通信ネットワーク最前線(第2回)

(株)SSコミュニケーションズ

チケット業界で、はじめて、予約受付窓口にフリーダイヤルを導入した“チケット・セゾン”。その経緯と狙い、今後の計画について話を聞いた。

臨時電話をフリーダイヤルに移行

 セゾングループのチケット販売会社、(株) SSコミュニケーションズでは、今年8月、チケット予約受付窓口に、業界ではじめてフリーダイヤルを導入した。
 同社の「チケット・セゾン」予約受付センターは、東京、札幌、名古屋、大阪の 4カ所。それぞれのセンターでは、固定した電話番号を持つ「通常電話」のほかに、海外著名アーテイストのコンサートやJリーグの試合など、人気が集中する興行・イベントの予約受付のために、随時「特別電話」(以下「特電」)を設けている。「通常電話」、「特電」とも、受付時間は年中無休、午前 10 時から午後6 時までだ。
 今回フリーダイヤルを導入したのは、東京センターの「特電」。「特電」と言っても、稼働は年間約 300 日。 「○○ のチケットはいつ発売ですか」「チケットを失くしてしまったんですが・・・」などの問合せも多い通常電話と異なり、ほぼ 100%予約に結び付くという意味においても、業務の中心的役割を担う存在だ。しかし、予約開始日の午前 10時に集中するコールに合わせて適正な数の人員を確保しなければならないなど、マネジメントは容易ではない。
 以前、池袋にある 東京センターの「特電」 には、臨時電話、いわゆる臨電を使っていた。 99 で始まる覚えやすい電話番号を 5 つ確保し、興行ごと、また発売当日か翌日以降かなどによって受付電話番号を毎日のように変更。保留機能も持たない簡易な電話機を使って、アルバイトが対応していた。
 正確な販売予測を立てることは容易ではない。予測よりコールが多い場合には、話し中で電話がつながらず、販売機会を逃すことになる。逆に予測に反してコールが少ない場合には、必死の思いで確保したアルバイト要員の手が空いてしまい、その人件費が利益をさらに圧迫する。
 チケット予約端末は電話機 10 台に対して 1 台。テレコミュニケーターは希望の興行名、日時を聞いて所定の用紙に記入、予約端末担当のスタッフに手渡し、予約番号が発行されるまでの間、ヘッドセットの送話口を手で押さえて待つという作業が繰り返されていた。
 とある事情でこの池袋のセンターの移転が決まった。これをきっかけに、同社では予約受付体制の見直しに着手。 1996年2 月、「特電」をテレマーケティングエージェンシーである NTTテレマーケティング(株)に委託した。さらに検討を重ねた結果、 8 月からこれをフリーダイヤルに切り換えることを決めた。
 チケット販売会社にとって、広告費、システム費、人件費は3大コスト要因。どれも必要不可欠の投資だが、できる限り固定費を抑え、無駄を省くことが肝要だ。同社がNTTテレマーケティング(株)に支払うのは、コール数分の従量制料金。受けた電話に対して、すなわちチケットの予約に対してコストが発生する、合理的なシステムだ。 「コストは固定制から変動制にシフトさせていきたい」(チケット・セゾン事業本部 予約販売リーダー 岡倫二郎氏)というのが同社の基本的な考え方である 。

フレキシブルな受付体制を構築

 フリーダイヤル導入を提案したのはNTTテレマーケティング(株)。顧客サ ービスを向上し、同業他社との差別化を図ることが、その最も大きな目的であることは言うまでもない 。「特電」にかかってくる電話は、ほぼ100% 、チケット予約に結び付く。チケットを購入してくださるお客様へのささやかなお札として、通話料金をサービスしようという考え方だ 。
 チケットは全国一斉発売。どこで購入してもチケットそのものに変わりはない。そこでフリーダイヤルが「チケット・ セゾンで購入しよう」という顧客の動機付けになり、売り上げが拡大するだろうと(株)SSコミュニケーションズでは期待している。
 また、「特電」は人気興行を取り扱うため、コールが集中して話し中になりがちだ。フリーダイヤルには、「なかなかかからない」というお客様の苛立ちに対するお詫びの意味も込められている。
 さらにフリーダイヤルは、センターのスムーズな運営にも一役買っている。
 興行によってコール数には大きな増減がある。臨時電話で対応していたのでは、回線数や電話番号の変更ごとに回線工事が必要。しかしフリーダイヤルの「回線数変更サービス」「受付先変更サービス」などを利用すれば、受付体制によって随時フレキシブルにネットワークをコントロールすることができるというわけだ。
 また、NTTテレマーケティング(株)では、東京、神奈川 の5 つのセンターで分散して電話を受け付けているが、フリーダイヤルの「分配サービス」を利用することによって、その時々の体制に合わせて分散の比率を変更している。 「全国共通番号サービス」によって、センターの場所がどこであろうと、市外局番のない共通の番号で受け付けられることも大きなメリットだ。
 センターを分散するメリットは、 1カ所で大勢のスタッフを確保する必要がないこと、万一システム上のトラブルなどが起こった場合のリスクを回避できることであると NTTテレマーケティング(株)では考えている。フリーダイヤル通話料を最小限に抑えるためには、広範囲にセンターを分散することが望ましい。しかし一方で、分散すればするほど、スタッフの確保・教育、また、予約端末の増設にコストや手聞がかかるというデメリットがある。そこで当面は管理者の目の行き届く範囲に限って分散体制を敷きつつ、様子を見ていきたいとしている。
 同社では 「チケット・セゾン」の「特電」のためにフリーダイヤルを数百回線用意しているが、番号は 10確保しており、目的別に振り分けて使用している。 NTTテレマーケティング(株)の 5 つのセンターに設置された数十台の予約端末は、専用回線と、バックアップ用のINSネットでホストコンピュータと接続されている。
 この予約端末にも改良が加えられた。レスポンスがスピーディになったため、顧客を待たせる時聞が短縮。「特電」の平均通話時間は約 3 分であるという。また、興行情報をジャンル 、日付 、会場などさまざまな切り口で検索できるようになり、顧客サービスの向上が実現した。

チケット・セゾン

メディアミックスで、リレーションシップを強化

 チケットの発売情報は、さまざまなメディアを通して告知される。
 ひとつは読売新聞、朝日新聞、東京新聞紙上に定期的に出稿している広告。 2つ目が関東エリアで隔週土曜日の読売新聞朝刊に折り込まれ、またファミリーマート各店の店頭でも配布される、新聞と同仕様4 ページの「よみうりアートゾーン」。 3 つ目が「チケット・セゾン メンバーズ」会員に送付するほか、主要書店で販売されている情報誌 「TICKET JACK」 。 また、ファミリーマート店頭でも、ポスターやチラシなどで、チケット発売情報を提供している。
 そのほか、フジテレビの深夜番組「P-STOCK」やTBS の同じく深夜番組「BLITZ INDEX」の番組中でアーティスト自身がイベントの内容を紹介、そのチケット予約を当日朝 5時まで受け付けるといった試みも行っている。
 チケットの購入方法は、全国に 254 カ所ある「チケットセゾン」のチケットカウンターに直接出向くか、まず電話で予約を済ませるかの2通りがある。予約をした場合には、チケットカウンタ一、あるいは全国に約 3,000店あるファミリーマートの店頭で予約番号を告げ、チケットを受け取る。郵送料を別途支払えば、郵送してもらうこともできる。

 (株) SS コミュ ニケーションズが組織している 「チケット・セゾン メンバーズ」の会員は、現在約 15 万人。この会員は、 一般発売日より 1 日早いチケット先行予約を利用することができ、そのスケジュールと受付電話番号は、毎月送付する「TICKET JACK」誌上で案内している。入会金は 500 円( 「セゾンカード」会員は無料)、年会費は税込みで 3,300 円だ。
 興行チケットは限られた席数分しかない、パイの決まった市場。 ほぼ100% を仕入れ商品に頼っているため、利幅が薄い上に、商品そのもので差別化を図ることは難しい。しかも大手興行主が自ら予約受付業務を開始するなど、年々競合は激化している 。
 このような中で、同社ではフリーダイヤルの導入でサービス面で他社との差別化を図ると同時に、既存顧客を組織化してリレーションシップを強化することによって、売り上げの維持・拡大を実現しようとしているのである 。

雑誌B

「チケット・セゾン メンパース」会員に送付する会員誌『TICKET JACK』と会員特典などが記載されたパンフレット

アウトソーシング拡大で顧客サービス向上を実現

 同社では今後さらに、テレマーケティング業務のアウトソーシングを進めていきたい考え。業務の効率化、コスト削減と同時に、テレコミュニケーションのプロが応対することによってサービスの向上が実現できるからだ 。
 同社ではチケットカウンターやファミリーマートからの問合せ対応窓口を、年中無休で午前 10時から午後9時まで開設しているが、「特電」の次はこの業務をアウトソーシングに移行する計画だ。次いで東京センターの「通常電話」をアウトソーシングし、これらが軌道にのれば札幌、名古屋、大阪の各センターの業務も徐々に外注化していきたいという 。
 「通常電話」は現在、東京と大阪がそれぞれ約 100 回線、札幌と名古屋がそれぞれ数十回線を使用している。ピークは午前10~12時と、午後4~6時。問合せの電話が多いため、平均通話時間は約 6分と、「特電」 の倍。業務そのものもより煩雑であるが、チケット発売情報のデータベース化が完了している今、アウトソーシングは難しいことではない 。
 フリーダイヤルについても、効果を見ながら活用範囲を広げていきたい考えだ。導入の効果測定にはもう少し時間を待たねばなるまいが、他社の追随により「チケット予約はフリーダイヤルで」が当たり前の時代が近々やって来る可能性もなきにしもあらず。そうなれば、利用者にとっては嬉しい限りである。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年10月号の記事