンター最前線(第2回):顧客満足度向上を経営方針にCRMを推進

(株)内田洋行

(株) 内田洋行は、文具・事務用品などの製造販売からスタートした創業92年の歴史あるワークプレイス創造会社。 現在では、オフィス家具販売のみならず、ネットワーク構築を含むオフィス環境構築をビジネスとする「オフィス事業」 、学校教材、コンピュータ教育を取り扱う「教育システム事業」 、企業の販売管理などコンピュータシステムを販売する「情報システム事業」 の3本柱で事業を展開している。 今回は、同社がオフィス事業分野の問い合わせ受付を主業務としているお客様相談センターを核に、取り組みを開始したCRMについて伺った。

お客様相談センターの変遷

(株)内田洋行がお客様相談センター(以下、センター)を開設したのは、今から約15年前のこと。販売代理店を通じて販売したオフィス用品に関する問い合わせやクレーム対応を目的として、オフィス事業部内に開設されたのがはじまりである。
 それ以前は、顧客とじかに接する営業スタッフが受け付け、商品開発を担っている開発事業部が中心となって回答していた。このように営業スタッフが逐一対応していたのでは、営業スタッフの負担が大きくなるばかりか、回答に時間がかかるため顧客満足も得られない。同社ではこうした状況を打破するために、センターの開設に踏み切ったわけだ。
 その後、事業分野の拡大に伴い、センターに寄せられる電話も、教育システム事業や情報システム事業に関するものが増えてきた。 そのため、事業内容を問わずすべてに対応できる顧客窓口が必要と考えた同社では、センターをマーケティング本部に移行し、現在に至っている。

クレーム処理係から CRMの最前線へ

 今でこそ、お客様相談センターをはじめとする顧客窓口をCRMの最前線と位置付ける企業が増えてきたが、ほんの少し前までは、単なるクレーム処理係と考えられているのが一般的であった。同社においても同様で、顧客から日々寄せられる難問をなんとか処理することが主業務となっていた。
 その後、時代が変わり、企業の多くが顧客に目を向けはじめるようになるに従って、同社の意識も変化していった。2000年には、同社向井眞一社長が顧客満足度向上を目指す経営方針を打ち出し、センターを核としたCRMへの取り組みをスタート。販売代理店経由の売り上げが多くを占める同社では、これまで販売代理店というフィルターを通してエンドユーザーを見ていたが、ダイレクトにエンドユーザーを見据えることで、より一層の顧客満足度向上を実現しようとしたのである。
 最近では、顧客と密接に関係する部署として、センターが社内の注目を集めるようになったという。好ましい言い方ではないが、 「後始末」をする部署から、顧客対応を通じて信頼を獲得し、そこで得た情報を企業活動に役立てるためにフィードバックするCRMの最前線へと、180度の大転換が図られたのである。

業務形態はB to Bでも顧客対応はB to C

 同センターの具体的な業務内容は3つある。まずひとつ目が、オフィス用品に関する問い合わせへの対応。センターは、同社と顧客のファーストコンタクトの場。そこにおける最も大切な役割は、顧客の用件を正確に聞き、迅速・的確な対応をすることである。同センターでは、常にこの点に留意して業務に当たっているという。商品内容に関する問い合わせであれば、懇切丁寧に商品説明をし、困っていることであればその対応策を提案、また商品を購入したい顧客に対しては同社営業スタッフもしくは販売代理店につないでいる。
 同社の顧客は法人が大半を占めているが、販売代理店には家具専門店や百貨店も含まれているため、個人が同社の商品を購入するケースもある。また、法人が購入した商品であっても「椅子の背もたれが壊れてしまったがどうしたらいいのか」「デスクの引き出しの鍵をなくしてしまった」など、問い合わせてくるのは企業内個人であるのが実際のところ。センターでは、B to Bというよりは、むしろB to Cの感覚で業務に当たっており、顧客一人ひとりとリレーションシップを築いていくことに日々注力しているという。
 このほか、ごく少数であるが販売代理店からの問い合わせにも対応している。基本的に、販売代理店からの問い合わせには担当の営業スタッフが対応しているが、担当営業スタッフの不在時などには、センターに問い合わせが入ることもある。 現在、販売代理店からの問い合わせ件数は、全体の1割程度。センターではこの対応を、営業サポート兼販売代理店サポートと考えている。
 2つ目が、教育システム事業と情報システム事業に関する問い合わせの一次受付。学校施設や情報システムなどに関する問い合わせが寄せられた場合には、内容に応じて担当部門の各商品担当者に転送するかたちで対応している。
 そして3つ目が、同センターに寄せられた顧客の声を社内にフィードバックすること。商品クレームを商品開発部門にフィードバックしてその後の商品開発に活かすほか、見積依頼といった営業情報であれば迅速・的確に営業スタッフに伝達している。後者の場合は、伝達後のフォローまでが役割となっている。

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ベテラン社員の利点を活かして対応力を強化

 受付チャネルには、電話とeメールを使用。eメールでの問い合わせ受付は、1999年から開始した。
 電話には、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入している。同センター開設当時は一般回線を使用していたが、「顧客から情報をいただくのだから通話料金を自社で負担するべき」と考え、10年ほど前からフリーダイヤルに変更した。番号の告知には、ホームページ、カタログ、電話帳を利用している。
 受付時間帯は月曜から金曜の午前9時から午後5時10分まで。受付時間外は、フリーダイヤルの付加サービスのひとつである「時間外着信案内サービス」を利用して、受付時間をアナウンスしている。
 対応に当たるのは、男性3名、女性2名の計5名で、全スタッフを社員で構成している。受注センターを経験し、豊富な商品知識を持つベテラン社員を起用することで、業務の効率化と高い対応力を実現することが狙いだ。5名のスタッフのうち4名が電話対応、1名がeメール対応を主業務としている。
 センターでは、商品データベースや過去に発行したカタログをはじめとするあらゆる情報を用意して対応に臨んでおり、即時回答率は80%に達している。 残りの20%は、即時回答が難しいより専門的な問い合わせや、営業に関するもの。前者については、開発部門に問い合わせをして即時に回答を得て顧客に回答するか、いったん電話を切り、調べてから折り返し電話をかけて回答。後者については、営業情報や営業に関する要望は営業スタッフに、学校施設や情報システムに関する問い合わせは各商品担当者に転送している。これらの振り分けがスムーズにできているのは、スタッフがベテラン社員であることが大きく起因していると言えよう。コールセンター業務をテレマーケティング・エージェンシーなどに委託するケースもあるが、現状では社員が対応することが一番良いと考えているという。
 では、経験豊富なベテラン社員をスタッフとして起用した場合、研修は必要ないのだろうか? いやそんなことはない。同センターでは研修は欠かせないとし、熱心な研修を実施している。
 研修は、商品研修と応対研修に分かれており、商品研修は勉強会と称して行われている。この勉強会には、年1回商品開発サイクルに合わせて定期的に行う新商品をテーマにしたものと、従来商品について必要に応じて開発部門とミーティング形式で内容確認などを行うものの2つがある。一方、応対研修には外部機関が主催するセミナーを利用している。
 社員を起用するもうひとつのメリットとして、導入研修が短期間で済むことが挙げられる。新しく配属になったスタッフでも、1週間程のOJTを行うだけで、ある程度の対応はできるようになるそうだ。

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取扱製品2万5,000点点を掲載しているカタログ(年1回、40万部発行)。カタログの最終ページと裏表紙に、お客様相談センターのフリーダイヤル番号が記載されている

eメール通数は右肩上がり

 現在、同センターに寄せられるコール数は、年間約2万2,000件。eメールは年間約5,000通となっている。コール数については2万件前後で落ち着いてきたものの、eメールに関しては毎月20%の割合で増加傾向にあるという。
 その理由としては、第一にインターネット利用者の増加により、eメールで問い合わせをする場面が増えていることが考えられる。このほか、ホームページ上で公開している情報に対する問い合わせがeメールで寄せられるケースが多く見られるという。電話と異なりeメールには時間の制約がないため、顧客にとって利用しやすいチャネルとなっているようだ。
 ところが、eメールの増加に比例してコール数が減少するというわけではない。緊急時には、eメールを送った後にすぐ電話をかけてくる顧客も少なくないという。受付窓口に複数のメディアが用意されていることで、顧客がその時に適したメディアを選択することができ、それらをうまく活用していることがうかがえる。

情報の共有化を目指してコンタクト履歴DBを構築中

 センターでは、2001年夏より、コンタクト履歴データベースの構築に着手した。スタッフは、電話を受けながら入力票に顧客の氏名、問い合わせ内容、回答内容を記入し、電話を切った後、入力票の内容をコンタクト履歴データベースに入力している。将来的には、これを同社の全顧客管理台帳として販売履歴、企業の一般情報などが入力されている統合顧客データベースに付加し、社内で情報の共有化を図ることを目的としている。さらに、統合顧客データベースを商品開発や営業活動に活かして顧客満足度を高めるという良い循環を創出することによって、顧客の信頼を獲得、関係を強化していこうというのが同社の考えである。より一層、 CRMを推進していくためにも、統合顧客データベースへのコンタクト履歴集約が急務となっている。
 またセンターでは、統合顧客データベースの構築が進めば、オペレーション・サポートも強化されるため、経験の浅い社員でもセンタースタッフとして起用することができると考えている。

CRM推進のために

 クレームの多くは電話で寄せられる。クレーム対応には、興奮している顧客の心を解きほぐすテクニックが必要とされるが、これはベテラン社員でも難しく、かなり高いストレスを感じているのが実際のところ。スタッフのストレス解消については、スタッフ自身が素早く気持ちの切り替えをするよう心掛けているほか、センター長が応対を代わったり、スタッフとのコミュニケーションをよく取るように心掛けているという。しかし、これは応急処置的なもので、根本的な解決策ではない。現在センターでは、明確な解決策を見出せていないが、顧客満足度向上を目指して迅速、的確、丁寧、親切な対応を行うことが大切だと考えている。
 対応が難しいのはクレームに限ったことではない。日々顧客から寄せられる用件が多岐にわたることも顧客対応を難しくしている。今注目を集めている、環境問題に関する問い合わせへの対応はその好例だ。解決策としては、研修やOJTを通じて、対応力を強化することが不可欠であるとしている。
 このほか、一次受付にとどまっている教育システム事業と情報システム事業の機能を充実させること、増加傾向にあるeメールへの対応方法を課題としている。
 今後センターでは、「顧客満足度向上」を経営方針に掲げる企業のお客様相談センターとして、データベースを活用した具体的な解決策の提案、迅速な対応、顧客満足度の向上を追求していく意向だという。しかし一方では、真のCRMを実現するためには、ITを駆使することによって顧客を管理し、業務の効率化を図るだけでなく、人の温かみや人ならではの良さを追求していくことも必要と考えている。

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お客様相談センターは東京・潮見に設置。以前は130cmのパーティションを使用していたが、スタッフ同士のコミュニケーションを図りやすくするため、110cmのパーテーションに変更した


月刊『アイ・エム・プレス』2002年2月号の記事