「顧客との絆」が事業資源である時代に大切なこと

2012年1月22日

毎年のことながら、仕事始め早々の月刊『アイ・エム・プレス』
2月号(1月25日発行号)の入稿~校正作業などがあり、
2012年になってブログを更新しない間に1月も後半に入ってしまった。
そんな中、いくつかの業界団体の賀詞交換会/新年会にも参加した。
その中のひとつである、(社)消費者関連専門家会議(ACAP)の
賀詞交換会に先駆けて行われた新春講演会はなかなか面白かった。
講師は、日経MJのコラムでもおなじみの、オラクルひと・しくみ研究所
代表 博士(情報学)の小阪裕司さん。
演題は、「今、『顧客との絆』が事業資源である時代に大切なこと」。
私自身は、小阪さんのお話をお伺いするのは2回目で、
1回目はもうかれこれ10年近く前にダイレクトマーケティングの勉強会で
通販におけるオファーと人間の心理にかかわるお話をお伺いしたと記憶している。
今回の講演は、大きく以下の3つのパートから構成されていた。
①今日の消費者はなぜ、どのように「買いたい!」と思うのか
②顧客との絆はどのように育まれ、なぜ事業資源となるのか
③顧客対応部門の担う役割と新たなビジネスの可能性とは
まず①では、今日の消費行動は、“心の豊かさが得られるなら買う”という
Being消費(Havingでも、Doingでもなく、Being)が主流をなしている。
これに伴い、お客さまの望みは抽象的かつ精神的になっており、
企業には、お客さまの感性に働きかける価値創造が求められている。
商品のスペックなどではなく、お客さまの感性に働きかけることで、
はじめてお客さまを動機付け、意思決定をさせ、
「買う」「買わない」といった行動を起こさせることができる。
そして行動を起こす人が増えれば、売り上げが増えるというお考えが披露された。
次に②では、価値創造型企業の成立要件として、
「関係性のマネジメント」「商品の価値化・独自化」「価値の伝達と再創造」
の3つを提示すると同時に、それぞれを相互に連携させることの重要性を指摘。
中でも関係性マネジメント—講演のテーマに掲げた「顧客との絆」にフォーカスし、
「絆づくりの決め手」や、「絆を生み、育むもの」などについての解説がなされた。
例えば後者については、取引価値が満足、そして愛顧意図を生む一方、
差別的価値が情緒、そしてコミットメント、高価格の受容を生むといった具合。
さらに③では、「顧客との絆」という観点から、
顧客対応部門が担う役割の重要性に言及。
「絆づくりがもたらすベネフィット」として下記の7項目を提示し、
講演が締めくくられた。
・顧客の流出率が下がる
・1人当たり購入金額が上がる
・粗利率が高くなる(値引き要求が大幅に減る)
・セールスに対する反応率・成約率が上がる
・紹介・クチコミの新規客が増える
・顧客に、次に何を提供すればいいか、わかるようになる
・仕事が楽しくなる
1時間という限られた時間の中でも充実した講演だったことに加え、
私にとっては非常に共感できる内容だった。
特に「絆づくりがもたらすベネフィット」の1つ目~4つ目が
その顧客本人が企業にもたらす収益のアップに言及しているのに対し、
5つ目では企業に好意的なクチコミの伝播に言及、
6つ目では顧客の声に基づき商品・サービスを改善するVOC活動に言及、
さらに7つ目では従業員のモチベーションにまで言及されているという意味で、
顧客接点に関する最近の議論を多面的にカバーされている点も印象に残った。
小阪さんは、消費者の心のメカニズムがどのような気持ちとして表出され、
これがどのように買い物行動に結びつき、企業に売り上げをもたらすのか、
換言すれば、「心から売り上げ(収益)が生み出されていくシステム」を
専門分野として研究活動を行っておられるとのこと。
約10年ぶりにお話をお伺いして、月刊『アイ・エム・プレス』
テーマと近いところの研究をされていることに改めて気づかされると同時に、
今後の研究成果への期待が高まった。