ルディー和子さんの新刊『合理的なのに愚かな戦略』を読んで

2014年10月26日

立命館大学大学院経営管理研究科教授であり、セブン&アイ・ホールディングスの社外監査役も担っておられるルディー和子さんの新刊が日本実業出版社より発行された。タイトルは『合理的なのに愚かな戦略』。優良企業の合理的な戦略が失敗する真の原因は、「組織のあり方」や「意思決定者の認知構造」にあるとして、日本企業が陥りがちな誤りを、ソニーや資生堂、吉野家など多くの名だたる企業の事例を交えて解説している。

本書は、以下の6章から構成されている。
第1章 顧客志向の逆説
    「顧客志向」と「売上」との相関関係は低い
第2章 プライシングの逆説
    「勇気」がなければ価格は変えられない
第3章 ブランドの逆説
    過去の成功がもたらした「しがらみ」がブランドをつぶす
第4章 コミュニケーションの逆説
    日本企業がコミュニケーション下手な本当の理由
第5章 経営戦略の逆説
    会社組織には「規模の経済」は通用しない
第6章 イノベーションと幸福の逆説
    幸せを感じるために敢えて小さな企業で働く
各章のタイトルには、いずれもそそられるテーマが並んでおり、すぐにでも読みたい衝動にかられる。それぞれを著者の広範囲にわたる知識を総動員して解説しているだけに、前著である『ソクラテスはネット上の“無料”に抗議する』同様、一般的なビジネス書としてはやや難解な面があることは否めないが、各章の終わりにその章のまとめ的なコラムが掲載されているので、著者がその章で伝えたかったことを再確認した上で読み進めることができる。
本書はいわば、日本のビジネス・パーソンがおぼろげながらも抱いているであろう疑問への回答を、著者が大量の出典を紐解きながら、丹念に整理していった力作である。読者は、単にビジネスにかかわる知識を広げるだけではなく、かねてより抱いていた疑問を整理したり、自分自身が抱えている課題を明確にしたり、それぞれが置かれた状況に応じてさまざまな読み方ができるだろう。
中でも第5章と第6章では、著者のこれまでの書籍ではあまり触れられていない領域をカバー。以前から著者の本に慣れ親しんでいたマーケティング担当者のみならず、日本企業のこれからに関心を持つビジネス・パーソンに広くお勧めしたい一冊である。