DMW東京300回記念イベント:ダイレクトマーケティングの歴史に未来へのヒントを学ぶ 第二部③「歴史から学ぶべきことは」

2016年7月23日
今日は前回のコラムに引き続き、去る4月15日に開催されたDMW東京300回記念イベント「ダイレクトマーケティングの歴史に未来へのヒントを学ぶ」における私の講演をご紹介させていただきます。前回のコラムでは、プレゼン用パワーポイントで「これまでの歴史を振り返ってみよう!」としていた本講演の主要コンテンツとも言うべきパートをご紹介しましたが、今回の内容はこれに続く「歴史から学ぶべきことは」というパートになります。

前回のコラムでは、ダイレクトマーケティングのプレイヤーが広がると共に、その活用領域が通信販売からプロモーションをはじめとするこれ以外の領域へと広がり、今日では「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われるようになってきたこと。その展開方法においては、テクノロジーの進展に伴い、販売チャネルとマーケティング・コミュニケーションの両面にわたってオフラインからオンラインへのシフトが進むとともに、大量のデータを即時に分析し、これに基づくマーケティング・オートメーションが展開されるようになってきたことを述べました。

さて、ここで改めてダイレクトマーケティングの特徴を振り返ってみると、以下の5点を挙げることができます。
①メディアを活用して、場所に縛られずにビジネスが展開できる。
②不特定多数(マス)を十把一絡げにするのではなく、一人ひとりの顧客に適した商品やサービスの提供を推進できる。
③レスポンスを発生させることで、投資対効果が測定できる。
④顧客データベースに基づき、一人ひとりの顧客との継続的な関係を構築できる。
⑤テストを積み重ねることで、マーケティング活動の最適化を推進できる。

つまり、インタラクティブなマーケティングであるダイレクトマーケティングは、換言すれば“顧客への洞察に基づく売れる仕組みづくり”であり、モノや情報の充足に伴う生活者のパワーの増大、人口の減少に伴う国内マーケットのダウンサイジング、オフラインとオンラインを入り交えての競争の激化といった、現代を生きる企業が直面する課題を解決するための処方箋の1つと言えるでしょう。こうした中、昨今では、ダイレクトマーケティングという言葉を用いるか否かは別として、Web系、オムニチャネル系、ビッグデータ系、コールセンター系、B2B系など、従来とは異なるさまざまな立ち位置から、さまざまな言葉を用いて、これにかかわる議論が展開されています

例えばある広告会社では、新入社員にダイレクトマーケティングについて説明するに当たって、「見える化」という言葉を使用しているそうです。確かにダイレクトマーケティングは、顧客から直接的に注文・来店・リードなどのレスポンスを獲得することで、マーケティング・コミュニケーションの投資対効果を「見える化」します。また、個々の顧客の購買履歴やコンタクト履歴を蓄積・分析することで、個客の「見える化」にも寄与。さらには、テストを積み重ね、PDCAサイクルを回し続けることで、マーケティング活動のプロセスを「見える化」することもできるでしょう。

また過日、私が参加したとあるWeb関連のイベントでは、「マスからデジタルへ」という掛け声がかけられていました。これを聞いた私は、今から30年ほど前、ダイレクトマーケティングの先駆者たちが「マス(マーケティング)からダイレクト(マーケティング)へ」という掛け声をかけていたことを思い出し、“ダイレクト”を“デジタル”に差し替えただけのこの言い回しに既視感を禁じ得ませんでした。このことは、Web系の世界では、ECはもちろん、O2O(Online to Offline)などプロモーション領域においても、ダイレクトマーケティングが多用されているにもかかわらず、“ダイレクトマーケティング”という言葉のバトンが必ずしも受け継がれていないということを示していると言えるでしょう。

これらはほんの一例に過ぎず、昨今ではダイレクトマーケティング的な取り組みが、それぞれの立ち位置、すなわち業種や部署の文脈に則した言葉を用いて、分野を越えてシンクロするかのように展開されています。こうした現象こそが「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われる由来であり、換言すれば、企業環境の変化に伴いマーケティング活動が“売り手中心”から、“顧客中心”へとシフトし、“顧客への洞察に基づく売れる仕組みづくり”が求められてきていることの証左とも言えるでしょう。

ところで、前出のWeb関連のイベントではもうひとつ、「デジタル・マーケティングに“レ点”を打つ」ということが提唱されていました。これはすなわち、デジタル・マーケティングそのものが重要なのではなく、マーケティングをデジタル化していくという発想が重要だということ。そこで私が思い出したのが、以前のコラムでもご紹介した、米国のダイレクトマーケティングにかかわる団体であるDMA(Direct Marketing Association)の名称変更を巡る経緯です。

DMAの名称は、1917年の設立時点ではDirect Mail Advertising Association(DMAA)だったものが、その後1973年にはDirect Mail Marketing Association(DMMA)に、そして1982年に現在のDMAへと変更されています。つまり、ダイレクトメールの活用方法を研究するといういわば“メディアありき”からスタートしたDMAは、設立から60余年を経て、名称に冠したMailを外したのです。Web系のイベントで提唱されていた「デジタル・マーケティングにレ点を打つ」もこれと同様に、インターネットの普及から20年を経て、Webの世界も、“メディアありき”“テクノロジーありき”から、“マーケティングありき”に変わってきていることを示していると言えるでしょう。

「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われる昨今では、“ダイレクトマーケティング”という言葉を耳にする機会はむしろ減少しているかのように見受けられます。加えて、メディアやテクノロジーは日進月歩の勢いで進化しています。しかし、いくらメディアやテクノロジーが変わろうとも、“顧客への洞察に基づく売れる仕組みづくり”の本質は変わることはありません。こうした中、今日のマーケターにとって、新たなメディアやテクノロジーへの対応力を強化する一方で、これまでのダイレクトマーケティングの成功&失敗事例に学ぶことには、大きな意義があるのではないでしょうか。

以上、今回は、「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われる現状を概観すると同時に、ダイレクトマーケティングの歴史から学ぶべき点をまとめてみました。何かお気づきの点がありましたら、こちらよりご遠慮なくご指摘ください。なお次回は、私の講演の最後のパートである「③そして、残された課題は?」をダイジェストしてご紹介する予定です。