生活者サイドから見たカスタマー・エクスペリエンス考

2015年10月15日
Webサーバのお引越しをなんとかクリアし、「インタラクティブ☆マーケティングまとめサイト」を公開して2週間。今度は私自身のリアルな引っ越しが目前に迫っており、このところ引っ越し会社はもちろん、通信会社や、家具や照明器具のメーカー/小売業のWebサイトをチェックしたり、コールセンターに問い合わせをしたり、ショールームに出向いたりする機会が増えています。そこで今日は、こうした商品・サービスの購買プロセスを通して私自身が経験したことを、1人の生活者の立場から考えてみました。

生活者による商品・サービスの購買プロセスの変化については、電通が「AISAS」を提唱しはじめたのが、もはや10年近く前のこと。その後も「ショールーミング」や「オムニチャネル」など、これにかかわるさまざまなキーワードが話題になっています。普段は“フツーの生活者”とは言い難い日々を過ごしている私は、今回の経験を通して久々に思いっきり“フツーの生活者”に浸ると共に、これらのキーワードが示しているように、インターネットの進展により、生活者の購買プロセスがいかに変容しているかを改めて実感することになりました。

今回のケースでは、購入希望商品があらかじめ明確なだけに、AISASのAとIは飛び越えて、購入希望商品をネットで検索するSのプロセスからスタート。例えば収納家具であれば、家具販売店のWebサイトで検索して希望の商品を絞り込み、コールセンターに詳細を問い合わせた上で申し込み。ソファなどで現物を確認したい場合には、コールセンターにその商品を展示している店舗を問い合わせ、実際に店頭を訪れて色などを確認した上で購入を決定。

一方、照明器具であれば、照明に特化したECサイトで好みの商品を絞り込んだ上で、メーカーの製品サイトで詳細をチェック。さらにはメーカーのコールセンターに電話で問い合わせた上で、ショールームに足を運んで現物をチェックすると同時に、使い勝手を確認してから購入商品を決定。最後に、その商品を取り扱っているECサイトや店舗の価格を比較した上で、購入店を決めるといった具合。

購買プロセスにインターネットやコールセンターを多用しているのはもちろん、無意識なうちに、かなり“オムニチャネルな生活者っぷり”を発揮していたことに、我ながらびっくりさせられました。

また、そのプロセスで私自身が利用した、Webサイトやコールセンター、店舗、ショールームといった顧客接点のサービス品質についても、いろいろと考えさせられるところがありました。

まずECサイトでは、同じ家具のECと言っても、商品スペックの詳しさもサイトにより異なれば、「ソファ」など商品カテゴリーでの検索時に、色、サイズ、価格帯、付加機能など、どこまで細かい条件を加えられるかにもバラつきがあり、希望の商品が見つからなかったり、見つかってもスペックが不足していたりするケースでは、サイトを見ながらコールセンターに電話をかけることに。また照明器具メーカーの製品サイトについても、その力の入れようは企業によりさまざま。1人の生活者としてこれらのWebサイトを利用しただけでも、その企業がいかにカスタマー(ユーザー)・エクスペリエンスを考えて設計しているかがこんなにもわかるものかと、改めて驚かさせられました。

そしてコールセンターについては、素晴らしいところもあれば、“がっかり”を飛び越えて、「この会社で二度と買い物なんてするもんかっ!」と思わせられるケースも・・・。私がインターフェースの設計という観点から「いかがなものか?」と思ったのは、「〇分経ってもおつなぎできない場合は、電話を切らせていただきます」「ただいまおつなぎできる電話を探しております」といった自動音声のアナウンス。中でも後者については、“私は電話と話したいのではなく、人間と話したいのだ”と、心の底から怒りが湧き上がってくることに。このアナウンスの後に電話に出るオペレーターは、ハナっから怒り狂った客を相手にしなくてはならないわけで、可愛そうすぎますよね。

もちろん、オペレーターの対応についても、まさに玉石混淆。私の場合、反応が妙に遅かったり、やたら企業目線での受け答えだったりするとイライラしてしまうのですが、こちらは企業によるバラつき以上に、個人によるバラつきが大きいように感じられました。とある通販会社の受注のコールセンターでは、比較的シンプルな業務だけに初期研修に時間をかけていないからなのか、商品・サービス知識に乏しく、他人(社)事ながら頭を抱えたくなるようなスタッフとのやりとりも経験。収納家具を取り扱っている通販会社のオペレーターなのに「納戸」という言葉を知らなかったり、「こんなサイズの収納家具はないか」という問い合わせに、「私どもでは取り扱っていないと“思われます”」という曖昧な対応で済ませようとしたりするのは、勘弁してほしいですよね。

そして最後に店舗。こちらは大手家具販売店2店舗ほどに足を運んだのですが、そこではとにかく店員によるサービス品質の違いにびっくりさせられました。Webサイトやコールセンターで用事を済まさず、わざわざ家具店の店舗に足を運ぶ客は、(その店舗で購入するかどうかは別として)商品自体の購入意志はかなり固まっているはず。そこで商品知識の不足をごまかすような接客を行うか、顧客の使い勝手を踏まえたアドバイスができるかでは、顧客満足という意味ではもちろん、購買への転換率という意味でも天と地の開きがあるに違いありません。

以上、引っ越しに伴う個人的なショッピングの話を披露しましたが、私自身、この体験を通じて、個々の顧客接点におけるカスタマー・エクスペリエンスはもちろん、生活者がさまざまな顧客接点を渡り歩く今日では、顧客接点を越えたシームレスなカスタマー・エクスペリエンス、すなわちオムニチャネル環境の実現が待たれていることを痛感しました。オムニチャネルについては、月刊『アイ・エム・プレス』2013年9月号でも特集しましたが、いわばこれを自らの買い物を通して、追体験した格好です。

※リアルな引っ越しに伴い、次回のコラムは月末近くになる見込みです。<汗>