こだわりのオリジナルTシャツ制作記

2014年9月15日

昨年来、CRM(Customer Relationship Management)の分野では、“カスタマー・エクスペリエンス(CX)”という概念がブームとも言える様相を呈している。店頭やコールセンター、Webサイトなどの顧客接点で、お客さまにいかに優れた体験を提供するかに注目が集まっているのだ。そんな中、過日、オリジナルのTシャツをオーダーするにあたって、素晴らしい買い物体験をしたので、はなはだ個人的なことではあるが、ここにご紹介しようと思う。
30年に渡り生活を共にしてきたオウムのよーちゃんが急逝して、もうすぐ1年・・・。亡くなった当時、フラワー・アレンジメントや、大好きだったフルーツを送ってくれたり、遺影に手を合わせに我が家を訪れてくれたり、偲ぶ会を開催してくれたりと、よーちゃんを知る多くの友人たちが故人ならぬ“故鳥”を偲んでくれたのだが、生来のものぐさな性格に加え、仕事が多忙だったこともあり、何のお返しもできないままに、1年が過ぎようとしていたのだ。そこで、これは一周忌を迎える前に何とかせねばと重い腰を上げ、以前から考えていたよーちゃんの写真をあしらったオリジナルTシャツを作成。これを友人たちへのお返しとして送ることにした。

遠方に住む友達の1人から送られた、フラワー・アレンジメント

「オリジナルのTシャツを作るなら、ネットで頼めばいい」。今ではこれが、多くの人々の“常識”なのかもしれない。しかし私の場合、そもそも通信販売はあまり利用しないし、ましてやオリジナルのギフトだけに、現物を確認せずに相手先に送るのには抵抗があった。加えて、イラストレーターやフォトショップなど触ったこともない、どちらかというとITは苦手な私が、サイト上で写真や文字を自分の思い通りにレイアウトできるかにも不安を感じていた。
そこで下北沢や原宿など若者向けのショップが立ち並ぶ街を通りがかるたびに、オリジナルTシャツを作ってくれるところはないかとさりげなくチェックしていたのだが、それも見つからぬうちに、気づけばよーちゃんが亡くなって10カ月が経過しようとしていた。一周忌まではあと2カ月しかない。若干、焦りはじめていたある日、ファッション通の友人にそのことを話したところ、原宿のキャットストリートにオリジナルTシャツの専門店があるという耳寄りな情報を仕入れることができた。
翌週、原宿での友人との会食の後、すでに20時を少し回っていたものの、思い切ってキャットストリートに足を伸ばしてみた。その時には店の名前さえもわからなかったのだが、表参道からキャットストリートに入り、渋谷方面に100メートルぐらい進むと、右側にそれらしき店が佇んでいた。すでに閉店してシャッターが半ば閉まっていたものの、中に人がいる様子が見て取れたので、ドンドンとシャッターをたたくと、女性スタッフが入り口にやってきて、20時で閉店したことを伝えると同時に、オリジナルTシャツの価格や作成手順を記したリーフレットを手渡してくれた。

原宿はキャットストリートにあるオリジナルTシャツ専門店
「JANNU-2」 は、1986年にキャットストリートにオープンしたとか。
30年近く前ということは、同ストリート再開発の草分けなのだろうか

数日後の昼休みに再びショップを訪れると、今度は店長らしき男性が対応してくれた。手順の説明を受けた上で購入するTシャツのブランドと色・サイズを決め、画像は後日、メールすると伝えると、「店内で一緒にデザインしたほうが好みのモノができるから」と、データ持参で再来店することを薦められた。その時には正直、「またこの店に足を運ぶのか・・・」と迷ったが、そこはよーちゃんがお世話になった友人たちへの大切なギフト。納得のいくモノを作ろうと出直すことを決め、画像データを収めたUSB持参でその日のうちに再度ショップを訪れた。

店内に置かれたTシャツの数々。
たくさんのブランドの中から、好みや予算に合わせて、
希望のタイプを選択することができる


Tシャツのほか、トレーナーやバッグなどが
所狭しと並べられた売り場の反対側は、
さながらTシャツ工房のような造りになっている

そこでのオリジナルTシャツの制作工程は、写真のサイズやトリミングから、文字の位置やフォントの種類に至るまで、カウンターの向こうにあるMacの巨大なディスプレイで確認したり、スタッフにアドバイスを求めたりしながらの、まさに客である私が納得できるモノを作るためのプロセスだった。デザインができあがると、今度はこれを紙に出力し、実際のTシャツの上にあてがって、全体イメージを確認した上で画像の位置を決定。最後はオリジナルTシャツのイラストと共に仕様が記された注文請書をもらい、内容を確認すると、ようやくその日の工程が終了した。

カウンターの向こう側にはMacの大きなディスプレイがずらり。
まずは画像をもう少し右だ左だと懇切丁寧にトリミング。
画像の扱いが確定すると、次は文字を入力。
フォントのイメージを伝えると、10種類ぐらいの候補が提示され、
そこから好みのものを選択して、希望の位置に配置してもらった


デザインが終了したら、プリンタ出力。
これをTシャツの上にあてがって、おおよその全体像を把握。
通常サイズの場合、画像は首周りから7センチ下が基本とのことだが、
Lサイズについてはやや下目に位置を調整


オリジナルTシャツのイラストと共に
仕様が記されたB4サイズの注文請書。
注文番号、担当、納期、品番、数量、価格などに加えて
詳細仕様がイラスト入りで記されているので安心できる

それから待つこと約1週間。ある日、オリジナルTシャツが完成したとショップの女性スタッフからケータイに電話が入った。連絡を受けた私は心待ちにしていただけにもちろん嬉しいのだが、彼女も自分のことのように嬉しそう。そしてそのことが、私の嬉しさをさらに増幅していく。仕事柄、コールセンターにおける顧客対応のことを思い出したりしながら、“お客さまの立場に立つこと”の重要性を改めて痛感させられた。
その数日後、仕事帰りに完成したオリジナルTシャツを受け取ろうと勇んで店に立ち寄ると、店長が私の顔を見るや否や完成したTシャツを店の奥から取り出してきて、受け取りカウンターの上にドサッと音を立てて置いた。まずはデザインを確認。次にSが何枚、Mが何枚、Lが何枚と一緒に検品した上で、その場でキャッシュで代金を支払い。一連の買い物プロセスがようやく終了することになった。

完成したオリジナルTシャツ。
持参した数点の画像の中から、プロの意見を参考に選んだ1枚に、
よーちゃんの名前とafricangreyという種名を表す英語を記した

それから数日が経過したある日、折しもオリジナルTシャツ作成サイト「tmix」を運営するspocelifeから、「オリジナルTシャツはスマホで気軽に作る時代」と題したリリースが届いた。これによると、今や「tmix」では、半数近くのユーザーがスマホでオリジナルTシャツを作っているとのこと。しかも、自分や友人・家族のために、気軽に少ない枚数を制作する人が増えているらしい。
そうなのか。今や若者はパソコンじゃなくてスマホでサクサクとオリジナルTシャツを作るのか・・・。対する私は、何度も店に足を運んで、時間と手間をかけてこれを制作したわけだが、手間がかかればかかった分だけ、完成した時の嬉しさもひとしお。私には、この店を探すところからはじまって、店のスタッフと一緒になってTシャツをデザインするプロセス、そして完成を待つプロセスに至るまでが、何にも増して幸せな時間に感じられた。
冒頭でCXについて触れたが、これは標語に掲げるのは簡単でも、実践するのは容易ではない。その理由のひとつは、求められる体験が個客によってさまざまだから。ビッグデータ分析やマーケティング・オートメーションによりある程度のところまではクリアできたとしても、最後の最後はやはりヒトの力がモノを言う。究極のCXは、個客との共同作業によってはじめて完成する。私にとっては大切なオリジナルTシャツの制作を通して、改めてそんなことを考えさせられたのであった。

友人たちには、それぞれにレターを添えて、
プチプチのついた封筒でTシャツを発送した。
唯一の失敗は、この封筒を普通の文房具屋さんで購入したこと
後日、確認したところ、100円ショップでも類似のものを販売していた