通信ネットワーク最前線(第53回):業務の集約により全社的な生産性の向上を実現

(株)ジーシー

(株)ジーシーは、1921年に創業した歯科材料と関連機械・器具の製造・販売のリーディング・カンパニー。今回は、全国のディーラーから注文を受け付ける受注センターと、ユーザーからの問い合わせを受け付けるデンタルインフォメーションセンターについて話しを聞いた。

全社的なBPRの一貫として受注・出荷業務を集約

 歯科材料、および関連機械・器具の製造・販売を行う(株)ジーシー。歯科業界のリーディング・カンパニーである同社では、1997年に“2010年Vision”を策定。Visionでは「世界一の歯科企業をめざす」ことを目標とし、それを実現するために顧客志向の実践を重点施策と掲げたGQM(General Quality Management)活動を推進している。
 同社ではコンピュータの2000年問題を機に、世界的に注目を集めているドイツSAP社のERPパッケージソフトR/3を導入して全社的なIT化を推進すると同時に、業務の効率化、スピードアップを図るためにBPR(Business Process Reengineering)に着手。その一貫として、1999年9月に全国8カ所の営業所で行っていた注文受付、および出荷業務を集約。東京・板橋区にある本社内に受注センターを開設するとともに、全国を2分割して東日本と西日本の2カ所に配送センターを開設した。
 最近では患者のデンタルIQが高まりつつあり、歯が悪くなってから歯医者に行くのではなく、予防へと意識が変化してきているという。これに併せて、入れ歯にたとえると、噛めるようにするといった機能の回復だけでなく、見た目も重視するというように患者のニーズも多様化してきた。これにともない、同社の取扱商品が増加。消耗材料だけでも約600種類、これに色や型違いを含めるとその数は約8,000アイテムにもおよぶ。同社では、当初、各営業所を在庫のストック・ポイントとしても活用していたが、これでは在庫の分散化にともなう品切れの発生は避けられない。また、各営業所の在庫スペースに限りがあることから、突発的な大口注文には対応しきれないという問題点もあった。
 またR/3導入前は、1日の業務が終了すると各営業所から受注・出荷情報を本社ホストに伝送。バッチ処理を行い、翌朝、工場がその情報 を受けて生産、一部の仕入商品については発注をかけるという流れで商品の生産・供給を行っていたため、実際に商品が品切れになってからでないと工場への発注ができなかったが、今回のR/3導入によりリアルタイムで在庫状況が把握できるほか、品切れ予測や在庫過多も予測することが可能となった。加えてR/3で、財務・管理会計などの業務もサポート。統合データベースにより、業務間がシームレスにつながり、重複作業の減少を実現した。
 現在R/3は、本社、全国8カ所の営業所、工場のほか、全国8カ所のサービスセンターと関連会社に導入されている。導入に要した期間は約1年半。同社では、企業カラーのグリーンとGlobal Realtime ERP Networkの頭文字を取って「GREENシステム」と名付けた。このGREENシステムは、日経BP社主催の情報システム大賞中規模部門でグランプリを獲得した。

IVR で担当オペレーターへの着信をスムーズに

 受注センターの主な業務内容は、ディーラーからの注文受付、および問い合わせ対応となっている。全国8カ所の営業所では地域密着型の受注業務を行っていたことから、「いつもの」と言えばそれで通じるところがあったため、受注センター統合時にはサービス・レベルの低下が懸念された。そこで同社では、受注センター内を東西に分け、さらに東は北海道・東北と東京・横浜、西は名古屋・大阪と広島・九州の計4ブロックに分類。各ブロックに専任の担当者を配置し、ブロックごとに担当地域の受注業務を責任をもって行う体制を敷くことでサービスレベルの低下を最小限に留めるよう努めた。加えて、受注センターに配属が決まった社員が営業所に足を運んで、各得意先の事情や状況などについてヒアリングを行った。
 受注センターのスタッフは、国内の受注業務を行うスタッフが34名、輸出業務を行うスタッフが4名の計38名。国内の受注業務を行うスタッフの内訳は、センター長が1名、工場への生産を発注する商品管理係が5名、システム管理が1名、各ブロックの受注業務が27名となっている。 各ブロックのスタッフは、地域のディーラーの数により異なるが、ブロックの管理を行うチーフが1名、電話による注文や問い合わせへの対応を行うオペレータが1名、受注データの入力担当者が2~3名、入力のチェックが1~2名、特別な知識が必要となる機械製品の取扱者が1名となっており、約8名で構成されている。同社ではスタッフの配置を必要最小限に留めていることから、急な欠勤などによる欠員に備えて、すべての業務をこなせるスタッフを確保している。
 受注、および問い合わせの受付時間帯は、午前8時30分から午後6時30分までで、土日・祝日は休日となっている。
 受け付けには、電話とFAXのほかにEDI を活用。電話受付にはNTT コミュニケーションズのフリーダイヤルを12回線導入し、携帯電話・PHSからの着信も可能としている。
 コールセンター・システムには、全国300社のディーラーから寄せられる電話を担当ブロックにスムーズにつなげるようIVRを導入。まずはじめに、管轄営業所の番号を入力していただき、担当ブロックのオペレータにつなぐことにより、「いつも同じ人が対応してくれる」という安心感を提供し、顧客満足度の向上に努めている。これが効を奏し、ディーラーからの評価も高いという。
 受注センターには、伝票行数にして1日平均約8,000行の注文が寄せられる。受注方法の比率はFAXが最も多く83%。次いで電話が10%、EDI が7%となっている。
 受注センターの業務の流れは以下の通り。まず、午前11時30分で当日出荷分の受注を締め切り、その後1時間程度で受注伝票へ入力する。ちなみに、1日の受注の約4割が締め切り間際に集中するという。次に入力情報を東西の配送センターへ伝送すると、各配送センターでバッチ・ピッキングの上で梱包し、夕方から夜にかけて運送会社に引き渡すという具合だ。
 受注はFAX が多いのに対して、問い合わせは電話が大半となっている。問い合わせの内容は、受注に付随する納期や在庫の確認、価格など。納期や在庫に関する問い合わせは、欠品が増えると増加する傾向があるが、現在は欠品になることが少ないため、問い合わせも極めて少ないのが実際のところだ。

東京・板橋の本社内にある受注センターの様子。

東京・板橋の本社内にある受注センターの様子。デスクはハの字型にレイアウトされており、
右が東日本、左が西日本となっている。写真は東日本の北海道・東北と東京・横浜のブロック


全8,000アイテムが掲載されている商品カタログ。

全8,000アイテムが掲載されている商品カタログ。最終ページには、デンタルインフォメーションセンターのフリーダイヤル番号と同社のホームページアドレスが記載されている


課題はスキルアップとモチベーションの向上

 前述の通り、受注センターの業務は午前中に集中する。そこで同社では、必要な人材を必要な時間確保し、稼働率を高めるために、スタッフの大半はパートを採用している。採用に当たっては、適性を確かめることと、採用される側が業務内容を正しく理解するという目的から、1日間のトライアルを実施している。たとえば入力スタッフを2名採用する場合には、まず4~5名を選び、実際に業務に携わってもらうのだ。
 採用後は、歯科業界についてや、業務の流れや、決まり事といった内容からなる基礎学習を5~6時間実施した後、配属される業務に応じた研修を実施。たとえば電話応対スタッフの場合は基礎学習で簡単な応対スキルを学んだ後、配属ブロックの先輩スタッフに付きOJTに入る。
 その後は、フォローアップ研修を行いスキルの維持・向上に努めるわけだが、同社では独自の手法によるスキルアップを試みている。それは、パートも含む全スタッフを対象に、各自が担当している業務のスキルにポイントを付け、新しい業務を修得することでポイントを獲得することができるというもの。各自、半年もしくは1年間に達成する目標ポイントを設定して、ポイント・アップに取り組んでいる。すでにあらゆる業務をこなすことができるポイントの高いスタッフには、ポイントの低いスタッフをマン・ツー・マンで指導し、目標値までスキルを高めるという役割を与え、これが達成できればポイントを与える。こうすることで、センター全体のスキルアップを図ることが狙いだ。歯科医院は木曜日が休診であることが多いため、金曜日は比較的受注数が少ない。そこで同社では、金曜日の1時間を各自のスキルアップに当てることを義務づけている。
 また同社では、スタッフひとりひとりにIDを与えることで、作業のスピードや正確さをデータとして把握している。このデータを掲示したり、これを基に個人面談を行うことで、スキルアップと意識改革に努めているのだ。
 受注センターにおける一番の問題は受注エラーの発生である。現在、受注センターでは各ブロックごとに目標値を決め、エラーの減少に注力。最終的には99.99%の精度を達成したいとしている。
 そこで課題となっているのが、スタッフのモチベーションとモラルの向上。受注センターでは、優秀なスタッフを発表するなどしてモチベーションを高めている。このほか、全社的な取り組みとして、これまで社員のみとなっていた報酬制度の対象を、2000年から派遣・パート、配送センター、工場のスタッフにまで拡大。全スタッフのモチベーションを向上させることで、全社的に生産性が高まることを期待している。

デンタルインフォメーションセンターでユーザーの生の声を収集

 同社では、受注センターでディーラーからの問い合わせを受け付けているほかに、製品のユーザーである歯科医、技工士、衛生士からの製品に関する問い合わせに対応するデンタルインフォメーションセンターを開設している。
 受け付けには電話、FAX、Eメールを活用。ここでも電話受付にはNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを導入。受付時間は、月曜から金曜日の午前9時から午後4時までとなっている。
 対応に当たるのは、4名のスタッフ。スタッフは歯科技工士、歯科衛生士、元同社研究所の社員、元営業担当者で、豊富な専門知識を備えている優秀な人材ばかりだ。同センターに電話で寄せられた問い合わせ件数は、1999年10月から2000年9月までの1年間で8,600件。前年度の5,800件を大きく上回っていることから、同社では今年度は1万件を超えるものと予測している。
 問い合わせの具体的な内容は、製品の使用方法が80%と最も多く、製品に対する要望が11%、製品に対する苦情が6%、その他が3%となっている。
 デンタルインフォメーションセンターで収集したユーザーの声は、R/3の統合データベースとは別のデータベースに蓄積している。同社では毎月1回、マーケティング、営業、品質保証のスタッフを集めて評価会を開き、過去のデータと合わせてニーズの高さなどを検証。その結果を商品の改良や新商品の開発、サービスの改善などに活用している。
 同社では、デンタルインフォメーションセンターをディーラーのフィルターを通さずにユーザーの生の声を聞くことができる場として重要視している。将来的には、デンタルインフォメーションで収集したユーザーの情報をR/3に統合していく意向だ。
 全社的な顧客志向の実践を掲げて取り組んだGQM活動が認められ、同社では2000年11月にデミング賞実施賞を授賞した。
 今後同社では、R/3をディーラー、およびユーザーのさらなる満足度向上につながるよう運用していく意向。
 21世紀も歯科業界のリーディング・カンパニーであり続けるとともに、「世界一の歯科企業をめざす」(株)ジーシー。同社の今後に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年2月号の記事