通信ネットワーク最前線(第6回)

(株)法研

半世紀にわたり健康、 医療、 年金、 福祉情報を、 出版物を通じて提供してきた株式会社法研。 出版から派生した事業のひとつ、「ファミリー健康相談」 について話を聞いた。

健康に関わる情報提供、啓蒙を担って

 「言論を通じて社会保障制度の確立を推進し、国民の文化的な生活の建設に寄与する」ことを目的として、1946年 10 月に設立された(株)法研。
 健康保険組合、共済組合、厚生年金基金などが担う健康保険組合事業は、医療費の負担と、スポーツ大会の実施や保養所の設置などを通じて行われる組合員の健康維持・管理の 2 つに大きく分けられるが、同社では、約半世紀にわたり蓄積してきた社会保障、および健康管理・健康づくりに関する情報提供を通じて、後者の事業をサポートしている。
 同社の主な情報提供ツールは出版物。健康保険事業を行う組合・団体の貴重な資料となる社会保険専門図書や健康保険組合・厚生年金基金の機関誌、家庭医学書、保健図書、定期刊行物などがその中心で、1 年間に発行する出版物の数は 1,000 点を超える。これに加え、さらに高度なユーザーの要望に応えるために、健康保険組合を運営するために必要な制度や社会保障情報の研究会、厚生年金基金に関する研究会、健康づくりや食事指導などの実践的セミナーの企画・運営なども行っている。また近年では、CD-ROM による電子出版などのニューメディア事業にも力を注いでいる。

活字での健康相談から電話での健康相談へ

 同社が一 生活者向けに発行している出版物の中で大きな柱となっているもののひとつに、組合員に同社から直接送付している月刊の情報誌がある。独身者のための「ジャストヘルス」、既婚者向けの「すこやかファミリー」、実年層を対象とした「ヘルスアンドライフ」、高齢者のための「お元気ですか」、年金受給者のための「ゆたか」がそれだ。健康に関する悩みは年齢や子どもの有無によって大きく異なること、また、お年寄りには見やすい大きな文字で情報を提供したいといった諸事情を配慮して、年齢層や家族構成別に媒体を設け、それぞれが必要とする情報を最適なかたちで提供している。このうち最も部数が多いのは「すこやかファミリー」で、毎号 150 万部を発行している。
 これらの情報誌には、読者の健康に関する悩みや不安に答える Q&A のページが設けられている。ここには毎月たくさんの相談が寄せられるが、一方で月刊誌のスペースには限りがある。そこで同社では、掲載できなかった相談への回答を郵送していたが、相談件数が月に 200 件以上に達した時点で、すべての相談に応じることが難しくなった。
 そこで同社では 1987 年 4 月、より直接的な情報サービス事業として、最も気軽で身近な電話で健康相談ができる「ファミリー健康相談」を開設した。
 健康保険組合、共済組合、厚生年金基金など団体単位での加入を募り、その組合員と、組合員の家族を対象に相談を受け付けている。
 同サービスの受付業務は、各種専門分野における電話相談に定評のあるダイヤル・サービス(株)に委託。当初は月~土曜日の午前 9 時から午後 5 時まで、3 本の一般加入回線で相談に応じる体制を敷いた。契約を結んだ団体が、同社に対してサービス利用料金を支払うシステムをとっているため、相談者がその都度、相談料を支払う必要はないが、通話料金は相談者持ち。受付窓口が東京都内 1 カ所のため、一加入回線を使用していたのでは会員の居住地によって、負担額に自ずと格差が生じる。しかも相談にかかる時間は平均 10 分。20 分以上におよぶことも稀ではない。
 「ファミリー健康相談」に期待されている役割のひとつは、組合員自身の健康管理をサポートすることによって病気を予防し、通院・入院の必要をなくして、医療費の支払額を最小限にとどめることにある。しかし利用する側にとっては、場合によっては電話で相談をするよりも、病院にかかったほうが安い、というケースも出てきた。
 そこで同社では、会員に対するサービスの平等化、費用の有効活用を目的に、1994 年、同サービスにフリーダイヤルを導入。さらに1996年4月には、日・祝日、年末年始の受け付けを開始し、年中無休・24 時間での受付体制を実現した。
 受付体制の整備・拡充にともなって、コール数も大きく増加していった。同社ではこれに応じて、使用回線数を段階的に増設してきた。

「ファミリー健康相談」の相談風景

「ファミリー健康相談」の相談風景

「健康情報」と「安心感」を提供

 「ファミリー健康相談」では、健康に関するあらゆる相談を受け付ける。健康づくりに役立つ食事や運動、予防接種や健診内容と結果の評価といった健康管理に関する情報はもちろん、メンタルヘルス、在宅介護、妊娠・出産・育児、医師にかかる前に知りたい医療機関や福祉施設の情報、全身のあらゆる症状とその治療法、医療保険給付と医療費などに関する質問など、ここに寄せられる相談の内容は実にさまざまだ。相談に当たっては所属する団体名や被保険者番号、氏名を告げることが必要だが、もちろんプライバシーはしっかり保護されているので、話しにくいことも安心して相談することができる。
 核家族化が進んだ現在、特に近くに相談相手になってくれる年長者などがいない会員には心強いサービスだ。また、転勤や出張、旅行などで海外にいる会員もサービスの対象。文化や風土、言葉、医療制度が異なる国で医師にかかるのはとても不安なもの。海外からはフリーダイヤルは利用できないが、24 時間、どこからでも日本語で適切な助言を受けられるのは心強い限りだ。
 同サービスは、「健康情報」といっしょに「安心感」を提供しているのである。

プロフェッショナルが懇切丁寧に責任を持って回答

 相談に対応するのは、ヘルスアドバイザーと顧問ドクター。ヘルスアドバイザーは、全員が保健婦、助産婦、看護婦、栄養士、介護士など、健康や医療に関わる何らかの資格を持つプロフェッショナル。顧問ドクターは、医療の第一線で活躍している内科、外科・整形外科、産婦人科など各科の専門医。両者ともに豊かな経験と知識を生かして相談に当たっている。
 会員が「ファミリー健康相談」に電話をかけると、まずヘルスアドバイザーが相談者の所属団体を確認し、相談の内容を聞いて相談カードに記入する。内容に応じて、対応は3つに分けられる。「コレステロール値が高いのですが、日常生活や食生活でどんなことに注意したらいいですか」というような、心と体の健康づくりに関する質問には、電話を受けたヘルスアドバイザーがその場で回答、具体的なアドバイスをする。「健診の聴力検査でオーディオ 1000Hz で要精検と指示がありました。どんな検査があるのでしょう」といった専門的な質問の場合は、ヘルスアドバイザーが顧問ドクターの意見を確かめた上で再回答する。「会議の席上で冷や汗がひどく出ます。何とか治したいのですが」というような具体的な対応が求められる質問には、専門の顧問ドクターの担当日に予約を入れるとともに、そのドクターに相談内容を連絡。当日、ドクターが直接回答する。実際には、ヘルスアドバイザーが即答できるケースが9割以上を占めているという。
 フリーダイヤル番号をはじめとするサービスの詳細告知は、各団体の社内貼りポスターや、組合・団体員に配布する「ファミリー健康相談」のしおりのほか、「すこやかファミリー」などの情報誌で行っている。また、本誌だけでなく送付の際に用いる封筒も、告知ツールとして活用。
 組合によっては、誰もが必ず目をす給与明細を活用して、効果的な告知を行っているところもある。

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「ファミリー健康相談」を告知するポスターと広報シール。ほかに情報誌やチラシなどで、サービスの周知に努めている

相談内容の詳細を契約先にフィードバック

 現在、同サービスに加入しているのは、約250の団体。会員数は約300万人、その家族を含めると 1,000 万人以上に達する。高齢化、核家族化が進み、「おばあちゃんの知恵袋」的な存在が家庭から姿を消したことや、健康ブーム、ヘルシー指向の広がりで若年層の健康に対する関心が高まっていることもあり、会員数、相談者数は、ともに年々増加の一途をたどっている。
 また契約者は、健康保険組合など健康保険事業者のほかに、カード会員向けに同サービスを導入するクレジットカード会社など、一般企業にも広がっている。
 会員から寄せられる相談内容のトップは、症状と治療法について。次に多いのは、何科にかかったらいいのか、あるいは救急病院の紹介といった、医師にかかる前の疑問。そして、妊娠・出産・育児に関する相談の順になっている。
 1 カ月間に寄せられる相談件数は 7,000~8,000件。これらの相談にひとつひとつ丁寧に対応するために、同社では、60 名のヘルスアドバイザーと 64 名の顧問ドクターを所属相談員として確保。常時 15 名の相談員が 3 交代制で24時間応対に当たっている。
 相談者は、女性が 80%、男性が20%。圧倒的に多いのは家庭の主婦だ。
 1 回の相談にかかる平均通話時間は約 10 分。学校や職場へ家族を送り出して主婦が一息つく午前中と、医療機関が業務を終了してからの夜6~9時が比較的相談が多い時間帯である。
 年代別に割合をみると、30 代が 40%、20 代が 20%、40 代が 20%。20 代の若い会員からの相談が意外に多いのが目を引く。
 相談の対象は、すべての年代において「自分自身」のことが最も多く、 55%を占める。次いで、「赤ちゃんや子ども」のことが30%となっている。
 ここで受け付けられた相談内容は、各団体の保健指導、疾病予防事業の参考資料として活用できるように、月間報告書や年間報告書のかたちで契約先に届けられている。

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情報提供によって会員の健康をサポート

 的確な助言がほしい時に、いつでも相談できるという安心感は、会員やその家族の大きな支えとなる。
 健康に関する相談を受ける中で遭遇する印象的なエピソードは、数え切れない。ある時、どこの病院にかかっても症状の回復がみられず、困っていた会員から「ファミリー健康相談」に電話があった。ヘルスアドバイザーのアドバイスで検査を受けたところ、心臓病であることが発覚し、手術を受けた。的確なアドバイスのおかげで大事に至らず、回復は早かった。このようなケースは決して稀ではない。実際にお礼の電話や手紙を受け取ることも少なくないが、「電話をかけて安心しました」という声を聞くと、大きな励みになるという。
 健康保険組合の医療費負担が増大する中で、今後ますます、保険料の有効活用が重要な課題となっていくだろう。
 同社が扱う社会保険に関する専門図書は、以前はルートセールスにより、一部の層にのみ販売されていた。しかし 1992 年からは健康関連図書の書店売りを本格的に開始し、健康管理に役立つ情報を、広く一般にも提供している。

これからの時代に求められる施策

 本格的な高齢化社会を迎える 21 世紀を目前に、いま、社会保険制度は大きな転換期を迎えている。公的介護保険制度の創設と、それにともなう各種医療保険制度の改定。また、成人病時代に対応できる、実行力のある施策が求められているのだ。
 こうした動きの中で 50 周年を迎えた同社では、その記念図書として、 1996 年に「最新決定版家庭医学大全科」、「チャート式 成人病予防読本」などを、総力を結集して出版した。また、ストレスの多い現代人のためにメンタルヘルス・カウンセリング事業にも着手、1996 年 10 月から「東京カウンセリングセンター」を開設している。このように同社は時代の要請に応えて、さまざまな事業に取り組んできた。メディアやサービスの種類が広がっても、その目的はいずれも社会保障に関する公正迅速な報道であり、また、健康管理・健康づくりのための情報提供であることに変わりはない。人々が望む情報が何なのかを知る上でも、「ファミリー健康相談」の役割は、今後ますます大きくなっていくに違いない。
 真に幸福な生活は健康から…。今も昔も変わらぬ人々の願いを実現するために、100 周年までの新たな 50 年に向けた同社の取り組みはすでにはじまっているのである。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年3月号の記事