通信ネットワーク最前線(第34回)

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.

1998年秋、オーストラリア・シドニーにコールセンターを開設したアメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.。その現状と今後のビジョンについて話を聞いた。

シドニーにオペレーションセンターを開設

 アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.では、アジア・パシフィック地域の各国コール・センターを集約し、シドニーに大規模なオペレーションセンターを設立。1998年秋より本格稼動を開始した。
 1850年に創業したアメリカン・エキスプレスは、クレジットカード、旅行小切手の発行・旅行代理店業など旅行関連業務、証券業、投資顧問業など個人金融サービス業務を全世界で展開しているグローバル企業。以来、総合金融サービス会社として「世界で最も尊敬されるサービス・ブランドとなる」ことを目指し、世界中のお客様へのハイクオリティなサービスの提供に努めてきた。
 日本への参入は、1917年(大正6年)。横浜に支店を開設し、旅行の手配や両替業務を開始。その後、1954年(昭和29年)、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc.日本支社を東京に設立した。日本でのクレジットカードの発行は、1980年に発行を開始したゴールドカードを皮切りに、1983年にはアメリカン・エキスプレス・カード、1993年にはプラチナカードを発行。これらの独自発行カードに加え、1996年からは世界の金融機関などとの提携カードの発行を開始。日本でも、1997年にクレディ・セゾンとの提携カードを発行した。
 同社の全世界におけるカード発行枚数は4,270万枚におよぶ。同社ではこれまで、これらの会員からのクレジットカードに関わるすべての問い合わせを各国のコールセンターで受け付けていた。この電話による会員サービスのクオリティの高さには定評があるが、同社では、会員がどこの国からでも自国で受けるサービスと変わらぬサービスが受けられるよう、電話サービスのクオリティを向上させ、かつ効率的に受付業務を運営していきたいと考えていた。そこで、各国で運営していたコール・センターを地域ごとに集約。アジア・パシフィック地域においては、日本、香港、シンガポールなどのコール・センターをシドニーに統合した。各国ごとに行っていた会員からの問い合わせ業務などを1カ所に集約して処理することで、これらの課題を解決することを目指したのである。

シドニーセンターの外観。正面玄関には世界の国旗がはためいている

シドニーセンターの外観。正面玄関には世界の国旗がはためいている

シドニーが選ばれた理由

 アジア地域のリージョナル・オペレーションセンターの建設地にシドニーを選択した理由は何か。ひとつ目は、多くの民族や文化が共存しており、アジアの中でも国際的な都市であるシドニーは、アジア・パシフィック地域の中でも非常に重要な位置にあること。二つ目は、日本との時差が少ないこと。三つ目は、日本からシドニーへ海外赴任しているサラリーマンが多く、その家族をはじめ日本語を話せる人材が豊富なことである。同社では、日本からの電話を海外で受け付けることについて、以下の二つの理由から懸念はしなかったという。ひとつ目は、国内で受付業務を行わなければ会員に良いサービスが提供できないわけはないと考えていたこと。そして二つ目は、テクノロジーの進化により、通信には国境がなくなってきていると捉えていたためである。
 現在同社では、経理はインド、財務はシンガポールというように、世界分業体制を推進している。従来、それぞれの国ごとに行っていた業務を、エリアごと、またはさらに広げてワールドワイドで実施していこうというのだ。たとえば、インドや香港といった国々で行っていた業務を統合することについて、国柄や文化の違いを懸念する声もあったが、実際にフタを開けてみると共通する部分がかなりあるという。たとえば、新規会員の獲得のためのダイレクトメールについては、かなり共通した手法でできるところがある。そういった共通部分を活かして、ワールドワイドでの効率を追求していこうというのがその考えだ。
 また、日本は人口が1億人以上とマーケットも大きく、1人当たりの所得も高い。したがって、多くの日本企業では、業種・業態を問わず、これまで国内市場のみを想定して組織や体制をつくってきた。同社においても最近までは同様の考え方が採られてきたのは事実。しかし、各国ごとに組織を作るとなると、各種の専門家やプロフェッショナルも国ごとに配置する必要がある。グローバルな競争が激化する中で、今後、このような体制の構築は人材の確保においても、またコスト面でも難しくなると考えたのである。

シドニーセンターの概要と受付体制

 アジア・パシフィック地域のリージョナル・オペレーションセンターとして設立されたシドニーのセンターには、日本、香港、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、台湾の7カ国の業務が移管され、各国のスタッフが同じオフィスで仕事に就いている。同社では、電話はあくまでも会員へのサービスととらえているため、ここではインバウンド業務のみを実施。利用金額の照会やカードを紛失したなどの緊急時の連絡といった、カードに関するすべての問い合わせを受け付けている。
 日本の会員からの問い合わせにはジャパンチームが対応。ジャパンチームのオペレーター数は約90名。オーストラリア在住の日本人や日本から赴任したスタッフなどで構成されている。
 オペレーターは採用後、約1カ月間にわたり専門のトレーナーのもとで研修を受け、受付業務に必要なスキルを学ぶ。テレフォン・スキルについては、全世界共通のカリキュラムが用意されている。また、トレーニング内容は専門知識、操作方法、ベネフィット、プロシージャー、ワークフローなどにおよぶ。さらに、その後のOJTによってスキルアップを図っていく。
 受付時間は日本時間の午前9時から午後5時まで。土・日・祝日は休業となっている。但し、緊急時の受け付けについては、年中無休・24時間体制。同社では、日本とシドニーを専用線でむすび、受け付けには会員専用のフリーダイヤルを使用している。
 フリーダイヤル番号の告知媒体には、隔月発行の会員情報誌「IMPRESSION」や会員に送付される利用明細の裏面を活用している。
 会員からの電話は、まずはじめにIVRで対応する仕組み。会員はアナウンスに従って言語を選択し、次に用件を選択すると適切なオペレーターに電話がつながるというわけだ。
 オペレーターは、会員のカード番号をキーに会員情報システムにアクセスして情報を検索、用件に応じて必要な情報を参照しながら対応に当たる。会員情報を検索・表示するケア画面は、使い勝手を良くし、オペレーターが的確でスムーズな対応ができるよう工夫されている。
 会員情報システムには、氏名、住所、当月分の利用状況、次月分の利用状況、ヒストリカル情報、ポイント数などが登録されている。会員のプライバシーに関わるデリケートな情報が多いだけに、セキュリティの強化は重要な課題。そこで同社では、担当セクションごとにプロテクトをかけて、たとえ社内のスタッフであっても、担当業務に必要な情報以外は参照できないような仕組みを採用している。
 同社の会員情報システムは米国・アリゾナ州フェニックスで集中管理されている。会員情報システムには、4,270万枚という全世界の会員情報が登録されているため、海外アカウントの会員からの電話を日本で受けた場合でも、適格な対応ができる。たとえば、日本に旅行に来た海外アカウントを持つ会員の利用状況に関する問い合わせにも、スピーディに回答することができるわけだ。
 問い合わせ内容で最も多いのは、利用状況の確認。次に、諸届け変更、メンバーシップ・プラス(カードの特典プログラム)の問い合わせとなっている。
 同社では、クレジットカードに関するコア・サービスの受け付けはすべてシドニーセンターに移行したが、日本で電話受付業務を実施しているサービスもある。それは、取り扱いに規制がある「保険」や、国内でないと施設の状況がわかりにくい「ゴルフデスク」といったサービスである。これらについては、いずれも専用のフリーダイヤル番号を設けて、東京・杉並区にある同社日本支社内のコールセンターで受け付けを行っている。

シドニーセンターで働くスタッフたち。各国自慢の食べ物を持ちよって開くパーティー「マルチカルチュラル・デイ」でのワンショット。国境を越えたスタッフ同士のコミュニケーションもまた重要である

シドニーセンターで働くスタッフたち。各国自慢の食べ物を持ちよって開くパーティー「マルチカルチュラル・デイ」でのワンショット。国境を越えたスタッフ同士のコミュニケーションもまた重要である

常にベストを目指して

 シドニーセンターの本格稼動からまだ間もないため、実際のデータに基づく効果測定はまだこれからという段階。したがって、具体的な効果は把握していないが、同社では「日本のシステムがダウンしてもシドニーで受けられる」、逆に「シドニーのシステムがダウンしても日本で受けられる」という危機管理体制の確立により、安全・安定性が向上したことを非常に高く評価している。
 今後は引き続き、ワールドワイドな業務の集約化を推進し、さらに高い効率を追求していく意向。シドニーセンターと同様の大規模なセンターは、世界各地にあり、イギリスのブライトンをはじめとする全世界16カ所に設置されている。
 一方で、独自のチェック機能を活用して、会員へのサービス・クオリティの維持・向上に取り組んでいくという。
 同社では、常にお客様の多様なニーズに合った商品やサービスを提供するべく体制の充実に努めてきた。これからも常にベストを求め、「世界で最も尊敬されるサービス・ブランドとなる」というビジョンのもと、お客様に最高の便益と価値を提供し続けていく意向である。

ゴールド会員に送付される「IMPRESSION GOLD」。特集やインタビュー、コラムなどの読みものと、イベント、メンバーシップ・プラスの特典などを満載した情報ページで構成されている。一般会員には「IMPRESSION」が送付される ゴールド会員に送付される「IMPRESSION GOLD」。特集やインタビュー、コラムなどの読みものと、イベント、メンバーシップ・プラスの特典などを満載した情報ページで構成されている。一般会員には「IMPRESSION」が送付される ゴールド会員に送付される「IMPRESSION GOLD」。特集やインタビュー、コラムなどの読みものと、イベント、メンバーシップ・プラスの特典などを満載した情報ページで構成されている。一般会員には「IMPRESSION」が送付される

ゴールド会員に送付される「IMPRESSION GOLD」。特集やインタビュー、コラムなどの読みものと、イベント、メンバーシップ・プラスの特典などを満載した情報ページで構成されている。一般会員には「IMPRESSION」が送付される


月刊『アイ・エム・プレス』1999年7月号の記事