コンテンツの在庫

2005年1月8日

毎年、お正月には、ビデオを借りて、普段は見ない映画をまとめて見ることにしている。昨年は自分で選んで失敗したので、今年は毎日寝る前に15分ずつ映画を見るという変な映画好きの友人に、私の好みに合いそうな作品を6点、選んでもらった。
駅前のビデオ屋に行き、カウンターで5点のリストを差し出すと、お兄さんがPOS端末を叩いて調べてくれる。けっこうな時間がかかるが、ひとまずこれで6点のうち2点はその店では品揃えしていないことが判明。その後、お兄さんは残りの4点の在庫を求めて店内を探し回り、待っても待っても戻ってこない。そして15分も過ぎた頃だろうか。4点のうち3点を持って私の待つカウンターに戻ってきた。1点は貸し出し中なのだという。ここまでで所要時間約20分強。
暮れには、前から欲しかったかなりマイナーなブルースのCDを求めて、レコード屋(今はCD屋というのだろうか?)に行った。ブルースのコーナーをさくっと見ても当然見当たらないので、カウンターのお兄さんに在庫の有無を尋ねると、POS端末を叩いて「中古ならあります」との返事。本当は新品が欲しかったのだけど、すぐに聴きたかったので、中古でもいいと思い直して、お兄さんに在庫を探してもらう。待つこと15分。在庫は一向に見つからない。そしてお兄さん曰く、「中古は、持ち合わせのないお客さんが、後で買おうと隠しちゃったりするんですよね~」。
前者のビデオ屋、後者のレコード屋ともに、せっかくPOS端末を叩いても、わかる情報は不完全。後者はデータ上の在庫と実在庫の不一致だが、前者はそもそもPOS端末を叩いたところで、取り扱いの有無はわかっても在庫の有無(レンタル中か否か)はわからない仕組みだ。顧客にとって、こうしたコンテンツは、すぐに見たい、すぐに聴きたいといったニーズが高いもの。店頭で散々待たされた挙句、(POSデータ上はあったものが)ありませんでしたというのは、ずいぶんではないだろうか。
同じコンテンツでも本屋の場合はどうか。今はマニアックな本はネットで買うようになってはいるが、ちょっと前までは、マニアックな本を買うときには、「在庫、ないだろうな~」と思いながら本屋に行ったものだ。で、店員に確認して在庫がないとなると、「やっぱりな~」と、残念ではあるものの、(勘が当たったという意味で)ちょっと勝ち誇った気分にもなったものだ。振り返ってみれば、本屋の場合は、マニアックな本は店頭にはなく、注文すると2週間とか3週間とかかかるのが当然という文化が、長年の間に培われていたのだと思う。
ドッグイヤーと言われる今、ビデオにせよCDにせよ本にせよ、思い立ったが吉日、すぐにでも見たい、聴きたい、読みたいという気分は、私たちの中でますます大きくなっている。しこうして、書籍・CD・ビデオのECは急成長。インターネットによるコンテンツのダウンロードや、衛星放送のペイ・パー・ヴューも、ますます加速していくだろう。
しかし、だからと言って、書店やビデオ屋、レコード屋が街から姿を消すとも思えない。面白い新刊がないかなとふらっと本屋に立ち寄る。今晩映画でも見ようかと駅前のビデオ屋に立ち寄る。CD屋を通りがかったついでに、前々から気になっていたCDを購入する。そんなニーズは、いくらインターネットが普及しようと変わることはないからだ。
もちろん、店頭の品揃えには限りがあるから、そのこと自体をとやかく言うつもりはない。しかし、少なくとも店頭在庫、それもPOSデータ上、店頭にある「はず」の在庫ではなく、実際に私たちが買える、借りられる在庫の有無を、リアルタイムに答えられる体制を採って欲しいものだ。ICタグなどの技術が普及しつつある今日、そうした体制は、もはや手の届くところに来ているのではないだろうか。