ソーシャルメディアの死 !?

2011年12月18日

昨日、月刊『アイ・エム・プレス』の2月号(2012年1月25日発行)に掲載する
米国・eマーケティング・ストラテジー社代表のルス・P・スティーブンスさんの連載
「米国におけるソーシャルメディア・マーケティング最新事情」の
翻訳をチェックをしていて、「おーっ!」とびっくりしたことがある。
2月号のテーマは「ソーシャルメディア 2012年予測」。
2012年のソーシャルメディア・マーケティングに関する6つのトレンドを掲げ、
各々の解説を行っているのだが、
その最後に“ソーシャルメディアの死”が掲げられていたからだ。
もちろん、全体的には、ソーシャルメディア・マーケティングの
さらなる発展と進化が見込まれるというトーンの記事なのだが、
著者はそうした中で「ソーシャルメディアはもはや特別なものではなくなり、
すべてのデジタルメディアは、さらにはすべてのマーケティングは、
実はソーシャルなものであると理解されるようになってくる」としている。
そして原稿の最後には、Sapient社のデジタル戦略ディレクターである
フレディ・レイカ-氏による、“2012年、米国のマーケター達は、
もはやソーシャルメディアについて語り合っていたりはしない。
ソーシャルメディアを含めて、単にデジタルメディアと呼んでいる”
ことを期待するとの主旨のコメントが引用されている。
私がこれを読んで「おーっ!」と思ったのには、3つの理由がある。
1つはもちろん、“ソーシャルメディアの死”という
エキセントリックな言葉に度肝を抜かれたからだが、
2つ目は、前出のスティーブンス氏の記述を読んで、
これはどこかで聞いたことがあるというデジャ・ヴュ感を持ったから。
そして3つ目は、私自身、かねてから疑問に思ってきたことに
スティーブンス氏の賛同が得られたような気がしたからだ。
2つ目のデジャ・ヴュ感については、過去を振り返ってみると、
ダイレクトマーケティングを巡るシーンと類似しているのだと思い至った。
ルス・スティーブンス氏の以前の連載「世界のダイレクトマーケティング」では、
氏の友人である世界各国のダイレクトマーケターが同様の意味で
“ダイレクトマーケティングの死”を語っていたし、
私自身も数年前に使用した講演用のパワーポイントに、
「今やあらゆる企業がダイレクトマーケターに!!」というページを設け、
メーカーや金融、店舗小売、サービスなどの
ダイレクトマーケティングへの取り組みを紹介したことがあった。
この“ダイレクトマーケティングの死”と“ソーシャルメディアの死”は、
ダイレクトマーケティング、ソーシャルメディアのそれぞれが進展し、
企業のマーケティング施策のあちこちに組み込まれるようになると同時に、
それが他のマーケティング構成要素と統合されることで、
どれがダイレクトマーケティングで、どれがそうでないのか、
どれがソーシャルメディア・マーケティングで、どれがそうではないのかの
識別が困難になってくるような状況を意味している。
ダイレクトマーケティングがそうした状況になるのに
何十年(日本では二十余年ぐらいか)という年月を要しているのに対し、
ソーシャルメディア・マーケティングの歩みの速いこと、速いこと・・・・。
日本でこの言葉が使われるようになったのは、つい1年前ぐらいのことだと思うが、
米国では、すでにその“死”が取りざたされるまでに普及したのだ。
そして3つ目の、「私がかねてから疑問に思ってきたこと」というのは、
ソーシャルメディア・マーケティングについて、
中でも特にソーシャル・コマースについて考えていると、
何がソーシャル・コマースで、何がそうでないのかが、
頭の中で混乱を来たすということ。
つまり、コマース=商売の原点を振り返ってみると、
それはソーシャルであったに違いないと思えてくるということだ。
幼い頃、東京にあった私の実家には、
朝採りの野菜や、手作りのお餅や豆類などを詰め込んだ大きな籠を背負って、
農家のおばさんが定期的に行商にやってきたものだ。
母は、毎週何曜日に行商のおばさんがくるというスケジュールを踏まえて
日々の食品の買い物に出かけていたし、時にはおばさんにリクエストも出していた。
例えば母が「今日は○○はないの?」と尋ね、
たまたまおばさんがその商品を持参していないと、
「次回は必ず持ってきます」といった会話がなされていたのである。
あるいは八百屋の店先でも、お客さんとの間で類似の会話が交わされていただろう。
こうした古き良き時代を振り返ると、商売とはそもそもソーシャルなもの
という思いが脳裏をかすめ、ソーシャル・コマースとは何かを
私自身の腑に落とし、自分なりの定義を試みるのに支障を来たしていたのだ。
そうした中、「すべてのデジタルメディアは、さらにはすべてのマーケティングは、
実はソーシャルなものであると理解されるようになってくる」という
スティーブンス氏の指摘は、私にとってはまさに言い得て妙であり、
なんだか少し、安心した気持ちになれたのである。
eマーケティング・ストラテジー社 代表 ルス・P・スティーブンスさんの
連載「米国におけるソーシャルメディア・マーケティング最新事情」は、
今回、ご紹介した2012年2月号(1月25日発行)で11回目を迎える。
本日時点での最新号である2011年12月号のテーマは、
「マーケターに変化を迫るソーシャル・カスタマーの厳しい要求」。
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